肯定的映画評論室・新館

一刀両断!コラムで映画を三枚おろし。

『ある子供』、観ました。

2006-08-19 21:45:39 | 映画(あ行)

ある子供 ◆20%OFF!

 『ある子供』、観ました。
定職に就かず、仲間と盗みを働き、その日暮らしをしている20歳のブリュノ。
18歳の恋人ソニアとの間に子供ができるが、ブリュノにはまったく実感がない。
盗んだカメラを売りさばくようにブリュノは子供を売ってしまう…。 
 あの『自転車泥棒』を彷彿させる徹底したリアリズム。劇中にBGMは一切なく、
映画は必要最小限の登場人物と、最低限の台詞だけで構成される。まるで
余分な贅肉をすべて削ぎ落としたような…、そんな映画。ドキュメンタリータッチの
冷めた視点が見透かすように“人のズルさ”を映し出し、鋭く研ぎ澄まされた
洞察力に、観ながら息が苦しくなった。それにしても、映画は“長回し”を効果的に
使う一方で、若い役者達は何故にあんなにも“自然に”演じることが出来るのか?、
紙に書いた脚本通りに何度も何度もリハーサルを重ねて反復させるのか…、
あるいは逆に、細かいことは決めないまま、その場の空気を読みながらの
即行演出なのか……、いずれにしても、今年観た中では最も「緊張感」と
「リアリズム」を感じた一本。さすが、昨年度のカンヌ映画祭を制し、キネ旬で
堂々年間4位にランクされた傑作だ。
 さて、本作主人公のブリュノは、典型的な“今時の若者タイプ”でダラダラ
遊んで暮らたいダメ男クン。年下の不良たちを子分にして、道行く人のバッグを
かっぱらう。すぐに金目(かねめ)のものをリサイクルショップに売り払って
小銭を稼ぐ、その日暮らしのケチなコソ泥稼業。そんなある日、彼に降って
湧いたように子供が生まれ、その子を養子に出せば(人身売買?)大金が転がり
込むことを知る。結局、我が子さえもいつもように売り払ってしまうのだけど、
果たして、それは“お金のためだけ”だったのか??、いや、今回ばかりは
少し違うように思うんだ。多分、彼はまだ“大人”になりたくなかったじゃ
ないのかな。もっと言えば、子供が生まれ、自身が「親」となって背負う“責任
からの逃避”と言った方が良いかもしれない。それまで、定職にも就かずに、
恋人とふざけ合うだけだった彼にとって、時間に縛られ、自由を奪われる、
そして、家庭を守らなければならない“責任”は、耐え難い“重圧”となって
圧し掛かってきたんだろう。だけど、いつまでもそんな自由な生き方を
続けられるはずがない。恋人が…、社会の掟(おきて)が…、彼を許す筈が
ない。だって、「社会」とは“それぞれの責任”の上に成り立つものだから。
映画終盤、警察から逃げ切れたはずの主人公が、捕らわれた仲間のために、
ひとり自首していく決断は、自らが犯した罪に対する“責任の取り方”だったに
違いない。その瞬間(ラストシーンで)、彼は初めてやっと、愚かで子供だった
自身のズルさと、恋人の優しさに正面から向き合うことが出来たんだ。

 



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