肯定的映画評論室・新館

一刀両断!コラムで映画を三枚おろし。

『瞳の奥の秘密』、観ました。

2013-01-29 11:47:51 | 映画(は行)

監督:ファン・ホセ・カンパネラ
出演:リカルド・ダリン、ソレダ・ビジャミル、ギレルモ・フランチェラ

監督:ファン・ホセ・カンパネラ
出演:リカルド・ダリン、ソレダ・ビジャミル、ギレルモ・フランチェラ

 『瞳の奥の秘密』、観ました。
刑事裁判所を退職したベンハミンは、残された時間で25年前に起きた忘れ難い
事件をテーマに小説を書く事を決心し、かつての上司で今は判事補のイレーネを
訪ねる。それは1974年、銀行員の夫と新婚生活を満喫していた女性が自宅で
殺害された事件。当時、渋々担当を引き受けたベンハミンが捜査を始めて
まもなく、テラスを修理していた二人の職人が逮捕されるが、それは拷問による
嘘の自白によってだった…。
 “永遠”となるはずだった愛が、ひとつの悲劇によって脆くも音を立てて
崩れ去る。一方で、その事件を追う男女の、胸に秘めたる恋心が情感豊かに
観る者の胸に迫ってくる。派手さはないが、味わい深い。近年のミステリー
映画では、『ゴーストライター』と並んで最も堪能出来た一本だ。緻密に
組み立てられたプロットと、さりげなく本編に散りばめられた伏線の数々――、
あの時のあの台詞が…、あの時のあのシーンが…、映画終盤で別の意味を
成して蘇り、“それぞれの点”であった出来事が、“一本の線”になって
繋がっていく瞬間は、思わず「あぁ」と驚嘆の声をあげてしまう。この映画は
犯人探しや難解なトリック、如何なる手段で事件を解決させるかを焦点にした
サスペンスにあらず。言ってみれば、誰しも人が生まれながらに持ってしまった
“哀しき性(さが)”について――、人が心の奥に隠し持つ“不変の愛”にスポットを
当て、仕組まれた“大人のミステリー”だ。
 (※以下、ネタバレ。未見の方はご注意下さい。)重複するが、隠された
秘密が明らかになる映画終盤、予想だにしないドラマの着陸地点に愕然とする。
その時、呪文のように頭の中で繰り返され、蘇ってくる言葉は、《終身刑》。
タネを明かせば、そこで男は牢に繋がれていた――。実は、オイラは今回が
二回目の鑑賞だったのだが、ここでやっと気がついた。その牢に繋がれた
男は誰なのか??、ゴメスか‥‥、確かにそれはそれで間違いないのだが、
その男はゴメスであると同時に、実は“我々自身”でもあるってこと。
付け加えるなら、この映画に登場する全ての人物でもあるのだ。被害者の
夫は、25年も前の事件のことが忘れられずに、今もそれを引きずっている。
主人公のベンハミンは、伸ばせば届く愛を怖がって、今もなお逃げたことを
清算できていない。一方、その相手のイレーネは、その後、別の男性と結婚して
家庭を持ったが、以来“空虚な時間”を送り続けている。そう、人間の本質は、
そう簡単には変えられない‥‥。次の一歩が踏み出せず、《自分》という名の
“見えない牢”に繋がれている。考えてみれば、それは観ているオイラ達だって
同じこと。いつまで経っても、どこまで行っても、自分は自分であることを
やめられない。(過去の罪やその人生から)逃れようとしても逃れられない
《終身刑》だ。その、ラストシーンに映る男たちが立場こそ違えど、何故か皆
同じように哀れに見えるのは、きっとそのせいなんだろうな。


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『ダークナイト ライジング』、観ました。

2013-01-14 11:06:49 | 映画(た行)

監督:クリストファー・ノーラン
出演:クリスチャン・ベール、マイケル・ケイン、ゲイリー・オールドマン、アン・ハサウェイ、トム・ハーディ、モーガン・フリーマン

 『ダークナイト ライジング』、観ました。
ジョーカーとの戦いから8年、バットマンはゴッサム・シティーから姿を消し、
ブルース・ウェインは隠遁生活を送っていた。そんな彼の家にセリーナ・
カイルという女性が忍び込み、彼の指紋を盗み出す。彼女に盗みを依頼した
組織が何か大きな計画を立てていると気付いたブルースは、再びバットマンの
コスチュームに袖を通す。その頃、不気味なマスクをつけたベインという男が、
ゴッサム・シティーの地下で大規模テロを計画していた…。
 行き過ぎた正義が行き場を失い、次の瞬間、コインの表裏のように悪へと
変わる。絶望の現実を“偽り”という闇で隠したシリーズ第二作『ダーク
ナイト』――。今更ながら前作は、クリストファー・ノーランならではの
ヒーロー映画だったが、今作『~ライジング』の方は、あえて彼が監督する
までのことがあったかどうか疑問が残る。勿論、全編に漂う重厚感に加え、
クオリティの高さは疑いようもないのだが、テーマが散漫になり過ぎて、
軸となる部分が分かりにくい。人間や社会の持つ二面性については前作で
やり尽くされた感はあるし、絶望の底から希望を見出し、再生していく人生の
物語は、第一作目ですでに語られている。まぁ、三部作の最終章という
立ち位置を考えれば致し方ないのかもしれないが、今作においては新たに
テーマを見い出すよりも、シリーズの完結を第一に、前二作をまとめ上げた
という印象だ。
 今回の舞台となるのは、前作の戦いが終わった後のゴッサムシティー――、
新たに制定された法は危ういまま、英雄として語られる人物はまやかしで、
偽りの勝利によって見せかけの平和を手にした人々は、どこか疑心暗鬼に
なっている。そして、今作だけに限らず、この三部作を通して共通するのは、
物語の背景とダブるように現在のアメリカとイラク戦争の構図が見え隠れする。
本作においてベインの一味が、事の初めにゴッサムシティーの証券取引所を
襲撃したのは、9・11のワールドトレードセンターを連想させるし、彼らにとって
物品の強奪が主の目的ではなく、人々の混乱や世界の再構築の方に
狙いを定めていることからもうかがい知れる。そう考えれば、長い戦いの
ダメージが(体も心も)癒せぬまま、立ち直ろうともがき苦しんでいる主人公
ウェインの姿は、まさに現在のアメリカかもしれない。そこから抜け出すのは
並大抵のことではない。その為にはウェインがそうしたように、内に秘めたる
恐怖を隠すのではなく、己の弱さを自覚し、対峙することで、本当の自分の
姿が見えてくる。そして、その時やっと“再生への第一歩”が踏み出せる。
結果、それまでの恐怖が勇気へ、人々の不信が結束へ――。この三部作
にしては拍子抜けするような手堅い終幕だが、言わんとしている事は分かる。

 


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