監督:クリストファー・ノーラン
出演:クリスチャン・ベール、マイケル・ケイン、ゲイリー・オールドマン、アン・ハサウェイ、トム・ハーディ、モーガン・フリーマン
『ダークナイト ライジング』、観ました。
ジョーカーとの戦いから8年、バットマンはゴッサム・シティーから姿を消し、
ブルース・ウェインは隠遁生活を送っていた。そんな彼の家にセリーナ・
カイルという女性が忍び込み、彼の指紋を盗み出す。彼女に盗みを依頼した
組織が何か大きな計画を立てていると気付いたブルースは、再びバットマンの
コスチュームに袖を通す。その頃、不気味なマスクをつけたベインという男が、
ゴッサム・シティーの地下で大規模テロを計画していた…。
行き過ぎた正義が行き場を失い、次の瞬間、コインの表裏のように悪へと
変わる。絶望の現実を“偽り”という闇で隠したシリーズ第二作『ダーク
ナイト』――。今更ながら前作は、クリストファー・ノーランならではの
ヒーロー映画だったが、今作『~ライジング』の方は、あえて彼が監督する
までのことがあったかどうか疑問が残る。勿論、全編に漂う重厚感に加え、
クオリティの高さは疑いようもないのだが、テーマが散漫になり過ぎて、
軸となる部分が分かりにくい。人間や社会の持つ二面性については前作で
やり尽くされた感はあるし、絶望の底から希望を見出し、再生していく人生の
物語は、第一作目ですでに語られている。まぁ、三部作の最終章という
立ち位置を考えれば致し方ないのかもしれないが、今作においては新たに
テーマを見い出すよりも、シリーズの完結を第一に、前二作をまとめ上げた
という印象だ。
今回の舞台となるのは、前作の戦いが終わった後のゴッサムシティー――、
新たに制定された法は危ういまま、英雄として語られる人物はまやかしで、
偽りの勝利によって見せかけの平和を手にした人々は、どこか疑心暗鬼に
なっている。そして、今作だけに限らず、この三部作を通して共通するのは、
物語の背景とダブるように現在のアメリカとイラク戦争の構図が見え隠れする。
本作においてベインの一味が、事の初めにゴッサムシティーの証券取引所を
襲撃したのは、9・11のワールドトレードセンターを連想させるし、彼らにとって
物品の強奪が主の目的ではなく、人々の混乱や世界の再構築の方に
狙いを定めていることからもうかがい知れる。そう考えれば、長い戦いの
ダメージが(体も心も)癒せぬまま、立ち直ろうともがき苦しんでいる主人公
ウェインの姿は、まさに現在のアメリカかもしれない。そこから抜け出すのは
並大抵のことではない。その為にはウェインがそうしたように、内に秘めたる
恐怖を隠すのではなく、己の弱さを自覚し、対峙することで、本当の自分の
姿が見えてくる。そして、その時やっと“再生への第一歩”が踏み出せる。
結果、それまでの恐怖が勇気へ、人々の不信が結束へ――。この三部作
にしては拍子抜けするような手堅い終幕だが、言わんとしている事は分かる。
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