『ウォーク・ザ・ライン 君につづく道』、映画館で観ました。
1950年代のアメリカ。貧しさから抜け出すためプロミュージシャンになった
ジョニーは、憧れのカントリー歌手ジューンと共演する。日ごと彼女への
思いを募らせるが、ジョニーは既婚者。ジューン自身も離婚の傷が癒えぬまま。
叶わぬ思いから、ジョニーはドラッグへと逃避するようになる……。
時に、たったひとつの言葉が、人を殺すことがある。特に多感な少年期に
付いた“心の傷”は、トラウマとなってその後の人生を大きく狂わせるのだ。
映画は、伝説のカリスマスター、ジョニー・キャッシュの半生を描きつつ、
彼の成功の裏に隠された光と陰…、強いては、少年期に兄を失い、父の心ない
一言によって“心を失った男”の苦悩が浮かび上がってくる。そういえば、
ボクの場合も子供の頃、父から受けた“ある一言”が悔しくて、幼なながらに
人間不信になったことがあるからね。観ながらボクは、当時の事を久方振りに
思い出してしまったよ。更に注目したいのは、今回主人公を演じるホアキン・
フェニックスは、映画の話そのままに、偉大な兄(リヴァー・フェニックス)を
失った“経験者本人”でもあるということ。そう思えば、彼の兄に対する憧れと、
常に比較対象とされ、残された弟としての苦しさが痛いほどに伝わってくる。
彼の口から発せられる一言一言に説得力が生まれ、重みを感じるのは、きっと
そのせいなんだろう。この映画の、この役は、彼以外には考えらない‥‥、
彼のライフワークみたいな映画かもしれないね。
でも一方で、これをラブストーリーとして観てみると、ひとつやふたつは
心に引っかかりを覚える人も多いはず…。まず、主人公はリース・ウィザー
スプーン演じるヒロインの、何処に惹かれて夢中になったのかがよく分からない。
恐らく、少年期に“兄と共に愛したアイドルスターへの憧れ”なんだろうが、
だとしたら、捨てられた奥さんと娘さん達があまりも可哀想に思えてくる。
それから、ヒロインの方もさんざんプロポーズを断わり続けて、どの瞬間に
主人公を愛したのか…、信じられたのか……、ラストシーンを観た限りじゃ、
公衆の面前で脅迫されて、嫌と言えずに泣く泣くOKしたみたいだものね(笑)。
確かにハッピーエンドにゃ違いないが、全てをメデタシメデタシで終わらせる
ほどスッキリはしない。観る人によって賛否の分かれる映画だと思うよ。