肯定的映画評論室・新館

一刀両断!コラムで映画を三枚おろし。

『ステイ』、観ました。

2006-09-25 21:53:41 | 映画(さ行)

ユアン・マクレガー&ナオミ・ワッツの2大スター共演!20世紀フォックスホームエンターテイメン...

 『ステイ』、観ました。
21歳の誕生日の夜に自殺すると予告して姿を消したヘンリー・レサム。その若い
患者を救おうと必死で追いかける精神科医サム。ヘンリーは未来を予言できる
謎に満ちた青年で、何故かサムが握り締めている結婚指輪に興味を抱く‥‥。
 主人公が“精神科医”であるという時点ですでに、『シックスセンス』や
『ビューティフル・マインド』と同じ、「あのサスペンスのパターンだろう」って、
想いを巡らしていた人も多い筈。しかも、神出鬼没の精神分裂症患者に、記憶の
混乱、更に(いつかと同じ)繰り返される出来事や、逆行する時間の謎まで…、
映画を観ていく過程において、いよいよこれが“現実の世界”とは思えない。
例えば『シックスセンス』のように、死者が霊となったのを気付かぬまま見る
“イリュージョン(幻想)の世界”なのか…、それとも、『ビューティフル・
マインド』のように、精神を病んだ患者が自分の頭の中でイマジネーションした
“空想の世界”なのか…、いや、むしろ、ここではそれがあからさまに揃いに
揃い過ぎていて、逆に「他の何かがある」って“ウラのウラ”を読みたくなる(笑)。
でも、結局のところ、オイラの予想は当たらずしも遠からずで、ビックリして
腰を抜かす程の結末ではないのだけどね。まぁ、その代わりに(観終わって)
底知れぬ“深い余韻”が残った。恐らく、作り手がここで意図するものは、
ある程度、タネがバレるのは承知の上、衝撃のどんでん返しに頼り過ぎること
なく、愛と哀しみと絶望と希望が複雑に交錯し、織り成す“人生の儚さ”と、
そこで懸命に生きる人々の“生の輝き”について‥‥。確かに、生きるのが
苦しい時もあるけれど、生きていれば…、生きてさえすれば…、いつか必ず
良いことがあるんだゾってね。ラストシーン、現実の、この世界で、ひとつの
“大いなる絶望”から、ひとつの“小さな愛”が生まれていく。だから、みんな、
そうなんだ。そして、ボクもそうでありたい……《生きることを素晴らしいと
思いたい》。

 


『Vフォー・ヴェンデッタ』、観ました。

2006-09-19 21:40:51 | 映画(あ行)

Vフォー・ヴェンデッタ 特別版 ◆20%OFF!

 『Vフォー・ヴェンデッタ』、観ました。
第3次世界大戦後、独裁国家となったイギリス。そんな国家を相手に孤独な戦いを
続けている仮面の男“V”。正体不明の彼と出会った女性イヴィーが自分自身の
真実に目覚め、自由と正義を取り戻す革命のために立ち上がる‥‥。
 今のご時勢、テロリズムを題材に扱った映画なんて、特に物珍しいわけでは
ないのだが、ここまで“反政府”で国家を批判、ここまで“テロ行為を正当化”して
描いた作品もなかったはず。さて、映画では、政府が陰謀を企て、権力を独占し、
マスメディアを使って世論を封じ込める。一方、それに反旗を翻(ひるがえ)し、
革命を夢見る仮面の男は、国の象徴である議事堂を爆破し、テレビ局を乗っ取って、
陰謀に関わった人間を次々殺していく。まぁ、確かに、作り手の言いたいことも
分かるし、一理あるのだけど、ここまで左寄りに(?)偏ったのは、どうもねぇ…。
正直、ボクには政府の腐敗した体制を壊すことが、どうして建物を爆破することに
なるのか、ついに最後まで共感できなかった。せめて最後はウソでも、ヒロインなり
(事件を追っていた)刑事なりが議事堂爆破を止めるのが“人の道”ってもんじゃ
ないのかい。だって、すでにその時、旧体制は崩壊してたはずだから。
 まぁ、そんな感じで、ここでは無理矢理に極端な思想を押し通す部分もあるの
だけど、映画の作り自体は至って良心的で、完成度の高いものに仕上がっている。
例えば、物語の性格上、殺陣シーンが数多くあるのは致し方ないにしても、
スタイリッシュに様式化され、必要以上にエグいシーンは存在しない。加えて、
最後まで仮面の男の素顔を明かさないのは、作品に余韻を残し、ミステリアスの
まま終わらせることに成功している。いや、それ以上に、特殊メイクで醜く
崩れた素顔を表現する…、いわゆる、グロを封印することで観客の興味が
テーマとは別方向に向かう悪癖を防いでいる。勿論、人それぞれに観方はある
だろうが、ボクは観客に媚びない、この監督の姿勢が気に入った。それから、
ボクが大いに感心したのは、革命前夜、仮面の男が部屋中に敷き詰められた
ドミノを倒す場面…。1枚のドミノが2枚のドミノを倒し、更に4枚、8枚、16枚、
32枚と、無限に広がっていく様(さま)は、1つの思想が無数の人の心を動かす
“革命の成功”を象徴する。うん、個人的には、従来のハリウッド娯楽映画とは
明らかに一線を画した…、凝りに凝りまくったセリフの数々と、全編に漂う
インテリジェンスな空気にワクワクして、なかなかに堪能できた一本。それに
しても、ヒロインが作家である父に伝え聞いたとされる「政治家はウソを語り、
作家はウソで真実を語る」っていうのは、全ての核心をついた物凄い名言だなぁ。

 


『PROMISE <無極> (プロミス)』、観ました。

2006-09-14 21:59:35 | 映画(は行)

真田広之×チャン・ドンゴン、愛で運命(プロミス)を超えろ!ワーナー・ホーム・ビデオ PROMIS...

 『PROMISE <無極> (プロミス)』、観ました。
真実の愛と引き換えに、全ての男からの寵愛と何不自由ない暮らしを、運命の
神と約束し、やがて王妃の座に就いた女。天から最速の俊足を与えられた奴隷。
伝説の甲冑を身につけることを許された、ただ一人の英雄。そして、美しくも
冷徹な最強の侯爵。彼らが出会った時、神との約束を揺るがす力が動きだした…。
 これが、あのチェン・カイコーの映画かと思うと、何とも言えない気持ちに
させられた。『さらば、わが愛 覇王別姫』や『人生は琴の弦のように』の頃に
みられた、凄まじいほどに切れ味鋭かった彼の演出は、ねぇ、一体何処に
いってしまったの??、まるで人が変わったように「芸術性」から「大衆性」へ…、
「寓話的なシリアス」から「マンガ的なコミカル」へ…。いや、もはや(今の)彼が
(かつての)彼でないことは、前作『北京ヴァイオリン』とその前の『キリング・ミー・
ソフトリー』で当に知っていたはずなのに。一つ言えることは、かつて「中国の
巨匠」と呼ばれたチェン・カイコーはもういない。そして今、彼は思いもよらぬ形で
復活した…、そう、“B級プログラム・ピクチャーの監督”として。
 さて、映画はそんな感じで、それまでのチェン・カイコーの作品が正攻法で
中国の文化に向き合った歴史大作だとしたら、今作『PROMISE』はアレ球クセ球、
危険球にビーンボールまで、何でもござれの“異色アジアン・ファンタジー”の
様相か。今どき、子供番組でも滅多にお目にかかれない下手糞CGは、明らかに
確信犯(笑)。それから、目の覚めるような赤の鎧(?)には目を疑った(笑)。
更に、その先が“イチバン”の指の形(?)になっているステッキには、思わず
プッと吹き出した(笑)。まったくもって、衣裳・装飾・小物デザイン・特殊撮影は、
「遊び心」を通り越して、ほとんど「悪趣味」に近い“異様な(?)世界”が
広がっている。そもそもキャストからして、日本・韓国・中国・香港のトップ
スターが集結し、“アジアの無国籍”を意識しているんでしょう。一方、肝心の
ストーリーはいえば、ドキツい映像ほどのインパクトはなく、シェイクスピアの
戯曲にアレンジを加えたオーソドックスなもの。特に映画序盤、戦術に長けた
武将の主人公が、森で道に迷い、予言者に己の行く末を聞かされるくだりは
「マクベス」そのままだ。勿論、ここではシェイクスピアのような、人の邪悪を
抉(えぐ)り出し、人の弱さ・醜さを曝(さら)け出すセリフ回しは無いのだけどね。
映画は、コミカルあり、アクションあり、ロマンスまであって、これまでのチェン・
カイコー作品のどれとも違う“雰囲気作り”に成功している。まぁ、もっとも、これで
映像以上にストーリーまでカッ飛んでたら、ロクに観れたもんじゃないんだけどサ(笑)。

 


『ファイヤーウォール』、観ました。

2006-09-08 20:59:24 | 映画(は行)

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 『ファイヤーウォール』、観ました。
銀行のセキュリティシステムの専門家ジャック・スタンフィールド。彼が設計した
盗難防止システムは業界で最高の性能を誇っていた。だが、ビル・コックス率いる
強盗グループは、ジャックの家族を誘拐し、自ら作り出した鉄壁のファイヤー
ウォールにジャック自身を挑ませる…。 
 オイラ達の世代(30代後半)からすれば、こんなにも“くたびれた”ハリソン・
フォードには少なからずに複雑で、ある種の戸惑いを隠せない。立ち上がれば
ヨロけ、走ればコケる。もはや、往年の軽々しい身のこなしは消え失せて、自らの
“老い”を曝け出し‥‥というよりは“老い”を武器に自分の存在感を示している
ようにさえ感じてくる。まぁ、お世辞にも“器用な役者さん”というわけでは
なかったし、脇役で力を発揮するタイプでもない。大スターだからこその葛藤も
あったと思うが、生き残るためとはいえ、こういう彼を観るのはチョット痛々しい。
 さて、映画は、そんなヨレヨレのハリソン・フォードを、背後からネチネチ
いたぶりながら脅迫する強盗一味との対決を描いたサスペンス。“ハイテク”を
駆使しながら…、“家族愛”を盛り込みながら…、様々なアイデアと工夫が
散りばめられている。うん、確かに「娯楽映画」と割り切って、深く考えずに
観るには結構だ。でも、そうではないオイラには、どうにも細かいところが
気になってしまうのだ(笑)。例えば、物語の背景となる“会社の合併問題”。
特に、そのお偉いさんゲーリー氏と主人公の敵対関係は、中盤あたりまでは
映画のサイドストーリーとして重要な位置を占めるけど、最終的に何の決着も
ないままフェードアウトしている。ここはウソでも(?)最後に両者が和解をするか、
あるいは、家族奪還後にゲーリー氏をひと殴り、「こんな会社辞めてやる」と
言って、“人生の再出発”を誓うとか…。それが“娯楽映画としての正しい流れ”
じゃないのかい??、それから、どうしてもオイラが解せないのは、犯人一味が
主人公の家族を車で外に連れ出すのに、どうして“イヌ”まで同行するのかしら?、
結局、それが命取りになるんだけど、これにはチョット無理があるんじゃない
のかい??(笑)、いや、むしろ、物語のツジツマ合わないことよりも、こういう
最新ハイテク技術の題材を扱っておきながら、最後は“人間同士の殴り合い”で
決着かよ、って(笑)。そうさ、人間はいつの時代も“原始的な生き物”なのさ(笑)。

 


『力道山』、観ました。

2006-09-03 21:50:57 | 映画(ら・わ行)

力道山 デラックス・コレクターズ・エディション【TSDD-44694】=>20%OFF!力道山 デラックス...

 『力道山』、観ました。
日本のプロレスの礎を作り、街頭テレビで人々を熱狂させた力道山。相撲部屋に
入門するが、激し過ぎる性格から破門され、アメリカに渡ってプロレスを学んで
帰国する。シャープ兄弟とのタッグマッチなど、伝統の一戦を要所に挟みながら、
妻の綾や興行界を仕切る会長との関係が描かれていく……。
 映像、ストーリー、演出、構成‥‥、どれを取っても“中の上”。普通に
観れば(?)特に目新しいものはなく、取り立てて騒ぎ立てするような映画では
ないと思う。ただし、“韓国映画”でありながら“日本のヒーロー”を描いていて、
“韓国人俳優が主演”を務めながらも“全編オール日本語の台詞”に挑んだと
すれば、これは驚きに値する。特に、主人公“力道山”扮するソル・ギョングの
迫力には、圧倒されることしきり。ほとんど別人と思えるほどの(マッチョな)
肉体改造もさることながら、日本語台詞の習得には、恐らく気の遠くなる程の
労力と時間を要したことだろう。勿論、(発音やら格好やら)細かい部分で
“多少の違和感”を感じる箇所もあるのだけど、「朝鮮人」として…、一方で
「日本のヒーロー」として…、“人間”力道山の持つ苦悩が痛切に伝わってくる。
しかも、決して“善人”ではない…。いや、むしろ、どちらかと言えば“欠陥
だらけの彼”を妻の綾は何故愛していたのか……。そんな彼の心底に流れる
“イノセントな部分の優しさ”まで、しっかりと演じ切っているのはさすがだ。
それにしても、これまで『ペパーミント・キャンディー』、『オアシス』、本作
『力道山』と…、彼の主演作を観てきたが、どれも簡単に演じられるものではない
“難役”ばかり。改めて、彼の「演じること」への探究心と執念にはほとほと
感心させられる。広く、アジア映画界を見回してみて、これまでも…、そして、
これからも…、ソル・ギョングを超える役者は出てこないと思う。
 さて、この映画のストーリーと構造を見たときに、やはり影響を受けたと
思われるのは、あの名作『市民ケーン』ではあるまいか。大きな夢と野望を持ち、
頂点にまで駆け上がっていく一人の男。しかし、成功し、巨大な富(あるいは
名声)を手にする一方で、周囲からは見放され、指の隙間から砂がこぼれ落ちる
ように“大切なもの”をひとつずつ失っていく。例えば、それはお金では買えない
“信用”であったり、“仲間”であったり、“家族”であったり…。結局、彼は自分が
自分(ヒーロー)であるために、「勝つこと、更に勝ち続けること」‥‥それだけに
自身の義務を課し、それゆえに自分自身を見失っていったんだろう。負けて、
初めて手にするものもあるはずなのに…。だって、「真の強者」とは“敗者の
痛み”を知っている者なのだから。何だか、どっかの3兄弟と、その厳格な(?)
父上に聞かせたい言葉ではありますが(笑)。