肯定的映画評論室・新館

一刀両断!コラムで映画を三枚おろし。

『悪人』、観ました。

2011-11-07 00:05:06 | 映画(あ行)

監督:李相日
出演:妻夫木聡、深津絵里、樹木希林、柄本明、岡田将生、満島ひかり
※2010年キネマ旬報ベストテン第1位

 『悪人』、観ました。
若い女性保険外交員の殺人事件。ある金持ちの大学生に疑いがかけられるが、
捜査を進めるうちに土木作業員、清水祐一が真犯人として浮上してくる。
しかし、祐一はたまたま出会った光代を車に乗せ、警察の目から逃れるように
転々とする。そして、次第に二人は強く惹(ひ)かれ合うようになり……。
 いわゆる、おたずね者の男女が織り成す“逃避行もの”。意外にも、ここ
日本では映画界に限らず、総てを見渡してもほとんど馴染みの薄い“未開の
ジャンル”だ。あえて言えば、歌謡曲でいうところの細川たかし『矢切りの
渡し』くらいのもの(笑)。その上で、本作は世間的にここまで成功を
収めたのだから純粋に評価してもいいだろう。個人的にも、やや台詞による
説明が過剰すぎる点(後半部分)を除けば、さすが年間を代表する作品だと
思った。まず、本作の秀逸さは、主要となる人物の描写もさることながら、
僅か数シーンしか登場しないキャラクターまで丁寧に描かれ、物語上で
実に重要な役割を担っている。オイラが感心したのは、遊び人の仲間内で
唯一、良心の呵責を感じる青年と、ヒロインの姉の存在だ。前者は、非常識な
集団を、その内側から第三者的な“常人の視点”でみる役割を成し、後者は
同じ一つ屋根の下に住みながら、勝者と敗者が分かれ、その妹の存在こそが
“ヒロインの孤独感”を浮き彫りにする。映画序盤、ヒロインが仕事帰りの後、
入れ違いで妹とその彼氏が出掛け、僅かに襖が開いた妹の部屋のベッドが
乱れている。その襖をそっと閉め、残されたケーキをほおばるヒロインの
姿に、思わず胸が苦しくなる。その演出の凄みにゾクッとした。
 映画は、互いの心の隙間を埋め合う男女の純愛を描く一方で、現代社会が
抱える暗部を鋭く抉(えぐ)り出す。観ながらオイラが恐怖したのは、ネットと
マスメディアが席巻するバーチャルな情報社会が、いつしか個人のモラル
低下を引き起こし、麻痺させているってこと。一度(ひとたび)絶対悪を
見つければ、“正義の仮面”を被って一斉に叩くマスコミ報道のあり方しかり、
“している側”の都合を優先し、“されてる側”の気持ちなど分かろうとしない。
そして、映画の舞台は移る。追っ手を逃れ、そんな社会から除外された男女が
たどり着いた“最果ての地”。二人は携帯電話も、ラジオさえ持っていない。
垂れ流される情報は遮断され、代わりに周囲の雑音も聞こえない。二人にとって、
そこはこの地上に残された“最後のパラダイス”だったんだろう。ラストシーン、
二人はその楽園のてっぺんから、沈む夕日を眺めて涙する。多分、二人は
見つけたんだろう。偽善の皮を被った詐欺師…、強者をきどった弱者…、そして
悪人の烙印を押された自分たち…、この偽者だらけの世界の中で、唯ひとつ
信じられる、“本物の愛”の存在を。


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