オルセー美術館所蔵(フランス)
油性画
東京芸術大学ではオルセー美術館の油彩画39点の高精細デジタル撮影を実施し、取得したデータを用いて高精細複製制作を続けておられます。
その中から気に入った作品。
●エドゥアール・マネ《笛を吹く少年》
上野の国立西洋美術館で開催された「ジャポニスム展」を鑑賞していましたので、この作品を楽しみにしていました。
展示作品はそのとき鑑賞した作品にそっくりでクローン作品の素晴らしさを改めて感心しました。
そして、描かれた少年を絵画と同じ大きさで立体化して、油絵の具で彩色した立像も制作されていました。
モデルの少年は笛を吹く近衛軍鼓笛隊員です。緊張気味にポーズをとり、大きな瞳を開いたあどけなさを残す表情が
生き生きと描かれています。
ジャポニスムの影響を受けて遠近法を使わずコントラストの強い色を平面的に用いている様は浮世絵の技法を感じる作品として有名です。
●フィンセント・ファン・ゴッホ《渦巻く青い背景の中の自画像》複製
ゴッホは生涯に40点余りの自画像を残しています。
この作品は耳切り事件後、サン・レミのカトリック精神科病院「サン・ポール」に入院していた1889年9月頃描かれた晩年の作品です。
東京芸大学COI拠点が忠実に再現したクローン文化財(高精細複製画)です。
オルセー美術館で、オリジナル作品の詳細な調査と高精細デジタル画像の撮影を行いそれに基づきオリジナルな作品と
同素材である油絵の絵具を使用して、キャンパスに手作業でゴッホの独特な筆致を厳密に画写し、その上に画像編集ソフトで
色合わせを施した高精細デジタル画像を印刷して、オリジナルと遜色がない絵肌を再現したそうです。
そして人間の錯覚を利用して、光の加減で自画像が動いて見える作品を展示されていました。
絵画が動いているのは「変幻灯」を使って名画が持つ躍動感を補って鑑賞者に伝える効果があります。
ゴッホ展で自画像は何点か鑑賞していますが、ゴッホの自画像作品の中では明るい色彩です。
※変幻灯について
止まっていると思っていた絵画の写真が変幻灯に照らされることで、突然ゆれます。
コンピュータの中で静止対象が動く映像を作成し、そこからモノクロの動き、情報を取り出したものを投影します。(NTTが開発した技術)
浮世絵(ボストン美術館スポルディング・コレクション)
米国ボストン美術館には、木版浮世絵の中でも貴重な初摺りを中心として収集され、一般に公開しないことを条件に
1921年に寄付されたことから世界でも最も美しい浮世絵と言われている作品があります。
その作品から高精細デジタル画像を元に再現したクローン文化財作品を展示。
◆歌川広重《名所江戸百景 猿わか町よるの景》
「猿わか町よるの景」は夜空に木目が摺り込まれ、満月にかかる雲は「当てなしぼかし」という偶然性を利用した表現によるため
版木による複製では同じ表現はすることができません。
浮世絵クローンは和紙に高精細印刷を行い版木の凸凹をつける方法で作られているので美しい摺りを和紙の質感とともに鑑賞できます。
◆歌川広重《名所江戸百景 大はしあたけの夕立》
版画は島根県立美術館で鑑賞していましたので親しみやすく特に《名所江戸百景 大はしあたけの夕立》は好きな作品です。
雨が動いていましたのでAdobe Flashを使用されたのかしらと思ったりしましたが「変幻灯」ではどんな風に使って制作された
のかしらと考えました。
会場では美しい浮世絵を和紙の質感を手で触れ、その絵にちなんだ香りを楽しんでいた人が多かったです。
クローン文化財の展示は子供も大人も一緒になって楽しむ工夫がされていましたので家族で良い夏休みを過ごされた人も多かったことでしょう。
「素心伝心」の本を購入しましたので知識をつけて島根県立美術館にもう一度行き、作品をじっくり鑑賞したいと思いましたが、
あっという間に夏も終わり残念なことに再び鑑賞できませんでした。
今回、立派なクローン文化財を鑑賞して、制作に携わった方々に感服しました。
松江市出身の日本画家、宮廻正明氏(東京芸術大名誉教授)は文化財複製技術が評価され、2018年度の文部科学大臣表彰技術賞に輝きました。