『天河伝説殺人事件』(91)(1991.4.20.松竹セントラル)
内田康夫の原作を市川崑が映画化。能楽の世界で起きた連続殺人事件に、紀行ライターの浅見光彦(榎木孝明)が挑む。
市川崑が、『幸福』(81)以来、久しぶりに撮った現代劇。従って、こちらの期待も大きかった。ところが、よく言えば、いかにも崑タッチの映画に仕上がっているとも言えるが、少々意地悪く見れば、「何だ、金田一耕助シリーズと同じじゃないか」ということになる。
そして、もうそれほど映画を撮る時間が残っていない老匠が、再び角川のお抱え監督になる余裕はないばずだ。言い換えるなら、一ファンとしては、市川崑にこういう便利屋みたいな仕事はもうしてほしくないと思うのだ。
確かに、相変わらず役者の使い方や映像処理は見事だと思うが、それは、こちらが過去の金田一耕助シリーズを見慣れているから、という一種のノスタルジーを刺激しているからであって、特に驚くべきものではない。
日本映画の現状を考えれば、ベテランはこうした形でしか映画が撮れないという事実はあるにせよ、このシリーズが監督・市川崑のエピローグでは何とも寂しい気がする。出来れば違った形の映画で、何とかもう一花咲かせてほしいと願わずにはいられなかった。
【今の一言】角川サイドは、浅見光彦ものでシリーズ化をもくろんでいたようだが、その後の角川春樹の逮捕に始まる内部の混乱の影響もあり、結局この映画だけで終わっている。
市川崑はこの映画の後、『四十七人の刺客』(94)『八つ墓村』(96)『どら平太』(00)『かあちゃん』(01)と、時代劇と金田一ものを交互に撮ったが、実質的な遺作は結局セルフリメークの『犬神家の一族』(06)だった。