『燃えよ剣』(2021.9.7.東宝試写室)
江戸時代末期。武州多摩の農家に生まれた土方歳三(岡田准一)は「武士になりたい」という思いを胸に、近藤勇(鈴木亮平)、沖田総司(山田涼介)ら、同志と共に京都へ向かう。そして、会津藩の後ろ盾を得て、芹沢鴨(伊藤英明)を局長に新選組を結成。芹沢を暗殺した後、近藤を局長に据えた新選組は、討幕派の制圧のため京都の町で活躍するが…。
新選組副長・土方歳三の生涯を描き、過去に何度も映画化やドラマ化をされた司馬遼太郎の原作小説に、新解釈や新たな場面を加えながら、原田眞人監督が映画化。岡田が自ら指導したという殺陣がすさまじい。
さて、今年の大河ドラマ「青天を衝く」もそうだが、歴史ドラマはどちらの立場の側から描くかで、全く解釈や人物像が異なる。従って新選組も、討幕派から見た殺戮や粛清の集団として描かれることもあれば、この映画のように内部から見た切ない群像劇として描くものもある。歴史ドラマは、そうした多様性が面白い。
例えば、「青天を衝く」でせっかく男を上げた将軍・徳川慶喜(草なぎ剛)が、この映画(山田裕貴)では、従来の愚将というイメージのまま描かれているが、逆に会津藩主・松平容保(尾上右近)を悲劇の将として強調している。このあたりに作り手の趣味や好みが反映されるのだ。
原田監督には『関ヶ原』(17)と『検察側の罪人』(18)の公開の際に、インタビューをする機会を得たが、前者では黒澤明監督の『七人の侍』(54)の、後者では同じく『悪い奴ほどよく眠る』(60)と『天国と地獄』(63)の影響について語ってくれた。
今回は、武州多摩郡のバラガキだった近藤、土方、沖田、そして井上源三郎(たかお鷹)を、男同士の連帯の姿としてハワード・ホークス監督の『リオ・ブラボー』(59)の四人組(ジョン・ウェイン、ディーン・マーティン、リッキー・ネルソン、ウォルター・ブレナン)に、あるいは悪ガキ仲間の成れの果てとしてマーティン・スコセッシ監督の『グットフェローズ』(90)になぞらえたという。
また、柴咲コウが演じた土方の恋人のお雪(架空の人物)も、インディペンデント・ウーマンとして『リオ・ブラボー』のアンジー・ディキンソンになぞらえたのだという。さすがにこれらはちとこじつけが過ぎる気がするが…。
司馬遼太郎のこの『燃えよ剣』と『新選組血風録』は、たびたび映画化やドラマ化がされているが、最も印象に残っているのは、子どもの頃に見たドラマ「燃えよ剣」(65)とドラマ「新選組血風録」(70)で、土方(栗塚旭)、近藤(舟橋元)、沖田(島田順司)というキャスティングだった。
また、子母澤寛原作のドラマ「新選組始末記」(77)の近藤(平幹二朗)、土方(古谷一行)、沖田(草刈正雄)と、三谷幸喜脚本の大河ドラマ「新選組!」(04)の近藤(香取慎吾)、土方(山本耕史)、沖田(藤原竜也)も忘れ難い。
大河ドラマ「新選組」
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