田中雄二の「映画の王様」

映画のことなら何でも書く

「王に756号を打たれた投手」鈴木康二朗

2023-02-14 08:42:44 | 名画と野球のコラボ

 通算本塁打3位の門田博光(南海、オリックス)、名捕手の岡村浩二(阪急、東映)、そして鈴木康二朗と、このところかつての名選手たちの訃報が続く。

 

 1977年9月3日、後楽園球場で巨人の王貞治が通算本塁打の世界記録となる756号を放ったが、相手投手はヤクルトの鈴木だった。

 あの日、高校の悪友たちと「今日あたり打ちそうな気がする」と思い立って、学校帰りに球場に行き、当日券でレフトスタンドに入ったのだった。

 第1打席はフルカウントからフォアボール。第2打席もフルカウントとなると、球場内には野次とブーイングが広がり、異様な雰囲気に包まれたが、鈴木が投球動作に入ると今度は一転して静かになった。

 そして運命の6球目を王がフルスイングし、打球は一直線にライトスタンドに飛び込んだ。その瞬間、雰囲気は一変し、歓声と叫び声と拍手が湧き上がった。この球場内の劇的な変化は今でもはっきりと覚えている。

 鈴木は、この年は14勝し、翌年は13勝を挙げて、ヤクルトの日本一に貢献。近鉄に移籍後は抑えとして活躍した。長身で眼鏡を掛け、少し体を折り曲げるようにしてスリークオーターから投げるフォームが印象的な投手だった。今考えると、彼はプレッシャーのかかる中、よく勝負したと思う。

 「王に756号を打たれた投手」と呼ばれたが、後年、鈴木は「自分が潰れたら、王さんが一人の投手を殺したことになる。打たれたことで頑張れた」と語っていたという。「王に756号を打たれた投手」は立派な称号だ。

 後日、球場に入場券を持っていくと、王さんのサイン色紙(印刷だったが…)をくれた。赤丸は引き換えの証。

https://www.youtube.com/watch?v=H2TJywe9eoI

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「BSシネマ」『ゴースト/ニューヨークの幻』

2023-02-14 06:35:21 | ブラウン管の映画館

『ゴースト/ニューヨークの幻』(90)(1990.10.16.日本劇場)

 

 暴漢に命を奪われたた銀行員のサム(パトリック・スウェイジ)は、最愛の恋人モリー(デミ・ムーア)の身に危険が迫っていることを知り、霊として地上にとどまり、霊媒師オダ・メイ(ウーピー・ゴールドバーグ)の力を借りてモリーを守ろうとする。

 何だか知らないが、霊界ブームのようである。それは現実の世の中に夢がなくなり、映画もそれを反映して、もはや普通の話では夢が語れなくなっているということなのかもしれない。

 とはいえ、もともとこうしたファンタジックな話が嫌いではない自分にしてみれば、これまではジャック・フィニイやレイ・ブラッドベリ、リチャード・マシスンといった作家の小説で楽しんできたものが、映画として見られる喜びもある。

 ただ、この映画の場合は、先に作られたスピルバーグの『オールウェイズ』(89)との類似点があまりにも多いので、評判の割には、何だスピルバーグの二番煎じじゃないかと思った。

 というのも、『オールウェイズ』はコケたのに、こちらは超満員だったので何か理不尽なものを感じたし、霊媒師を出しちゃずるいよとも思ったのだ。

 驚いたのは、この映画の監督が、『フライングハイ』(80)をはじめとする、数々のおふざけパロディ映画で鳴らすジェリー・ザッカーだった点である。確かに『殺したい女』(86)あたりから、おふざけ映画からの脱皮を試みていたようだが、まさかここまで真面目な?ラブロマンスを撮るとは思ってもみなかったからだ。

 これで映画監督としての幅が広がったわけだが、彼のパロディ映画も嫌いではない自分としては、こうした真面目な映画で成功した後も、『裸の銃を持つ男』(88)などの路線も捨てないでほしいと思う。

 ところで、「この映画はデミ・ムーアがきれいだからいい」という感想をよく目にするが、実際に盛り上げているのは、怪しい霊媒師を演じたウーピーの方だろう。で、彼女の出世作はスピルバーグの『カラーパープル』(85)だった。『オールウェイズ』との類似といい、どうもこの映画とスピルバーグとの因縁を感じずにはいられないのだ。

 もひとつおまけに、『オールウェイズ』が「煙が目にしみる」(J・D・サウザー)を使ったら、こちらは「アンチェインド・メロディ」(ライチャス・ブラザース)だ。

 などと言いながら、この映画の印象がいま一つだったのは、満員だったもので、首も目も疲れる最前列の席で見たことも作用しているのかもしれないというお粗末。

【今の一言】と、30数年前の自分は書いているが、そもそもスピルバーグの『オールウェイズ』も『A Guy Named Joe』(43)という映画のリメークだったのだから、何をかいわんやだ。

 

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