田中雄二の「映画の王様」

映画のことなら何でも書く

『鞍馬天狗のおじさんは-聞書アラカン一代』(竹中労)

2022-01-29 22:10:10 | ブックレビュー

『鞍馬天狗のおじさんは-聞書アラカン一代』(竹中労)ちくま文庫
(2004. 11. 21.)

 再読した本書は、アラカン(嵐寛寿郎)ファンの竹中労の熱気とそれに応えるアラカン本人の飄々とした味が程よくブレンドされた好書だと思う。日本映画界の赤裸々な側面史として読んでも面白い。

 アラカンが、戦病死した山中貞雄について語っているところはなかなか面白かった。最初は「才能あんのかいな」と疑ったアラカンが、やがて「(山中に)脚本書かしたらええ、監督やらしたらええ、これ天才やないかと。山中の才能を発見したのはワテやと、これが自慢だ」と変化する様子が楽しい。

 初版本のマキノ雅弘の序文が、この本の全てを言い当てている。「これは荒々しい本や、無遠慮な本や、ほんまのことばかり書いてある本や。読みながら不覚にも涙がこぼれてきた、声を立てて笑うほどおかしゅうて、急に悲しくなってくる本や…」と。

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『探偵映画』『映画篇』

2022-01-29 09:51:49 | ブックレビュー

『探偵映画』(我孫子武丸)(講談社文庫)
(2010.12.10.)

 未完成の“本格探偵映画”を残して監督が失踪。残されたスタッフ、キャストはどう映画を完成させるのか…。目立ちたいキャストが、各々、我こそは犯人だと名乗り出る(犯人役に立候補する)会議の場面が面白い。ほぼ同世代の作者が繰り出す映画に関するうんちくも楽しいが、ラストのどんでん返しがちょっと弱いのが残念。


『映画篇』(金城一紀)(集英社文庫)
(2010.7.23.)

 『ローマの休日』(53)の上映会を軸に展開される5つの物語を通して、作者の映画への愛が綴られる。5つの物語の中に友情、恋愛、家族…などの問題が盛り込まれ、それぞれがハードボイルド、ファンタジー、ハートウォームと趣を変えているところが秀逸。久し振りに、読み進むのが惜しく感じられ、わくわくしながら読み終えた小説。作者自身が、映画が人生を変えることや映画の力を信じているところがうれしい。

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映画関連新書『東京名画座グラフィティ』『大魔神の精神史』『モスラの精神史』『日本映画〔監督・俳優〕論』『証言 日中映画人交流』

2022-01-29 07:17:02 | ブックレビュー

『東京名画座グラフィティ』田沢竜次(平凡社新書刊)
(2006.10.11.)

 筆者は1953年生まれなので7歳ほど年上。しかも、我がテリトリーだった城南地区(品川、大田、目黒)の名画座についてはあまり触れられていないから手放しで懐かしめなかったのが少々残念ではあった。

 ただ、元々映画への思い入れとは実にパーソナルなもの。しかも、今のようにビデオもDVDもなかった時代の映画体験は、年齢や地域差、あるいは見た映画館によっても大きく異なるわけで、そこがまた個性的で面白かったともいえるのだ。

 実際、自分がこういうものを書いたら、やはり70年代から80年代にかけての城南地区中心のものになるだろうし…。東京は自分の周囲で大抵のことは済んでしまうから、ほかの地域に関しては結構無関心だったり、疎いところがあるのだ。


『大魔神の精神史』(角川新書)『モスラの精神史』(講談社新書)小野俊太郎
(2010.10.27.)

 どちらも読みながら、1本の映画をここまで掘り下げるかと驚く。引用の巧みさとこじ付け、粘着力、こだわりに恐れ入る。


『日本映画〔監督・俳優〕論』黒澤明、神代辰巳、そして多くの名監督・名優たちの素顔 萩原健一(ワニブックス新書)
(2010.10.27.)

 ショーケンいわくの「リミッターを超える」という一言が印象に残る。

 ショーケンには一度だけ会ったことがある。彼が『日本映画〔監督・俳優〕論』という本を出した時に、出版記念会見の模様を、取材、撮影し、記事にしたのだが、かつての憧れの人を目の前にして、仕事とはいえドキドキした覚えがある。(2010.10.18.)


『証言 日中映画人交流』劉文兵(集英社新書)
(2011.5.20.)

 高倉健、佐藤純彌、栗原小巻、山田洋次らから、日中の映画交流や中国への思いを聞き出した好著。寡黙なイメージが定着している健さんが、結構本音でしゃべっている部分が印象に残る。巻末の木下惠介の晩年に関する論文も興味深く読んだ。

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黒澤明を支えた人々『虹の橋 黒澤明と本木荘二郎』『複眼の映像 私と黒澤明』『天気待ち 監督黒澤明とともに』『評伝 黒澤明』

2022-01-29 07:02:40 | ブックレビュー

黒澤明を支えた人々
(2010.9.15.)

 先日、『生きる』(52)を再見した際に、黒澤映画を支えた人たちについて改めて興味をそそられたので何冊か読んでみた。

『虹の橋 黒澤明と本木荘二郎』(藤川黎一)(再読)

 東宝(黒澤映画)のプロデューサーでありながら、黒澤と袂を別ち、後年はピンク映画に転じ、最期は孤独死を遂げた本木荘二郎の流転の生涯を追ったもの。

 本木について書かれたものはほとんどないだけに、関係者への取材による貴重な証言なども得られているのだが、私小説と実録を併せたような妙な体裁を取っているため(こういう形にしなければ出版できなかったのかもしれないが…)、散漫な印象を受けるのが惜しい。


『複眼の映像 私と黒澤明』(橋本忍)

 黒澤、橋本、小国英雄、菊島隆三らによる、壮絶なまでの脚本作りの現場が紙上で再現される。『羅生門』(50)のラストの違和感に対する答えもここに記されていた。脚本の師匠である伊丹万作への敬愛、黒澤への愛憎がにじみ出た好書。

 もし『影武者』(80)が当初の予定通りに、監督黒澤明、脚本橋本忍、撮影宮川一夫、音楽佐藤勝、主演勝新太郎、若山富三郎で撮られていたら…とよく夢想したものだが、この本を読むとそれは初めから実現不可能だったことがよく分かり切なくなる。


『天気待ち 監督黒澤明とともに』(野上照代)

 長年、黒澤映画のスクリプター(記録係)を務めた女史によるエッセー。ここにも伊丹万作が登場する。筆者が息子の十三の世話係をしていたとは知らなかった。女性の視点から黒澤を見つめた点が新鮮だった。イラストも秀逸。


『評伝 黒澤明』(堀川弘通)

 黒澤映画の助監督を務めた後、監督となり多くの秀作を残した筆者による評伝。全編を「クロさん」で通すなど、黒澤への敬愛の情にあふれながら、厳しい見解も正直に書いている。それにしても、三船、本木、橋本、菊島、佐藤…なぜみんな黒澤から離れていったのだろう。

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