田中雄二の「映画の王様」

映画のことなら何でも書く

佐原健二と本多猪四郎

2022-01-30 13:36:21 | ブックレビュー

『素晴らしき特撮人生』(佐原健二)(小学館)
(2005.8.8.)

 『ウルトラQ』(66)の万城目淳、そして東宝の特撮映画と、子どもの頃、気がつけばいつもこの人がそばにいた気がする。何より、この人が映画で演じる善悪さまざまなキャラクターが面白かったし、出てくると何故かホッとしたものだ。

 決して“うまい”とか“華がある”というタイプの役者さんではなかったけれど、結局生き残って、70歳を過ぎた今も現役であり続けているという不思議な人でもある。

 この本はもちろん“特撮マニア”に向けての要素が大きいが、一人の俳優の内面史、あるいは映画やテレビドラマの側面史としてもなかなか読み応えがある。特に本多猪四郎監督との数々のエピソードは感動的だ。ところで去年、『ウルトラQ倶楽部』として新作ラジオドラマが放送されたとのこと。聴いてみたかった。(後にCDとして発売された)。


『「ゴジラ」とわが映画人生』 (本多猪四郎)(ワニブックス新書)
(2011.2.17.)

 『ゴジラ』(54)をはじめ、数多くの東宝特撮映画を監督した本多猪四郎が、生前に唯一残したインタビュー集を復刊したもの。自分にとっての本多猪四郎という人は、初めて名前を覚えた映画監督であり、子どもだった自分に映画の楽しさや面白さを教えてくれた恩人でもある。

 本書を読むとその人柄の良さがしのばれるが、同時に、(自省の意味も込めて)人柄やものの考え方が作り出すものに如実に反映されるのだと改めて思った。

 本多さんは、何度も応召され、若き日の貴重な時間を戦争に費やされたが、以前、大森一樹が「自分がゴジラ映画を作った時に、本当の戦争を体験した本多さんには深い部分で決してかなわないと思った」と語っていたように、戦争体験が後に作った映画の中に生かされている。その意味では、特撮の円谷英二、プロデューサーの田中友幸と共に、『ゴジラ』を作るべくして、時代に選ばれた人だったのかもしれないと思うのだ。

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川本三郎マニア その2

2022-01-30 07:25:45 | ブックレビュー

 

『銀幕の東京 映画でよみがえる東京』(中公新書)
(2006.1.4)

 氏のさまざまなエッセーに登場する“映画の中の東京”を一冊にまとめたもの。本来ドキュメンタリーではない劇映画が、過去の記録になってしまうところが“変化する街・東京”を象徴する。紹介されていた成瀬巳喜男の『秋立ちぬ』が見たくなった。


『クレジットタイトルは最後まで』『今ひとたびの戦後日本映画』(中公文庫)
(2006.1.29.)

 前者は筆者お得意の映画のディテール集、あるいは1本の映画からめぐらされる空想や雑学の旅の楽しさ。後者は日本映画から観た戦後が興味深く語られる。

 「田中絹代と戦争未亡人」「三船敏郎と復員兵」「ゴジラはなぜ暗いのか」「貧乏の好きな成瀬巳喜男」「口笛吹いておいらは元気-清水宏監督」「穏やかな父-笠智衆」」など。

 どちらも10年ほど前にハードカバーが出された時に読んでいたのだが、今回読み直してみると、驚くほど忘れていたことに気づいてがく然とした。それとともに、70年代から、映画を見たり、映画について書いたりする中で、この人に大きく影響を受けている自分がいるとも感じた。

 まあ、切っ掛けはものまねでも、それを超えないといかんけど。先頃、惜しくも亡くなった瀬戸川猛資の『夢想の研究-活字と映像の想像力』(創元ライブラリ刊)にも再読して唸らされた。こういうものを書くには新旧含めてもっと本を読まねば、映画を見なければならない。


『君美わしく 戦後日本映画女優讃』(文春文庫)
(2006.2.3.)

 川本三郎による映画黄金時代の女優たちへのインタビュー集。今はなき幻の雑誌『ノーサイド』に連載されていたものの集成版。大女優たちへの連続インタビューは映画史の貴重な証言集だ。「いい仕事をされましたなあ」という感じ。『わたしの渡世日記』ほか、名随筆家でもある高峰秀子の本がまた読みたくなった。


『西部劇(ウェスタン)への招待』『時代劇(チャンバラ)への招待』(PHPエル新書刊)
(2006.2.6.)

 いずれもかつては隆盛を誇りながら、今は消えつつある2大ジャンルについて“6人のオヤジたち”が熱く語った2冊。どちらも好きなジャンルだが、こうしてその道のマニアの知識を披露されると自分はその極一部しか見ていないことに改めて気付かされる。映画について何か書くにはやはり知識の集積や記憶力がものをいうのだ。


『日本映画を歩く ロケ地を訪ねて』(JTB)
(2006.3.29.)

 この本では東京近郊以外のロケ地が紹介されていてなかなか楽しい。


『映画を見ればわかること2』(キネマ旬報社)『ミステリーと東京』(平凡社)
(2008.1.22.)

 一本の映画や一つの小説からまるで数珠つなぎのように広がっていく話題の豊富さにまたも唸らされ教えられる。川本節健在なり。


『時代劇ここにあり』(平凡社)
(2009.1.5.)

 『東京人』2月号は「剣豪の世界」。デアゴスティーニが「東映時代劇名作DVDコレクション」を発売。今、時代劇ブームが来つつあるのか。それとも来させようとしているだけなのか。これなら西部劇もありか。


『銀幕風景』(新書館)
(2009.5.20.)

世界の映画ロケ地をめぐったもの。


『きのふの東京、けふの東京』(平凡社)
(2010. 2.16.)

 これは前にどこかで読んだぞ、また同じようなことを書いて…などと思いながらも面白く読んでしまう川本三郎独特の東京近郊歩き本。

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川本三郎マニア その1

2022-01-30 07:15:36 | ブックレビュー

『ミステリーと東京』(東京人)
(2005.7.19.)

   

 雑誌『東京人』に連載中の川本三郎の「ミステリーと東京」。以前、広瀬正の『マイナス・ゼロ』が登場してやられたと思ったら、今回は長坂秀佳の『浅草エノケン一座の嵐』。実在、架空の人物をからめてエノケンと浅草の黄昏を描いた秀逸ミステリー。またやられた、というか、どうも趣味がカブるなあ。(後に単行本化(平凡社)された)。


『東京つれづれ草』(ちくま文庫)
(2005.11.14.)

 ノスタルジックな東京散歩案内、映画や本やスポーツについてなど、どうもこの人とは趣味趣向がかぶるところがある。とはいえ、いろいろな面で著作を通じて教えてもらうことも多々あり。


『東京おもひで草』(ちくま文庫)
(2005.11.25.)

 この中に、先の映画『ALWAYS 三丁目の夕日』にも当てはまる一文があった。

 「ノスタルジーという感情は、遠い昔に対してではなく、つい昨日のこと、近過去に対する独特の感情だから、東京のように変化が激しく、昨日まであった風景が今日はもうはかなく消えてしまうような都市のなかでこそ生まれる」


『私の東京町歩き』(ちくま文庫)
(2005.12.9.)

 1980年代末、バブルの末期に雑誌『東京人』に書かれたものだけに、筆者の筆致も書かれた町の様子も今とは随分違う。改めて、東京が急激に変化する町なのだと実感させられる。

 さて、文中に「五反田からTOC(東京卸売センター)に向かう道が嫌いだ」とあった。確かに“散歩”には向かない町だが、こう書かれると住んでいる人間(当時)にとってはあまりいい気持ちはしない。つまりこれは住人ではなくあくまで旅人の目で書かれたものだということを承知しながら読んだ方がいい場合もある。

 とはいえ、いつも同じようなところをロンドのようにぐるぐる回りながら、心地良く読まされてしまうのは、やはり自分と趣向が似ている性なのだろうか。『東京つれづれ草』『東京おもひで草』そして本書に続いて『東京残影』(河出文庫刊)を読み始める。これはもはや中毒。


 『大正幻影』(97.ちくま文庫)『映画を見ればわかること』(04.キネマ旬報社)『あのエッセーこの随筆』(01.実業之日本社)『東京の空の下、今日も町歩き』(03.講談社)
(2005.12.28.)

 このところ川本三郎のエッセーばかり読んでいる。図書館で借りて主に仕事場への行き帰りの電車の中で読むのだが、すらすら読めてしまう文章力と引用のうまさ、そして博覧強記とも言うべき豊富な知識に魅せられる。

 こういう書き物は読みながら紹介されている本や映画を読みたくなったり、見たくなったりするか、あるいは書かれている地に行ってみたくなるかが勝負なのだが、そういう点では著者はまことに紹介上手。で、楽しく読むのだが、もの書きの端くれとしては、読後は「こりゃあとてもかなわない」と思ってちょっと落ち込むのだ。以下に、読みたくなった本などを。

『大正幻影』
『美しい町』佐藤春夫
『人面疽』谷崎潤一郎

『映画を見ればわかること』
『京都花園天授ヶ丘 マキノ撮影所物語』並木鏡太郎
『死者との結婚』ウィリアム・アイリッシュ
『スナーク狩り』宮部みゆき

『あのエッセーこの随筆』
『チーチャンへの絵手紙』岡本馨
『自転車』志賀直哉
『古書店めぐりは夫婦で』ローレンス&ナンシー・ゴールドストーン

『東京の空の下、今日も町歩き』
『都市周縁の考現学』八木橋伸浩
『大森界隈職人往来』小関智弘

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『シネマ今昔問答』『シネマ今昔問答・望郷篇』(和田誠)

2022-01-30 07:05:33 | ブックレビュー

『シネマ今昔問答』『シネマ今昔問答・望郷篇』和田誠(新書館刊)
(2006.7.13.)

 

映画と記憶

 和田誠の『シネマ今昔問答』『シネマ今昔問答・望郷篇』を読む。若い編集者との“問答”という形で古今の映画が語られるが、これは編集者たちの作業が大変だったろうと思ってしまうのは、同業故の悲しさか。

 さて和田さんもさすがに年を取って少々理屈っぽくなっているし、晩年の淀川長治さんとの確執を感じさせるところもある。挿絵のタッチもちょっと変わったかな。

 まあ、それにしてもクラシック映画については相変わらずの博覧強記ぶりを発揮。こちらなどまだまだ修行が足りないと思わせてくれるところはうれしくもある。なにしろ『お楽しみはこれからだ』などで映画の面白さを教えてくれた恩人なのだから。

 和田さんが、例のキネマ旬報の映画検定を受けたら満点を取るのかな。この前解答を調べたら、つまらぬミスもあり60問中7問も間違えていたのでちょっと落ち込んだのだが、思えば映画を記憶するという行為自体が変わってきている気もする。

 昔は調べものがあれば洋書も含めて本や資料を探し、きちんとメモも取っていたから記憶の持ちも良かった?のだが、最近はインターネットなどで簡単に調べがついて目で見ただけで覚えた気になるから頭には残らない。もちろん自分が年を取ったせいもあるのだが…。

 また、映画については「リアルタイムで見た」というのがやはり大きな要素を占めると思う。自分にとってのそれは、やはり1970年代から80年代のもので、テレビや名画座で後追いした昔の名作とは明らかに違う存在だ。

 これはその映画の出来、不出来、あるいは好き嫌いとは別の問題で、いくら後追いしても、作られた時代の生の空気や雰囲気までは残念ながら体感することはできない。映画を見るという行為にはそれを取り巻くさまざまな事柄が結構重要だったりもするからだ。

 だから、映画自体はうろ覚えでも、それを見た時の映画館、自分自身のことや一緒に見た友のこと、社会の風潮、流行、ファッション、音楽…そうしたものの方を鮮明に憶えていたりもする。これらが映画を思い出す時の記憶の鍵と密接に結びついていることは否定できない。

 例えば、先日亡くなったジューン・アリスンは、自分にとってはテレビや名画座で見た『甦る熱球』(49)『グレン・ミラー物語』(53)『戦略空軍命令』(55)といったジェームズ・スチュワートとの共演作が印象深い(もちろん公開されてから何十年も後の話)。

 ところが、彼女をリアルタイムで見てきた、師匠の長谷川正は「彼女が最も輝いていたのは『姉妹と水兵』(44)『百万人の音楽』(44)の頃。かわいくて一種のアイドルだった」とよく言っていた。こういうリアルタイムの実感はやはり大きいと思う。


『エジソン的回帰』山田宏一(青土社刊)
(2006.6.1.)

 相変わらず和田誠の装丁がいいのだが、以前に比べると筆者の筆力が落ちた感じがするのが、ちょっと淋しい気がした。

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