『有栖川有栖の鉄道ミステリ・ライブラリー』(角川文庫)
(2004.11.7.)
自分のような、かつての鉄道少年にとっては、このアンソロジーはたまらないものがある。昔は鮎川哲也の独断場だった鉄道アンソロジーが、自分と同年代の有栖川によって組まれる時代になったのだ。
フィリップ・K・ディックの「地図にない町」、ウィリアム・アイリッシュの「高架殺人」、そして西岸良平の漫画『鎌倉ものがたり』からの「江ノ電沿線殺人事件」は再読。
雨宮雨彦の短編「泥棒」と江坂遊のショートショート3編「0号車/臨時列車/魔法」、そして小池滋の「田園を憂鬱にした汽車の音は何か」は新発見だった。
それぞれの元本『機関車乗り』『あやしい遊園地』『「坊ちゃん」はなぜ市電の技術者になったのか~日本文学の中の鉄道をめぐる8つの謎』が読みたくなった。
『「坊っちゃん」はなぜ市電の技術者になったか』(早川書房)
(2004.11.23.)
『有栖川有栖の鉄道ミステリ・ライブラリー』の中で、「田園を憂鬱にした汽車の音は何か」を読んで、全編を読んでみようと思ったこの本を読了。
近代の有名文学の中に登場する鉄道関係の事柄を縦横無尽に推理し、それぞれの作品の側面を浮かび上がらせ、別の楽しみ方を教えてくれる。
さてラインアップは、
「坊っちゃん」はなぜ市電の技術者になったか―夏目漱石「坊っちゃん」
電車は東京市の交通をどのように一変させたか―田山花袋「少女病」
荷風は市電がお嫌いか―永井荷風「日和下駄」
どうして玉ノ井駅が二つもあったのか―永井荷風「墨東綺譚」
田園を憂鬱にした汽車の音は何か―佐藤春夫「田園の憂鬱」
蜜柑はなぜ二等車の窓から投げられたか―芥川龍之介「蜜柑」
銀河鉄道は軽便鉄道であったのか―宮沢賢治「銀河鉄道の夜」
なぜ特急列車が国府津に停ったのか―山本有三「波」
それぞれ面白かったが、自分は後半の4本が特に好きかな。こういう重箱の隅をつつくみたいな、どうでもいい雑学は結構好きだ。毛色はちょっと違うが、文学と映像を論じた瀬戸川猛資の好著『夢想の研究』を思い出した。確かあれも早川書房だった。ここは時折こういう素敵な本を出してくれる。
『機関車乗り』(鳥影社)
(2004.11.30.)
『有栖川有栖の鉄道ミステリー・ライブラリー』から派生した、先の小池滋の『「坊ちゃん」はなぜ市電の技術者になったのか』に続いて、雨宮雨彦の『機関車乗り』を読了。普通の書店ではなかなか手に入らないこの手の本が安価でネットで簡単に見つかるのはうれしい限りだ。
さてこの鉄道や機関車を扱った短編集は、不思議な味わいがあった。ローカル鉄道の廃止を皮肉った「遺産」。これまた廃線になったローカル鉄道を舞台に、少年時代の思い出と封印されたトンネルにスクラップになるべき機関車を見つけるラストシーンが余韻を残す「記憶」。架空の国を舞台にオンボロ機関車を活写した「機関車乗り」。幻の現金輸送車の存在と高校生カップルの交流を絡めた「黒橋」。そして『有栖川有栖の鉄道ミステリー・ライブラリー』に収録されていたホラ話『泥棒』。ラストは湖に沈んだ機関車を幻想的に描いた「みずうみ」。
いずれもなかなか面白かったが、文章のつたなさが惜しい気がした。さてこの作者の経歴がちょっとした謎。ひょっとしたら自分よりずっと若い人なのかも、と感じさせられるところもある。