「テレビ」と「平和」と「憲法」のblog

元ワイドショープロデューサー仲築間 卓蔵(なかつくま・たくぞう)のブログ

ついに始まった 壮大な「目くらまし」

2009-12-18 12:42:13 | Weblog
 ついに始まりましたね。
 NHKスペシャルドラマ『坂の上の雲』。
 TBSの『JIN-仁ー』というドラマがおもしろいので、日曜夜はそれを楽しみにしていたのだが、『坂の上の雲』がどんな描かれ方をするのかも気になって、チャンネルをあちこち回すことになってしまった。

 司馬遼太郎は生前、「軍国主義を鼓吹すると誤解されるおそれがあるから、映像化はしないでほしい」といっていたのですね。いくつかの映画会社が映画化しようとあの手この手でお願いしたようですが、司馬さんはその都度同じ理由で断っていたようです。
 NHKが映像化権を得たのは2001年でした。そのとき何が起きていたか・・・。『ETV2001 シリーズ”戦争をどう裁くか”「問われる戦時性暴力」』で従軍慰安婦問題を扱ったときでしたね。NHKは(政治家などの)圧力に屈して、番組を見るも無残に改ざんしてしまった。「坂の上」は、「改憲派におもねった企画だ」という批判が出たのも当然ですね。
 NHKは、「ことし横浜開港150年。これを機に日本の近現代史を見直す」としてプロジェクトをつくった。「坂の上」はその一環です。

 11月29日の第一回『少年の国』。見ましたよ。
 司馬遼太郎のいう「軍国主義鼓吹になるおそれ」どころではなかった。いきなり
主人公の一人秋山好古が弟の真之に、「あしがこの世の中で一番偉いと思うとる人の本じゃ」と『学問のすすめ』を見せる。「福沢諭吉という人じゃ。”一身独立して一国独立す”人ひとりひとりが独立して、初めて国家が独立できる。そういう意味じゃ」といいます。
 好古は、松山を出るとき、見送る後輩たちにも「一身独立して一国独立す」と叫んでいます。第二回の『青雲』でも、正岡子規に同じことをいっていましたね。
 ドラマは、いきなり福沢諭吉ですよ。
 「一身独立して一国独立す」・・・・。いい言葉です。
 名古屋大学名誉教授の安川寿之輔さんは(「福沢諭吉と丸山真男」「福沢諭吉のアジア認識」)「『文明論之概略』の終章に、日本の近代化のためには、”先ず・・・自国の独立を謀り、(「一身独立」などの)其他(の課題)は之を第二歩に遺して、他日為す所あらん」と公約していた福沢が、結局は生涯、貴重な”一身独立”の課題との取り組みを放擲したまま、日清戦争を迎えると、”我が国四千万の者は同心協力してあらん限りの忠義を尽くし、・・・財産を挙げて之を擲(なげう)つは勿論、老少の別なく切死して人の種の尽きるまでも戦ふの覚悟・・・内に如何なる不平不条理あるも之を論ずるに遑(いとま)あらず”という・・・”滅私奉公””一億玉砕”論の社説『日本臣民の覚悟』を書くにいたったという事実によってはじめて確認される問題である」といいます(「この社説は福沢が書いたものではない」という人もいますが、どうなのですかね)。でも、「国の独立が先で、人の独立は二の次」と言ったのはたしかなのですよ。これがドラマの最初に現れた。NHKによる「修身教育」のはじまりだと思いますが、どうでしょうか。

 第三回『国家鳴動』では清国の北洋艦隊が日本に表敬訪問する場面が登場します。威力のある戦艦です。招待された東郷平八郎(日本海海戦の司令長官)は、案内も乞わずに船室に下りていきます。そこで(日本海軍の制服とは比較にならない貧しい服装の水兵たちの)博打をやっていたり、麻薬を吸っていたりの光景を目撃します。
 陸に戻った東郷は、秋山真之に「戦争は入れ物の良し悪しではない。人じゃ」といいます。
 司馬遼太郎は、日清戦争の「勝利の最大の因は、日本のほうにない。このころの中国人が、その国家のために死ぬという観念を、ほとんどもっていなかったためである」と書いています。その文章の映像表現が、東郷の船室見学観となっているのでしょうね。

 さらに問題なのは、東学党農民軍の蜂起についてです。東学党農民軍は日本軍によって朝鮮半島の西南(最後は珍島)に追い詰められて虐殺される(韓国のいたるところに遺跡があります)のですが。ドラマは、参謀次長だったか川上操六が「東学党は、(朝鮮の)政府軍によって平定されました」と総理大臣の伊藤博文に報告する一言で終わっているのです。
 司馬遼太郎は、日本による朝鮮侵略の三大事件について書いていません。一つは東学党農民軍虐殺。そして、朝鮮王宮占領、王妃殺害事件です。

 このドラマは、あたかも歴史的事実のドラマ化だと思わすようにつくられています。よくドラマ番組の最後に「このドラマはフィクションです」というスーパー(文字)が表示されますね。『坂の上の雲』も、それをやったらどうですかね。
 鳩山首相は「東アジア共同体」と言っていますね。このドラマを韓国、朝鮮の人たちが見たらどう感じるでしょうか。NHKは、「まさか政権が代わるとは思っていなかった」「しまった」と思っているのではないでしょうか。でも、走り始めた車は停まらないでしょうね。
 大宣伝のわりには視聴率はよくないようです。でも、影響は大きいですよ。ドラマを見て、文庫本も売れるかもしれない。
 『坂の上の雲』で、3年にわたる「壮大な目くらまし」が始まったとみていいんじゃないですかね。そんなことを、身近なところで話し合ってみたらいかがでしょうか。
 20日は第四回「日清戦争」です。また見ることにしますが、いやだねえ。(TBSの)『JIN』は最終回のようです。85分枠にしたそうです。坂本竜馬はどうなったのでしょうかね。
 「そんなことより普天間基地の無条件撤去が先だよ」・・・そのとおり。