打倒!破廉恥学園

旋風寺武流PLが意味もなくただ、だらだらと掻き散らかすブログです。

旋風寺武流 えぴそおど ぜろ その3

2009-06-20 08:41:34 | Weblog
 亀村重太郎が病院に担ぎ込まれ、そのまま緊急入院した翌日――

 須藤マドカは東山翔子に引っ張られ、剣道部の川上秀吾がいるクラスを訪ねた。

 昨日、放課後の教室で旋風寺が連れ去られてからすぐに二人は剣道部道場へと走った――マドカに言わせてみれば翔子に無理やり付き合わされる形になるのだが。マドカ自身はできることなら旋風寺武流には関わり合いを持ちたくなかったのだが、翔子の好奇心に満ちた眼差しと友情という言葉の重みにあっさりと負けてしまったのだ。

 新校舎は馴染みが薄かったので道に迷い、なかなか道場にはたどり着けなかったが、救急車のサイレンの音が聞こえてきて、もしやと思い音が強くなる方へ走ったら、そこに剣道場はあった。

 サイレンの音を聞きつけてきたのだろう。他の部の部員たちが遠巻きに人だかりを作っていた。

 マドカと翔子が野次馬の間から覗きこんだ時、ちょうど頭からおびただしい血を流している亀村が救急車の中に搬送されていくところで、旋風寺の姿はもうどこにも見えなかった。

 サイレンが遠のいて物見高い見物人たちがそれぞれの部活に戻った後も、残された剣道部員だちは、顧問を呼びに行ったり道場の清掃をしたりと忙しそうで、とても旋風寺の行方について聞けるような雰囲気ではなかった。おまけに血が苦手なマドカは、巨漢が地に残したの鮮血に目まいを起こし、その日は帰宅することにした。

 
 そして今日、旋風寺武流は学校を休んだ。問題児がいないことで晴れやかな顔をした担任の話だと、梅雨が近づいたので風邪をひいたのだと連絡があったという。

 マドカは一日嫌な視線に襲われることがなく快適な学園ライフを過ごしていたが、翔子がどうしても道場で何があったのか知りたいと言い出たので、マドカと同じ中学出身で、あの時上級生にどやしつけられて顧問を呼びに走っていた川上に、あの時剣道場で起こった事を詳しく訊いてみることにしたのだ。

 最初、川上は話す事を渋っていたのだが翔子が「自分は旋風寺の友達だ」とはったりを利かせると、顔から血の気を引かせすぐに了承してくれた。よほど旋風寺が怖いのか、翔子に対してはへりくだる様な態度まで見せる。

 しかし話すのはほかの人のいない場所でということ。そして話した事は他言無用という条件を川上は出してきた。


 放課後――

 闘京駅近くの繁華街にあるカラオケ店の一室に三人は居た。曲が入っていない際にテレビから流れ出る女性MCの声を絞り、注文したドリンクが届いてから、川上はゆっくりと口を開いた。

「どっから話せばええんですか?」

 川上秀吾は王阪の出身だった。中学の時に家族で闘京に引っ越してきてマドカが通っていた学校へ転入してきたのだ。

「全部! どうして旋風寺をさらったのから、その日剣道場で起こったこと全て」

 翔子が簡潔にまとめた。こういう時、本当に翔子は頼りになる。自分ではこうは率直に物事が言えないだろう。もっとも、翔子の好奇心が原因でここに川上を連れてきているのだが。

「その前に本当に約束してくださいよ? うち今、緘口令が出てるんですから……こんなこと話したのばれたら……俺、殺される」

「安心してね。私も翔子も絶対他の人に言わないから」

「いざとなったら旋風寺本人が言いふらしてるって事にしたらいいし……いたっ」

 マドカにお尻をつねられた翔子が飛びあがる。

「冗談、冗談です。絶対誰にもいいません!」

 宣誓するかのように手を前に翳した翔子に、川上は小さく笑い声をあげると、ウーロン茶を一口飲んで昨日の事を語りだした。



 旋風寺がさらわれた経緯を聞いてマドカは唖然とした。緑風隊の事は知っている。昼休みや放課後などに、よく剣道着をつけた連中が校舎の見回りをしていたのをマドカも何度か見ていた。

 その学園の治安と秩序を守る緑風隊にあの旋風寺を入隊させようとするなんて――

「無謀だよねー」

 思った事を翔子があっさりと代弁してくれた。

「え、ええ……旋風寺さんを運動場で担ぎあげた時はすごい軽くて、全然腕が立ちそうに見えなかったし」

 川上は旋風寺をさん付すると、思いだしているうちに体が熱くなったのか、エアコンのリモコンに手を伸ばして気温を下げた。

「でさ。道場で旋風寺の腕試しとかしたんでしょう? うちの隊に入りたいならまずワシを倒してみろーみたいな」

「翔子、旋風寺くんは別に緑風隊に入りたがったわけじゃないんだよ。拉致されたんだから」

 隙あらばすぐに青春映画や熱血漫画的展開に物事を運ぼうとする翔子をマドカは窘めた。

「拉致て……まぁ、たしかに拉致やけど」

 使った言葉が悪かったか苦笑いをする川上に、マドカは慌てて自分の口を手で押さえた。

「拉致でもなんでもいいけどさー。それで旋風寺を剣道場に連れてきてからどうなったのよ?」

 話が進まないのでイラついたのか、翔子の鋭い声が飛ぶ。

「俺は旋風寺さんはあかんと思いました。あんな細い身体じゃ木刀もろくに振れないだろうし……亀村隊長も同じこと思ったんでしょうな。女子運動部の苦情の件を叱ればすぐに帰そうとしたんやけど……」

 川上は視線を落とすと、ぽつぽつと蟹が泡を吹くように続きを語りだした――



「ふうん。あれ、女の子のお尻を追いかけてたんだ」

 翔子がつまらなそうに茶髪を掻いた。どうやらもっとドラマティックな理由で運動場を走っていると思っていたらしい。

「すごいですよ。女の尻を観たいってだけで2時間も走り続けるなんて……俺にはそんな根性もスタミナもないし」

 マドカは川上の口調に、旋風寺に対する尊敬の念が僅かに入っている事に気づいた。自分も翔子と同じく、くだらない理由だなと思ったのだが。

「そっからが大変やったんです。旋風寺さん、どうやら自分が亀村隊長の縄張りを荒したって勘違いしたらしいんです……隊長、そんなんとはまったく無縁の人やから……おまけに同じ趣味の人みたいに言われてすごい怒って……俺、隊長があんなに怒ったの初めてみた」

「あたりまえだよねえ……」

 マドカは溜息をつくとアイスティーに口をつけた。自身でも温厚な方だと思っている自分でも、旋風寺に同士扱いされたら怒るだろう。

「旋風寺さんに、刀を取れ……って言ったんです。たぶん、制裁を加えるつもりやったんでしょうな……旋風寺さんは不思議そうな顔をしてたけど言われたとおり素直に木刀を持って……一応、体験入部してからの練習試合……って形になったんです。」

「ほうほう。それで旋風寺が勝って、亀村先輩は病院に……ってわけなんだ。どういう風に勝ったの?」

 いきなり翔子が身を乗り出してきた。大きな瞳を輝かせて続きを促す。

「いや、勝ったというか……なんていうか……あれは」

 急に部屋に備え付けされている電話が鳴りだした。この時の川上の仰天ぶりは激しく、翔子が指をさして笑うほどだった。

 マドカは受話器をとると相手の伝えてきた言葉に頷けば、二人の方を振り返って一言――

「延長しますか……だって」

 三十分のみの利用では、すべてを聞くには時間が足りなかったようだ(続)

幕間2

2009-06-19 18:33:15 | Weblog
昨日の続き――

「旋風寺武流 えぴそおどぜろ」を書いてみよーかな、みよーかなと思ったもう一つの理由……というか、書いてみたくなったテーマなんですけどね。テーマなんて高尚なもんじゃないな。

普通科の側から観た特進科の連中を書いてみたかったのです。

ドラクエシリーズで言うところの町の人たちから見た勇者一行です。あの勇者一行は町の人たちから見たらとんでもない奴らですよ。勝手に家に入って、タンス開けたり壺壊したりして無断で中身まで持っていきやがる。

普通科の生徒というのは、いわゆる一般人です。それで同じ学校に、天を割いて地を割る異能を持った連中と同じ学園生活を送るとなるとどう対処する必要があるでしょうか。

私は「よっぽどの事がないと接点がないだろうな」と考えます。身体能力の違いや特殊能力の有無がありますから、体育祭やスポーツ大会も間違いなく別に行われることでしょう。

だから、校舎は別なんじゃないかなあと思ったのです。ちょうど新校舎と旧校舎があるという設定があったので、それで普通科と特進科を分けてみました。

で、普通科には特進科が異能持ちの集団とは聞かされていないと思うんですよ。せいぜい全国から集められた学問、スポーツのエリートたちの特別クラスくらい。だって、そんなワケのわからない力を持って連中と同じ学び舎で暮らしたいかと。

人間っちゅうのは異端を嫌いますからね。親御さんもいくら有名校だからってそんな危険な連中と同じ学校に自分の子供を入学させたいかという話です。そういう理由で、きっと一部の人にしか知らされてないと思うなあ。

だからこの、えぴそおどぜろは旋風寺の視点は一つも入れず、普通科の生徒の視点のみで書こうと思っています。チャットでは(当たり前だけど)ずっと武流の視点で書いていたので、この工程はかなり新鮮です。

考えてみれば、5年間もイメチャをやってきて、一度も女性キャラを動かした事がない! だから小説もどきとはいえ女性を書くというのは非常に気恥かしかったりします。

PLさんの中には、同性キャラも異性キャラも扱える方もおられますが、本当にすげーなあ。異性をロールするのってすごい難しいと思うのに。

まぁ、そんなわけで。あと1~2回くらい、えぴそおどぜろは続くと思います。ぶっちゃけどういう展開になるかとかはその都度考えているので、どういう風に話が続くかは明日になってみないとわからなかったりします。

なんで幕間を2つも入れたかというと、アニメのアイキャッチみたいにCMの前と後に何か入れてみたかったからです。

幕間1

2009-06-18 19:27:14 | Weblog
一昨日から、旋風寺武流の過去を書いていますが、このブログを読んでくれてる人には武流って誰なのさ? と思う人もおられるかもしれません。

旋風寺武流というのは、私が創った架空の人物で、PBCサイト戦国学園の世界の住人です。

戦国学園はもともとイメチャサイトにあった数あるルームのひとつだったのですが、そのサイトが消えた際に有志の方がPBCサイトを立ち上げて下さって今に至っているというわけです。

イメチャサイトに戦国学園ができたのが2005年の春ごろだったはずですから、戦国学園の歴史は実に5年になるのです。武流は5年間、顔を出さない(または出せない)時期も多々ありましたが、それでもずーっとお世話になっています。

初期の戦国学園は今のように教室やら中庭やら屋上とか場所が区分けしておらず、一つの教室が舞台でした。

多かった時には(PCとROM合わせて)30人くらい入室していたこともありました。

私はちょうどこのころ大学に入学したばかり(とはいっても当時21歳だったのですが)でした……まぁ、私の年齢や境遇なんて今は関係ないか。

前述のイメチャサイトを覗いてみたら戦国学園という部屋ができており、そこをROMしてみたら、そこに一人の女性PCが退屈そうにしているのを発見しました。

直観的にお友達になりたいと思った私は即効でキャラクターを投入することにしたのです。なんとなくインパクトがある名前がいいな。できることなら長く続けられてしかもカッコいい名前がいい。

1分も悩まなかったんじゃないのかな。そうして登場したのが「旋風寺武流♂2年」でした。なんで2年生にしたのかといえば、その女性PCが2年生だったからです。同級生であることを会話の糸口にしたかったのです。

本当に即興で作ったキャラなので、どういう性格、嗜好なのかは全く考えていませんでした。ただ、その女性PCと知り合いたい……あの、なんか私がスケベ心だけでそんな事を考えているよーに思われているかもしれませんが、その女性PCのPLさんが書いていた文章はそれはもう表現力に溢れ美しかった文体だったのですよ。

だから、スケベ心半分&あこがれ半分と思っていただきたい!(興奮する所が逆に怪しい)


生みの親から全くキャラクターを考えられずに作られた旋風寺武流。入室した彼がまずとった行動は、廊下を自転車で力走することでした。とりあえず派手な事やってその女性PCに「退屈な男」と思われたくなかったからです。

この「退屈な男と思われたくない」という気持ちはいまだにあり、初めて見るキャラがいる部屋に後入りする時には、何かしらパンチの効いた事をしてやろうと思って入室しております。

今でこそ旋風寺武流は、大きな寺の一人息子で、スキンヘッドで、袈裟を着て、高等部卒業後は戦国学園の大学部に通っており、一人称はオイラで口癖は「~っス」と大まかな設定が決まっています。

けど、当時の私が抱いていた武流のイメージはギャルゲーに出てくる無個性な主人公だったのです。だから、その女性PCとは普通の言葉遣いで話していたし、普通に学生服を着ておりました。

そして学園内で知り合いも増えたあたりで、ある事に気づきます。みんなすげーキャラが立っている!と。ギャルゲーの主人公なんて無個性の代名詞じゃないですか。このままじゃ周囲に埋没してモブキャラみたいになってしまう!

イメチャ初心者の私は悩みました。憧れの女性PCのPLさんが「武流くんはナイナイの岡村みたいなイメージがある」と言ってくれたので、外見は猿系で、性格もギャグ好きと決まったのです……けど、それだけではオリジナリティがありませんし、すぐにネタも切れてしまうでしょう。

どーすれば、他の個性的なPCに負けないキャラクターになれるのか……暇な大学生だったので考える時間はけっこうありました。

そんな時に蒙を啓いてくれたのが、相原コージ・竹熊健太郎共著の「サルまん」でした。これの「ウケる少年漫画の書き方」の中で、少年漫画に必要なものとして「メガネくん」が挙げられており、口癖は~でやんす などがあると書かれていたのを読んだ時にピンときました。

そうだ。特徴的な口癖をつけよう……やんすだと本当に三下キャラみたいだから「~っス」にしようと決めたのです。口癖が決まれば後はそれに見合う一人称……オイラしかないよね、とすぐに決まります。一つきまれば後は一直線です。

本当……旋風寺武流というキャラクターを創るのに、いろんなところからつまみ食いしました。誰かが「旋風寺ってお寺の名前みたいだね」と言ってくれたから寺の子という設定にノり、そうなるとスキンヘッドにした方がわかりやすいな……と坊主になります。

坊主といえば一休さん……一休さんといえば屏風の虎の逸話……そうだ。武器は縄にしよう。縄で敵を縛りつけるの。SMみたいだね。SMで縄といえば明智伝鬼……明智流捕縛術とでも名付けようか。縛るだけじゃ面白くない。先っちょに分銅でもつけたらどうだろう。

そういうわけで初期の武流は、縄分銅を振りまわしておりました。

こんな風にみんなのご厚意で武流は創られておりますです。



さて、現在書いている「旋風寺武流 えぴそおどぜろ」は、武流が1年生の頃……つまり、私が戦国学園に初登場させる前の事を書いています。

どうしてこんなのを書いているかと言いますと、キャラクターの掘り下げがしたかったからです。武流が初登場したのは十六歳の時ですが、それ以前にも彼の人生はあったのです。その人生に何があったのか気になったからです。

戦国学園はPCがいる特進科とNPCのいる普通科に分けられています。読んでくれた方はおわかりになるでしょうが、1年時の武流は普通科で2年から特進科に転入するという設定になっています。

前に誰かに「オイラ、特進科に入ったのは2年からなんスよ」と言っちゃったんですよね。だからその決めちゃった設定には従わないといけない。

となると、なんで普通科の武流が、あの特殊な力を持つ猛者が集まる特進科に入れるようになったのかを考えなければなりません。

それだけではなく、どうして武流がいきなり口調が変わったのか、スキンヘッドになったのか……PLの理屈としてはキャラ付けのためで済みますが、PCとして考えてみると、これはおおごとですよ。

今まで普通の話し方をしていた人が一人称が急に変わって、独特の語尾が付くようになる。よほどの事があったに違いありません。生みの親としてはそれもきちんと考えてあげないといけない。

色々と辻褄を合せないといけない事がたくさんあるのです。めんどくさいです。でも楽しいです。化石の復元をしているよーな(そんなことしたことないけどね)。複雑なパズルのピースを捜して合わせていくような。


そして今回のえぴそおどぜろでもう一つ、テーマに置いている事があるのですけど……って、一気に書きすぎですね。幕間の続きは明日書いて、えぴそおどぜろ本編はその次の日に書きます。

ブログって本当にいいなあ。自分の書きたい事だけ書けて。こういう好き勝手自分の思ったこと書けるからブログやってるのかなあ。

旋風寺武流 えぴそおど ぜろ その2

2009-06-17 18:41:20 | Weblog
 剣道部副主将、亀村重太郎は苦虫を噛み潰したような顔で、目の前に正座する小男を睨んだ。

腹立たしい事に自分がどんなに恐ろしい形相をしても、この身長160cmに満たない小男は忙しなく逆立った髪を掻いたり鼻を弄ったりと全く動じない。

 正座をし、腕を組み、無理に怖い表情を作っている事がなんだか馬鹿らしくなってくる。小男が逃げださないように入り口を固めている隊員たちの方が亀村の威圧感に圧倒され、疲れきった様相を見せていた。

 亀村は学園の治安と風紀を守るために、剣道部の有志で作られた私設集団『緑風隊』の隊長でもあった。目安箱を設け、あまりに目に余る事態が起これば出動し、その元凶を更生または粛清してきた。

『運動場で走り込みをする度に後ろからピッタリ付いてくる一年生の男子がいます。なんとかしてください』

 4つの女子運動部から、ほぼ同時期に同じ内容の投書が目安箱に入れられた。学園に運動部は数えきれない程あるので、各部が運動場を使える時間は一日に三十分と厳守されている。投書してきた4つの運動部に与えられた運動場使用の曜日と時間帯は全部繋がっていた。

「……つまり、こいつは二時間走りっぱなしということか」

 しかも三十分ごとに前を走る集団は変わる。それに遅れずに後方を走り続けるとは――

「怪物だな……」

 基礎体力の塊のような男だ。是非とも剣道部に欲しい。何を考えてこんな真似をしているのかはわからなかったが、辞めさせて剣道部に入部させればよかろう。これぞ一石二鳥だ。

 そう考えて、隊員に腕づくでも剣道場に連れてくるように命じたのだが――連れてきたのがまさかこんな、自分の胸ほどしかない貧相な猿顔の小男だとは予想だにしなかった。枯れ木のように細く長い手で身体を掻く様は、本物の猿のように滑稽だった。

 亀村は、こんな男を待つために一人道場で瞑想していた自分にも無性に腹が立った。

「あのですね」 

 手遊びに飽きたのか小男がようやく口を開く。思った通りの軽薄な声だった。重厚、貫禄、堂々を旨とする亀村としては、できることなら一生関わらずにいたいタイプの人間だった。本来なら剣道場にあげる事すら気乗りしなかった。まして剣道部に入部させるなどとんでもない。いかに優れた体力の持ち主であろうと、この男の風体は規律と秩序を重んじる戦国学園剣道部には相応しいものではなかった。

「なんで僕はこんな所に連れてこられたんでしょうか?」

 小男が、軽く小首を捻りながらこちらの顔を覗き込んでくる。殴り飛ばしてやりたかったが隊員の目がある。

 平常心を持てと隊員たちに口がすっぱくなるほど言い続けていた亀村は、憤怒の表情を保ち、生暖かい鼻息が顎に当たる気持ち悪さに耐える他なかった。

「わからないんですよね。僕はただバレー部の後を走っていただけなのに。それなのにいきなり剣道着を着た人たちに担がれて……お神輿じゃないんだから」

 噺家のような喋り方で小男は捲し立ててくる。言葉を返そうにも口を挟む隙がない。亀村はため息をつくと大きな掌で小男の顔を押しのけた。ちゃちな身体があっさりとひっくり返る。

「まずはいきなり君を拉致した事を謝ろう……私は剣道部副主将であり、緑風隊隊長の亀村重太郎だ。君の名……」

「旋風寺武流」

 君の名前はなんなのだ――と聞こうとしたのを食い気味に返してくる小男――旋風寺武流に、亀村は激しい苛立ちを感じた。

「……旋風寺くん。実は君に苦情がきているんだよ。心当たりはないかね……運動場で」

 沸き立つ怒りを押さえながら、亀村は穏便な声音で問いただす。並の不良ならばこの時点で生きた心地がしないはずである。巨漢・亀村の声はそれだけで拷問に近い圧迫感があった。

「あ……あー。すいません、もうしませんので……たはは」

 しばし視線を宙に向けていた旋風寺は、何か思い出したかのように膝を打ち、申し訳なさそう頭を下げた。

 あっさりと罪を認め平身低頭する態度に、一瞬亀村は拍子抜けしたような表情になったが、すぐに口を真一文字に結ぶ。

「わかってくれたのか。そうか……ならばもういい。帰りたまえ。もう二度とするんじゃないぞ」

 威厳を取り繕いながら、亀村は顔の筋肉のみで微笑む。旋風寺が何故こんな真似をしていたのかは気になったが、今は一刻も早くこのモンキー面に道場から出て行って欲しかった。

 緊張感に満ちていた道場の空気が一気に緩んだ。隊員たちの顔にも安堵の表情が浮かぶ。

「本当にすみませんでした。まさかあそこが亀村先輩の縄張りだったなんて知りませんで」

 許された事がわかり、身体を起こし手足を解す旋風寺が、不意に意味不明な事を言い出した。

「どういうことかね?」

「だからあ……先輩も目ざといなあって事ですよお」

 眉根に皺を寄せ困惑する亀村の肩に、旋風寺がなれなれしく肘を置いた。

「火曜日と金曜日の4時半から6時半まで、丁度女子運動部が続けて使用しているってのに気づいていたのが僕だけだとは思いもしませんで……僕は新入生ですから、女子のお尻を後から愛でる権利は亀村先輩にお譲りいたします」

 道場の空気が凍りついた事に、元凶以外の全員が気づいた。

 殺気を孕んだ亀村の怒気に皆が圧倒される中、旋風寺は立て板に水が流れるように言葉を続ける。

「でも、苦情が来てるなんてまどろっこしい言い方せずに、あれは俺の縄張りだからお前遠慮しろって言ってくれたらよかったのに……ちょっと考えちゃいましたよ」

 亀村の額に無数の血管が浮かんだ。この小男のくだらない破廉恥な目的のために隊を動かす羽目になったこと、そんな奴を一度でも仲間に引き入れようと考えてしまったこと、何よりもその下劣な男に同好の士と思われた事にはらわたが煮えくり千切れそうになっていた。

 巨躯をむっくりと立ち上げる。肩に肘を乗せていた旋風寺が尻もちを付いて、きょとんとした表情で見上げていた。

「刀を、とれ」

 自分でも驚くほど静かで穏やかな声が出ていた(続)

旋風寺武流 えぴそおど ぜろ その1

2009-06-16 20:50:40 | Weblog
「マドカ、あれ旋風寺じゃない?」

 満開の桜も葉桜が変わり、新入生たちもようやく新生活に慣れ、そろそろ夏服への入れ替えが始まろうという季節の頃。

 戦国学園普通科一年C組、東山翔子はクラスメイトであり友達の須藤マドカと、誰もいない放課後の教室に残り、とりとめのないよもやま話に花を咲かせていた。

 夏のファッションや近所の美味しいスイーツのお店の話題で盛り上がっていたが、運動場が見渡せる窓際の席で腰かけていた翔子の目に、トラックの周りをぐるぐると学ラン姿で走っている、髪を逆立てたクラスメイトの少年――旋風寺武流が飛び込んできた。

「あ゛~。ごめん、今は旋風寺くんの事話さないで」

 机に突っ伏し、マドカが不機嫌そうに幼い声を出した。

「なになに! 何かあったの? もしかして告白されたとか!?」

 先ほどまで手持無さた気味にシャギーの効いた自分の茶髪を弄っていた翔子は、一転して溌剌とした動きでマドカと窓の外に小さく移る少年を交互に見た。

「そういうのだったら、まだいーんだけど……さ。旋風寺くんの席ね……あたしの後ろなの」

 そういえばそうだと翔子は頷く。まだこの学園に入学しておよそ1か月、席順も入学時に決められた男女混合のあいうえお順で、「すどう」の後ろには「せんぷうじ」が座っている。

「なんかね……授業中、後からものすごい嫌な視線を感じるの……背中の……具体的に言えばブラのホック辺りに……触られていないのに、触られてるようなの……怖いの」

 ものすごいの部分に語気を強めたマドカは身体を持ち上げると、長くて艶のある黒髪を掻きあげ背中に手を回す。大きな胸がたぷんと揺れた。胸に恵まれていない翔子は、マドカの仕草に少しだけ神経がいらだたせた。

「どうしてそれがアイツのせいだってわかるのよ?」

「旋風寺くんが休んだ日はそんなの感じなかったもん」

 マドカがぷうと頬をふくらます。年に似合わない幼い仕草だった。

 しばらく前に旋風寺が休んだ日があった。次の日に登校してきた彼が、季節の変わり目になると風邪を引きやすいのだと男子連中に笑って話していたのを翔子は思い出した。

「何か、すっごく真剣な様子でグラウンドを走ってるよ。ひょっとして部活にでもはいったのかな? あ……でも、前に走ってるのは女子バレー部だし」

 翔子は窓から身を乗り出す。一周400メートルほどの巨大なトラックを回っているのは、旋風寺武流とユニフォーム姿の女子バレー部の集団だけだった。少年は集団の後ろを、5メートルほどの距離を一定に保つように走っていた。

「ひょっとして二年になったら特進科に進みたいとか? 特進科って謎が多いじゃん。先生もあまり新校舎の事は話してくれないし……だから謎を解き明かすために転入する気なのかも……うおー! 燃えるっ」

 翔子は両拳を握って椅子から立ち上がれば、運動場の向かい側にそびえ立つ新校舎へと好奇の眼差しを向けた。翔子は実際にお目にかかった事はないが、学園長のお墨付きをもらった人だけが普通科から特進科への転入が認められるのだという噂を聞いた事がある。

「きっと学園長のお墨付きをもらうために修行しているんだよ!」

「翔子ってしゅぎょーとかこんじょーみたいなの好きだよね」

 マドカが心底興味無さそうな様子で、頬杖をついて窓の外を見る。翔子は胡坐をかいて椅子に座りなおした。短いスカートが捲れて健康的なふとももが露になるが、女二人だけなので気にもならなかった。

 命が惜しかったら新校舎には近づくな。入部した合気道部の先輩が真剣な顔で言っていたのを翔子は思い返した。運動場を挟んで向かい側に建っている新校舎には特進科と呼ばれる生徒たちのクラスが集まっている。翔子たち普通科はよく言えば伝統ある、悪く言えば古い旧校舎に固められており、まだ建設されてそれほど経っていない真っ白な新校舎が翔子はちょっぴりと羨ましかった。

「人間一生修行だよ。これ、おじいちゃんの口癖」

 えへん、と胸を張れば翔子は腕を組み眼を瞑る。祖父の皺だらけの笑顔が瞼に浮かんだ。

 翔子の祖父は、合気道の師範だった。すでに引退して道場を弟子に任せ、普段はのんびりと縁側で盆栽をいじったり新聞を読んでいるが、たまに道場に立った時はうってかわって矍鑠とした姿を見せる。翔子はそんな祖父が大好きだった。進学先に戦国学園を選んだのも祖父が勧めてくれたからだ。

「あのさー、翔子。ためになりそうな事言ってる時に悪いんだけどさ」

 マドカののんびりとした声が、翔子の目を開く。

「旋風寺くん連れて行かれてるよ。新校舎の方に」

 翔子は思い切り窓の方に体を向けた。剣道の胴と面をつけた数人に担ぎあげられた少年の姿が、運動場の向かい側に遠くなっていった。(続)