妖精消失(リュウコミックス) | |
クリエーター情報なし | |
徳間書店 |
「妖精消失」安堂維子里
虫の羽を生やして自然素材の服に身を包んだ金髪の少女たち。
ごくありふれた、古典的といっても過言ではないステレオタイプの妖精が見えてしまう主人公・壮一郎は、とある薬品研究所で働いていた。
脳腫瘍に悩まされる彼は、痛みと日々の苛立ちが募り、半ば自暴自棄になって、しきりにこちらへコンタクトを試みてくる妖精の指示に従うことにする。言われたとおりに薬品を調合し、装置を整えスイッチを入れて、さあできたものはというと……。
妖精を製造、というよりは、妖精がこちら側で行動するための憑代を造った、というほうがイメージ的に正しいかもしれない。
人間世界に顕現した、何もかもに興味津々な妖精・イレーヌと出会い、彼女とのやりとりのひとつひとつが、ささくれ立った心の傷を埋めていく。その様が心地よかった。
そのぶん、別れはきつい。
タイトルでもわかる通り、二人には別れが訪れる。意外といえば意外なような、そうでもないような……詳しくはネタばれすぎるので書かないが、妖精の解釈の仕方がどことなくSFチックで、そこが面白かった。向こうの世界とこちらの世界の在り方に、ロマンと切なさがあふれていて、じんときた。自分自身に当てはめてみて、もし自分が幼いころに思い描いた世界との関係性もこうだったら楽しいのになあ、となんだかうらやましかった。僕だったら号泣ものだけども。
巻末のはやぶさ帰還の話もそうなんだけど、題材への愛おしさが満ち満ちた、良作だった。
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