goo blog サービス終了のお知らせ 

はあどぼいるど・えっぐ

世の事どもをはあどぼいるどに綴る日記

声も出せない

2006-05-18 21:21:50 | 出来事
不意をつかれた。
意識の外からの一撃だった。
肺腑をえぐるようなスパイスの香り。
乾いた喉を刺激してやまない濃厚なルー。
飲み込むどころか水を口に含む暇すら与えられず、ひたすらにむせながらカウンターに沈んだ。

吉野家T店
半年以上前につぶれたはずのこの店が復活していることに驚いて、思わず店内に足を踏み込んだ。「吉野家なのにカツなあげくカレー」という語感がなんとなく気に入ってカツカレーを頼んだところ、専門店並みの激辛いカレーが出てきた故の惨事だ。
誰に予想ができたことだろう。早い安いうまいがモットーの吉野家で、明らかに辛口とわかるカレーが出てくることを。冷静に見てみればメニューにはしっかりと中辛の文字が書かれたいたが、それにしたって辛すぎる。僕は半ば本気で店員の陰謀を疑った。
たったひとりの僕のための、ピンポイント爆撃。
となれば、負けるわけにはいかないのだ。男として。人間の尊厳にかけて。視界の端で親子連れがびっくりしていたが、へこたれるわけにはいかなかった。
圧巻だった。一滴の水すら請わず、ひたすらにがっついた。渇しても盗泉の水は飲まずというが、その気持ちだった。カツとルーとライスの配分を完全にコントロールしきったパーフェクトな試合運びで、僕はそいつを克服した。
「……ありがとうございました!」
気圧されたような店員の声が、今も耳に残っている。

値段と価値と

2006-04-03 03:42:59 | 出来事
HARD-OFFで250円。それがJW-05Hの値段だ。
JW-05H。ルポのワープロ。カシオのG-98、ルポのQUALに継ぐ三代目で、出会いから三年の月日が流れていて、その間五千ページほどの原稿を吐き出した。多かったのか少なかったのかはわからない。HARD-OFFのジャンク品コーナーで5000円という値段が高いのか安いのかもわかない。値段と価値とは無関係のものだからだ。少なくとも世間で思われているほどには繋がりは深くない。
そういうことってたくさんある。自分はいったいなんなのか。この先何ができるのか。誰に何を残せるのか。価値は?値段をつけるなら?
そんなことを考えながら帰路についた。
JW-05Hはこの先誰に出会うだろう。あるいはもう出会わないのか。そのことに意味はあるのか、ないのか。価値は?それは自身が決めることだ。

パッション

2006-03-27 09:10:55 | 出来事
 満員のペトコ・パークに地鳴りのような音が轟いている。客席を埋め尽くしたファンの歓声が、足踏みが、祈りのような思いが増幅し、乱反射し、うおーんという形をともなわぬ圧力となって球場を覆っている。
 ネクストバッターズサークルから立ち上がると、彼は静かに一歩を踏み出した。一点差まで追いつかれた九回表。1死、1、2塁。その表情に迷いはない。WBC。野球世界一決定戦。かつての野球少年は、ただひとつの強いパッションだけを頼りに打席へと向かう。

 いまさらだけど、イチロー。普段はスカしてばかりで本音を見せない面白みのない男だったが、WBCの期間中は人が変わったように感情を露にしていた。
 それを見た、ある日本の芸能人がいった。
「今回のイチローの一連の挙動は計算だ。ナインを盛り上げ、低迷した日本球界へのカンフル剤とするために、あえて道化をかって出たのではないか」
 否定する材料はない。実際に、開会当初はバラバラだったナインは一丸となって戦ったし、テレビの視聴率も過去最高を記録した。
 だけどもし、と僕は思う。自分があのグラウンドに立っていたら。自分が野球に人生をかけて戦ってきたスポーツ選手で、各国の最強選手ばかりを集めた夢の舞台へ参加することができたなら……。
 おそらく、あふれ出る感情を抑えることはできない。