「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない(上)」岡田麿里
小学生だったあの頃。僕らは友達だった。町の外れの山の中に秘密基地を作り、「超平和バスターズ」なんて名乗って集まっては遊んでいた。
西洋人とのクォーターで天真爛漫朗らか少女のめんま。
整理整頓好きで、万事においてしっかりしていないと気に入らないあなる。
体が小さくて騒いでるだけのぽっぽ。
頭も顔も良く、運動神経もあって家柄も良いユキアツ。
真面目でおとなしく、絵を描くことの好きな鶴子。
5人はリーダーのじんたんを中心にした花びらのようにそこにあった。じんたんは頭もよくて運動神経もあって、行動がいちいち派手で面白くて、皆から愛され、信頼されていた。
楽しかったあの頃……。
だけど今や、6人はバラバラになってしまった。あなるは高校デビューでびっちになった。
ぽっぽは高校なんていかず、バイトをしては海外を飛び回っている。
ユキアツは相変わらずスペックが高いまま、しかし常に斜に構え、何事にも嫌味をいわずにはすまないいけ好かない男の子になった。
鶴子はユキアツと同じ学校に通い、彼女ではないけど常に彼の側にいて、痛々しい彼のことを案じてばかりいる。
めんまはあの夏に死んだ。山の中の足を滑らせ、帰らぬ人となった。
そしてじんたんは……あれからひきこもるようになった。外に出る気力がなくなった。一度出ないようになると、世間の目が怖くなった。知人と出会わぬよう、外出するときは変装するようになった。
僕達は……変わってしまったんだ……。
めんまがじんたんのところへ化けて出たところから話は始まる。
じんたんは高校生(不登校だけど)になっていて、めんまはあの頃に比べるとちょっと成長しているように見えた。でも彼女は死んでいて、その姿はじんたんにしか見えない。でも彼女はそこにいて、嬉しげに楽しげに、じんたんに話しかけてくる。体は大人で、でもおつむはあの頃のままで。
自分だけの現実をどう処理すればいいのか、じんたんは思い悩んでいた。自分は狂ってしまったのか。そうでないとして、これからいったいどうすればいいというのか。
同じクラスのあなるがじんたん宅へプリントを届けに来た。ふと訪れた山の中の秘密基地には外国帰りのぽっぽが住んでいた。道端で、ユキアツと鶴子に出くわした。何かのスイッチが入ったように、奔流のように、過去の人物がじんたんの周りに出現しだした。
「ただねー、たぶん。お願いを叶えてほしいんだと思うよ。めんま!」
めんまが何を願っているのかもわからないままに、じんたんは再び集まった超平和バスターズたちと共に謎に挑む。めんが何を望んでいるのか。自分たちにはめんまに何ができるのか。何がしたかったのか……。
というわけで、「あの花」ノベライズ、読みました。
この作者の岡田なんとかという人は知らないけど、文章の破綻もなく、普通に読めました。もちろんストーリーは知っているので、どきどきとかわくわくはないのだけど、アニメでは語れないような細部のディティールまでが読めるのは良かった。視点変化の多さはアニメ原作のせいだと思うけど、そこだけ落ち着かなくて気に入らなかった。
相変わらずじんたんはヒッキーで後ろ向きでうざいけども、でも、それだけめんまは彼にとって大事なものだったんだと思うたびにじんわりきます。僕は、僕も強い人間ではないので、彼の気持ちはよくわかります。そんなに簡単に切り替えることのできない想いってあるんだよ。何年経っても、何十年経ったって、忘れられない傷ってある。
この話は、「じゃあな」の物語なんです。大事なあの娘にきちんとできなかったお別れをするための。そうして再び前を向いて歩いていくための。
上巻では、ユキアツの例のあれがばれて、めんまの存在を認知させてってところまで描かれています。下巻は当然の買い。もう一度、あの別れのシーンを堪能したいと思っています。