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はあどぼいるど・えっぐ

世の事どもをはあどぼいるどに綴る日記

時をかける少女

2009-01-14 21:15:21 | 映画
時をかける少女 通常版 [DVD]

角川エンタテインメント

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「時をかける少女」監督:細田守

 筒井康隆原作大林宣彦監督の名作のアニメ化……といいつつ原作も映画も未読で未見だったりする。
 どこにでもいるような普通の少女・真琴は、男友達の千秋、巧介と3人でつるんでいつも一緒に遊んでいた。野球もどきをしたり、七夕を祝ったり、悪巧みを企んだり、イベントごとのみならず放課後日常生活においても常に共にあった。そこに色恋沙汰の交わる余地はない。
 私たちは男でも女でもない。純粋な友達。
 と思いこんでいた。少なくとも真琴にとってはそれが世界の真実だった。
 すべてが変わったのは、あの事件のせいだ。誰もいない理科実験室で、すっころんだ拍子に割ってしまった何か小さなもの。クルミの実ほどの微かな質量の物質の中に封じ込められていたのは、なんと時を越える能力。神聖不可侵なる不可逆性の壁を乗り越えて過去へと戻る能力「タイムリープ」を、真琴は手に入れた。
 初めはおそるおそる、やがて大胆に。能力の使い方を心得た真琴は、日々の生活の中で少しでも気に入らないことがあれば、すぐさまタイムリープしてやり直す。自由にリセットの効く人生の楽しさに、真琴は大切なものを見失ってしまう。それが、辛い別れのきっかけだとも知らずに……。
 正直いって、半分までは駄作だと思っていた。友達以上恋人未満の高校生たちの三角関係なんて見たくもない。何度も停止ボタンに手が伸びたが、いや、最後まで見てよかった。後半一気の畳み込みで、話は一気におもしろくなった。タイムリープすることの危険性と、失われるもの、二度と取り戻せないものとの関係性がクールだ。大衆に媚びた都合のいい終わらせ方もせず、印象的な台詞のやりとりで締めた別れのシーンの出来の良さに、エンドロールが流れたあともしばらく余韻に浸っていた。話が終わったあとの真琴の行く末を様々想像して、嬉しいような切ないような気持ちになった。なるほど、さすが名作と呼ばれるだけのことはある。

とらドラ!

2008-12-26 20:53:46 | 映画
とらドラ! Scene1 (通常版) [DVD]

キングレコード

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「とらドラ!」竹宮ゆゆこ

 見てます。
 高須竜児と逢坂大河の2名の恋愛模様、というとなんだかBL風味だけど、実際には清く正しい男女の恋愛もの。大河の親友・櫛枝実乃梨に恋する竜児と、竜児の親友・北村祐作に恋する大河。利害の一致する2人が互いの恋の成就を応援し共闘し合ううちに、いつの間にか心通わせ、逆に自分たちがくっついてしまうストーリ-……だと思う。まだくっついてないけど。
 戦闘も冒険もない、流行の日常系……というのかな。ベタな構成が、どこか昭和の恋愛ドラマを想起させる。比較的に新しい作品なのに懐かしい香りがする。家事一切なんでもござれの竜児と木刀を振り回す手乗りタイガー(小さいけど虎)こと大河の組み合わせなんていうのはいかにも現代的だけれども、雰囲気というか……テーマのせいだろうか? いずれにしろライトノベルという分野で成立する話だとは思わなかった。それだけ表現のバリエーションが豊富になっているということかな。
 天真爛漫すちゃらか娘・実乃梨、冷静快活な委員長・北村、表裏激しい高校生モデル・川嶋亜美。周囲を固めるキャラも賑やかでいいけど、やっぱりダメを押すのは主人公の2人。「バカ犬、なんとかしろ」とせっつく大河を「しょうがねえなあ」となだめる竜児の関係性が良い。口では喧嘩みたいなやり取りしつつも心の部分では信頼し通じ合えている間柄が素敵。
 しかし竜児はいい男だ。家事一切できるだけでも同性としては尊敬しきりだが、女性への誠意ある接しかたが凄い。どんなめんどくさい注文でも文句をいわずにこなし、最大限相手のためになるように仕向ける。で、たぶん引くべき時には引ける。男としてこうありたい、という理想のひとつ。最終的には2人くっついちゃうと思うんだけど、くっつかなくてもいいと思う。このまま仲良く老いていって、いつの日か何気ない会話の中で気持ちをぽろりと漏らし合う……みたいな。いいと思うがなあ……。

ふたり

2008-11-08 20:15:23 | 映画
ふたり 特別プレミアム版<初回限定2枚組>

パイオニアLDC

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「ふたり」監督:大林宣彦 原作:赤川次郎

北尾雄一(岸部一徳)、治子(富司純子)、美加(石田ひかり)一家の歯車は、美人でしっかり者で優等生の千津子(中嶋朋子)を亡くして以来狂ってしまった。心の弱った家長の雄一と妻の治子を精神面で支えたのは、千津子と仲の良かった次女の美加。目の前で姉の事故死を見てしまったわりに平静な美加は、ひたすらマイペースに日々を過ごしていた。しかしそれには訳があって……。
 暴漢に襲われ間一髪の美加を、千津子が救う。霊体ゆえに手は出せないものの、その後もことあるごとに彼女は美加の前に現れる。かねてから姉の気配を身近に感じていた美加は、驚くべき事態の推移にもまったく微動だにしない。むしろ戻ってきた姉とのやり取りを楽しみながら、青春を過ごしていく。
 美加の生活に絡んでくるのは親友の真子(柴山智加)や姉の恋人・神永(尾美としのり)などの優しい人々……だけではない。クラスメイトの万里子(中江有里)や演劇部のライバル・敬子(島崎和歌子)は意地悪だし、雄一は背信、治子は入院とトラブルだらけ。
 でも、どんなに辛いときでも美加の隣には常に千津子がいた。時間の止まってしまった彼女と成長し続ける美加の間には軋轢だって当然あるけど、常にわたしたちは「ふたり」だった……。

 尾道を舞台にした大林監督の三部作の第一作。はっきりいって趣味ではないが、新婚旅行で尾道に行くということもあっての視聴。
 石田ひかりが若い。ぷっくらしてるけどやたらかわいい。動作や台詞の微妙な機微がいちいちツボにはまって楽しく見れた。
 多くの別れのシーンがあっさりすぎたり、人間関係がどろどろしすぎるのが難だが、それもこの監督の味と思えば気にならない。万人受けする名作というといいすぎだが、決して悪くはない。誠実さを感じるしっかりした作りの良品。坂が迷路のように入り組む尾道の町独特の風情や、その中でひっそりとたたずむ石田ひかりの母役・富司純子のたおやかな美しさが光った。

スレイヤーズ~完全無欠版~

2008-10-27 20:04:26 | 映画
スレイヤーズ~完全無欠版~【劇場版】

バンダイビジュアル

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「スレイヤーズ~完全無欠版~」監督:わたなべひろし 原作:神坂一

 盗賊殺し、ドラゴンもまたいで通ると悪名ばかりが名高い天才魔道士リナ・インバース。リナのライバル(勝手に)サーペントのナーガ。ひょんなことから「約束の島」ミプロス島の高級温泉招待券を手に入れた2人は、バカンス気分に浮かれて海を渡った。しかしたどり着いた先ではタコに操られた男達の襲撃を受け、夢ではラウディ・ガブリエフという謎の老人の囁きに悩まされ、あげくは魔族ジョイロックに負傷を負わされる。謎に肉薄する2人(主にリナ)。一連の事件の根底には、悲しき末路を辿ったエルフの一族の怨念が横たわっていて……。
 
 ひさしぶりの視聴。原作第一作の発売から実に19年もの月日が経過しているが、まったく色あせていない。リナは相変わらずパワフルで傍若無人で、酒と食い物とお宝に目がなくて、ナーガはまあ……いつものナーガだ。すぺしゃる版の延長線上ということでガウリィの出番はないが、血脈と思われるラウディ・ガブリエフが登場していて、本編ファンへの配慮も充分。
 劇場版スレイヤーズの中でも白眉といわれるこの完全無欠版。さすがに出来がいい。画質やキャストはもちろん、タイムスリップを使った泣かせどころもあり(ただしツッコまないこと)、なんとも楽しい。
 中でも一番は食事風景。貝のバター焼きやご当地料理の数々、酒をたらふく流し込むリナの姿が爽快。お酒を美味しそうに呑む女の子ってのは可愛いもんだけど、まったく、カクテル一口飲んで「赤くなっちゃった~」なんぞとほざく女どもに見せ付けてやりたい。

パコと魔法の絵本

2008-10-14 20:30:15 | 映画
「パコと魔法の絵本」原作:後藤ひろひと 監督:中島哲也

 緑のタイツを履いた医者、悪魔のような看護婦、子持ちのオカマ、薬中の役者、消防車に轢かれた消防士、銃の暴発で入院中のヤクザ、偏屈な大会社会長とその財産を狙う甥夫婦……。奇人変人ばかりが集う病院の中でも、とびきりの変人・大貫(役所広司)は、胸を患って一線を退いた会社経営者だ。社会から隔絶された疎外感からか、他人を口汚く罵り、意地悪ばかりする嫌な爺になってしまった。
 そんな大貫の前に、絵本を携えた女の子・パコ(アヤカ・ウィルソン)が現れる。いつもの調子で怒鳴り散らし、突き飛ばす大貫だが、パコはびくともせず、ニコニコ笑いながら接してくる。拍子抜けしたと同時に絵本まで読んであげてしまった大貫だが、一連の騒ぎの中で思い出のライターを無くしてしまう。
 どんなに探してもライターは見つからず、翌日となった。昨日と同じ場所でパコと出会った大貫は、初対面のように接してくるパコを奇妙に思いながらタバコを吸おうとしたが、当然ライターはない。すると、満面の笑みを浮かべながらパコが取り出したのは、無くなった大貫のライターだった。盗まれたと早とちりした大貫は、勢い余ってパコをビンタしてしまう。
 交通事故で両親を失い、脳に障害を受け、記憶が1日しかもたない病気にかかっていたパコ。しかし、大貫が頬に触れるとそのことだけは思い出すようになった。そんな奇跡のような出来事が、大貫を変えた。毎日絵本を読んでやり、頬に触れてやることで、なんとかパコの病を治し、自分のことを覚えてほしいと思うようになる。しかし大貫の体調も決して思わしくはない。迫り来るタイムリミットを感じながら、大貫はある決断を下すのだった。それは、絵本を現実のものとすること。「ガマ王子とザリガニ魔人」を病院の皆で演じ、パコの記憶を永遠のものとすること……。
 
 記憶喪失プラス劇中劇とCG。役所以下、個性豊かな面々の描く濃厚なファンタジー。
 想像以上に面白い。ごった煮のようなそれぞれの要素ひとつひとつに手を抜かず、ディティールにこだわった結果、良質なファンタジーに仕上がった。序盤はもたつきもあり、役所の悪行がひどすぎて見るに耐えないが、優しさに目覚めた後半からの一気呵成の展開が良い。心配されていたCGと実写との融合も無理なくこなせている。
 阿部サダヲ、土屋アンナ、加瀬亮、山内圭哉、劇団ひとり、國村隼、小池栄子、上川隆也などなど、個性派勢ぞろいの役者陣も良かった。個々の特徴を生かした濃すぎる演技も、逆に濃すぎるがゆえに絶妙にマッチしている。大人から子供まで満遍なく楽しめる、おすすめの一作。

金融腐蝕列島 呪縛

パイオニアLDC

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これは役所改心の作品。「Shall We Dance?」なんか目じゃない(いや、十分面白いけどね)記憶に残るほどの一作。緒形拳、峰岸徹と立て続けに名優が亡くなる昨今、是非役所広司には長生きしてほしいものだ。

HOSTEL2

2008-09-27 18:16:52 | 映画
ホステル2 [無修正版]

アミューズソフトエンタテインメント

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「HOSTEL2」総指揮:クエンティン・タランティーノ 監督:イーライ・ロス

 ベス、ホイットニー、ローナは美術学校の生徒。プラハへの旅行の最中、先日お世話になったばかりのモデル・アクセルに再会する。スロヴァキアにいいスパがあるので行こうとの誘いに乗った3人はプラハで電車を乗り換える。
 たどり着いた村は風光明媚で収穫祭の真っ最中。宿泊先のホステルはバックパッカーで一杯だけど、作りに歴史があっていい感じ。肝心要のスパも広大で気持ちよくて、もう最高!
 と、いいことばかりでは終わらない。実はバックパッカーを拉致しては拷問して殺すマンハントな組織の一員だったアクセルと村人の手引きによって、ローナが失踪。ついでホイットニーが、村の様子を不審に思って警戒を怠らなかったベスも、ついに組織の手に落ちる。
 一方、組織の新人会員トッドとスチュアートは、同村の高級宿に宿泊しながら、その時が訪れるのを待っていた……。

 好評だった前作の影響か、かなり金のかかった作り。しかし前回と違って今回は主人公一行が女。なのでお色気シーンはなく、47分間延々と「旅」の楽しさを見せ付けられる。実際のロケ地はわからないが、個人的には見ていて楽しかった。収穫祭に一緒に混じって踊りたかったし、スパで泳ぎたかった。その時点でホラー映画としてはどうだろうと思うのだが、これもこの監督の「らしさ」なのかもしれない。
 お待ちかねの人はお待ちかねの拷問シーンは、前作よりさらにぬるい。それぞれの会員たちが思い思いに己の欲望を満たす趣向が強いので、残虐というよりは大掛かりなブラックジョークを見ている気分。殺人が目的のイメクラみたいな……。
 オチは秀逸。バレバレといえばそうなのだが(鈍い僕は気づかなかったのだが)、きれいな転換ぶりが気持ちよい。
 で、今回も出てきてます。恐ろしい子供たち。要所要所で出てきては悪行三昧を繰り返して、シリーズの裏ボス化しています。銃を向けられても微動だにしないその表情が不気味でいい味出してます。将来が楽しみ(?)
 あ、一応前回の主人公パクストンも出てきてるんですが、おそろしいほどぞんざいな扱いなのが面白かった。こういうやり方するなら次回作はなさそう。

HOSTEL

2008-09-27 15:39:36 | 映画
ホステル 無修正版 コレクターズ・エディション

ソニー・ピクチャーズエンタテインメント

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「HOSTEL」総指揮:クエンティン・タランティーノ 監督:イーライ・ロス

 アメリカ人バックパッカーのパクストンとジョッシュは、ドラッグと女の快楽の海を漂うようにヨーロッパを旅していた。道中知り合ったアイスランド人のオーリのツテでスペインへ向かう3人の前に現れた謎の青年アレックスの誘いにより、降り立ったのはスロヴァキア。
 社会主義の名残りの残る閉鎖的で貧困に喘ぐ東欧の田舎町というイメージからは想像もつかない自由のパラダイス。喜んだ3人はチェックインしたホステルでナタリアとスベラナという2人の美女と同部屋になり、さらに有頂天へと駆け上る。
 魅力的な一夜が明け、ふと気づくとオーリがいない。何もいわずチェックアウトして携帯にも出ないという、人柄からは想像もつかない行動をいぶかしんだ2人は滞在予定を延ばしホステルにとどまることに。だが今度はジョッシュまでもがいなくなり(主役だと思ってたら違った)、怪しげな態度をとるナタリアのあとを尾行したパクストンは、そこで想像を絶する危機に直面する……。

 タランティーノ絡みの(監督ではない)作品独特のアクの強さが気に入らない人や、拷問やグロテスクなシーンが嫌いな人は回れ右。
 惨劇シーンまで30分ほどかけてじわじわと雰囲気を作り上げる丁寧さは、この手の映画にしては珍しい(AVなどとは視聴者層が違うとはいえ、いきなりその手のシーンを求める人はやっぱり多いものだ)。本当に、あらすじさえ知らなければバックパッカーたちの青春映画といっても十分通じる。そこからの大変転がなおさら効果的、というわけだ。
 拷問シーンは「ぬるい」。「SAW」などと比べても全然大人しく、構えて見ていた分肩透かしを食らった。いや、痛いの苦手なので(見るな)。
 伏線を回収しつつの逃避行は凡庸だが、納得はいく。不気味な子供たちが大人に牙を剥くシーンは恐ろしかった。
 教訓:子供をぞんざいに扱ってはならない。

崖の上のポニョ

2008-08-10 15:09:18 | 映画
崖の上のポニョ―宮崎駿監督作品 (ジス・イズ・アニメーション)

小学館

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「崖の上のポニョ」監督:宮崎駿

 町中に垂れ流れる毒電波で大人も子供も絶賛洗脳中の本作。カオスな見た目とは裏腹に、中身は非常にオーソドックスな内容だった。一言でいうなら宮崎駿アレンジの人魚姫。
 父・フジモトと無数の姉妹たちと潜水艦に住むポニョ(本名ブリュンヒルデ)は、常にフジモトの監視下にある窮屈な暮らしを嫌って脱出する。流れ着いた先の海辺の町で宗介という少年に出会い、その優しさに惚れたポニョは、人間となることを決意するのだが……。
 夏休みの子供をターゲットにした直球ど真ん中のストーリーは、ちょっとご都合主義すぎてヒク人はヒクかもしれない。ポニョの変化(人面魚→両生類→人間)はキモいでしょ。とか、宗介すごすぎ(5歳児にしてモールス信号を駆使し、化学力学を理解し、礼儀をわきまえ、勇気があって女の子にもモテる)。とか、リサ(宗介の母)は宗介をぞんざいに扱いすぎ。とか、個人的にもつっこみどころはいっぱいあるのだが、この映画に関してはもはやつっこむこと自体が野暮だと思うのでスルーした。大人だったらどんと構えて楽しむべし。
 お楽しみポイントはやはり画像。子供が描いたような素朴なタッチの絵と彩色のセンスが抜群。透明度の高い深海と、ヘドロの近海、デボン紀をイメージした生命の坩堝の海、という3つの海が印象的。本当に、各シーンごとに心を打たれ続けた。子供みたいに「すっげえ!」という感嘆詞しか口に出来ないほど。最近の宮崎作品のメッセージ性に辟易していた人にもおすすめの良作。

ザ・マジックアワー

2008-06-19 21:46:58 | 映画
 マジックアワー:日没後の、残光が空に淡いグラデーションを描く美しい時間帯。

「ザ・マジックアワー」監督:三谷幸喜

 昭和の風情を今も残す港町・守加護のギャング「天塩商会」のボス(西田敏行)の愛人のマリ(深津絵里)に手を出した備後(妻夫木聡)は、コンクリを抱かせて沈められる代わりに伝説の殺し屋「デラ富樫」を連れてくることを命ぜられる。
 知り合いだとタンカを切った手前、表面上は余裕のそぶりをみせたものの、デラ富樫が何者であるかも知らなかった備後には、顔すらも謎の殺し屋を連れて来ることは難しい。捜索の期限が迫る中、いよいよ切羽詰った備後のとった手は、俳優・村田大樹(佐藤浩市)をデラ富樫に仕立てあげることだった。
 一方、クドい演技のせいでいつまで経っても売れない村田は、自分が主役のしかもギャング映画と聞いて胸を躍らせる。しかし監督が素人の備後であること、台本がなくスタッフも極少人数であることに不安も覚える。マネージャーの長谷川(小日向文世)にせっつかれるとそのふり幅はいよいよ大きくなるが、かつて憧れた銀幕のスター・高瀬允(柳澤愼一)のような名台詞を吐く夢を捨てられず、ぎこちないギャング映画の撮影の日々に没入していくのだ……。

 三谷幸喜の勘違いコメディ。十八番の分野ということもあり、脚本の完成度はさすがに高い。
 人間関係が淡白すぎてちょっと入り込みにくいが、そうそうたる顔ぶれのキャストの個々の演技力が、弱点をものともせずにぐいぐい魅せる。
 とくにデラ富樫兼村田大樹役の佐藤浩市の、夢見ることに疲れた三流俳優ぶりはお見事。天塩商会ボス役の西田敏行とのシュールなやり取りは、本作最大の見せ場。
 表題のマジックアワーは映画用語らしいが、この言葉が映画の随所に効果的に響いていて印象的だった。人生のマジックアワー。毎日のマジックアワー。優しくて儚い言葉だ。

シークレット・ウィンドウ

2008-04-19 20:33:17 | 映画
シークレット・ウインドウ コレクターズ・エディション

ソニー・ピクチャーズエンタテインメント

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「シークレット・ウィンドウ」監督:デヴィッド・コープ

 スティーブン・キングの中篇「秘密の窓、秘密の庭」を原作としたサスペンス・スリラー。
 湖畔の別荘で新作の構想を練る小説家モート・レイニー(ジョニー・デップ)のもとに、怪しい男ジョン・シューター(ジョン・タトゥーロ)が訪れる。
「俺の小説を盗んだな」
 シューターはモートが自分の作品を盗作したと言いがかりをつけ、自作を置いて去る。
 シューターの小説「種を撒く季節」が自らの小説と瓜二つの内容だったことには驚いたが、まったく身に覚えのない疑惑なので相手にしないモート。しかしシューターの嫌がらせと糾弾はとどまるところを知らない。
 愛犬を殺され、別れた妻エイミー(マリア・ベロ)の家を燃やされ、友人の私立探偵ケン(チャールズ・ダットン)と共にシューターに立ち向かうモート。だがそこにはさらなる悪夢が待っていて……。

 キングらしい緊迫感のある佳作。
 得体の知れない男が徐々に身の回りに迫ってくるのがシンプルに怖い。しかもその男に理屈は通じず、法など意に介さず、圧倒的な武力までもっているのだから、本当、身の毛もよだつ。
 先は読めるが、見せ方がしっかりしているし、オチにも筋が通っているので気にならない。どことなく「SAW」を思わせるようなラストの後味の悪さも程よい加減。
 腺病質の美男子を演じさせたら右に出る者のいないジョニー・デップと、揺るがない魂を感じさせる男ジョン・タトゥーロ。2人の掛け合いもお見事。おすすめの一作。