文芸春秋100周年記年号の中で五木寛之氏の心を打った「う
らやましい死に方」には404通の投稿があり10編が選ばれ
た、そのなかで私が注目したのは86歳男性が書かれた「長い
旅に出た妻」進行性すい臓がんを患い余命半年と言われた妻を
見送った思い出を語った内容である。
40日間の放射線治療、自宅と地元の病院での約5ヵ月間の闘
病生活、60キロあった体重が40キロまでおちるほど体は衰
弱していった、余命半年延命治療は拒否、そんな苦しい状況で
も家事経験のない夫に3ヵ月間料理や洗濯など特訓、妻は死に
向かうというよりどこか遠い所へ旅行する気分だった、その後
容体が急変、夫と3人の子どもの前で力尽き静かに息を引取っ
た。
それから病院の枕元の机の引き出しを整理してたら弱弱しい文
字で書かれた便箋が見つかった「お父さん、今までいろいろと
ありがとう、いつ亡くなっても思い残すことはありません、今
度生まれかわってもまたお父さんと結婚したいです、いつまで
も元気でいて下さいね」年甲斐もなく便箋にぽたぽたと落ちる
涙を抑えることができなかったという男性、情愛あふれる内容
は、まさに心打たれるものがあった。