隅の老人のミステリー読書雑感

ミステリーの読後感や、関連のドラマ・映画など。

0921.よもつひらさか

2008年10月30日 | 短編集
よもつひらさか
読了日 2008/10/30
著 者 今邑彩
出版社 集英社
形 態 文庫
ページ数 385
発行日 2002/9/25
ISBN 4-08-747490-9

表題作を含む12編の短編集。前にも何度か書いてきたが、僕はこの作者のストーリー・テリングが好きで、何かの拍子で読みたくなる作家の一人だ。
アンソロジーを除いても、既に19冊も読んできた。長編はいろいろと色づけはあるものの、殆どが本格ミステリーで、そうしたことも好きな要因の一つだ。長編「金雀枝荘の殺人」を初めて読んだのが2003年だから、5年で19冊は多いのか、それとも少ないのかは判断に迷うところだが。それほどの多作家ではないだろう。
もう未読の作品も残り少ないのではないかと思う。

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さて、本書は本格推理を踏襲してきた著者には珍しく、恐怖小説のような短編集で、最初の1篇を読み始めたときには、タイトルも似通っているし偏執狂の話のような感じがしたので、前回の「見知らぬ乗客」を連想したがお終いまで読んで全く狙いが違っており、ちょっと引っ掛けられた感じだ。
ミステリーを読む楽しみの一つ、というより楽しみの大部分は、この作者にしてやられたという感じではないだろうか?少なくとも僕にとっては、うまくかつがれた!あるいは、作者の思惑に引っかかった!という思いがミステリーの醍醐味だと思っている。

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本書に収められた短編は、様々な趣向を凝らした作品だが、全体的には表題作に示された「よもつひらさか」に代表されるように、ホラー傾向の作風が多いが、怖いだけでなく、読後切なさが募るようなものや、本格推理を思わせる?ものもあり、バラエティを感じさせる。
タイトルとスタートの話し具合から、途中までてっきり安楽椅子探偵ものだと思っていた「家に着くまで」のストーリーの展開にも、お終いまで読んで「だまされた」という感じを持った1篇で好きな作品だ。話し好きの運転手のタクシーに乗った、お笑いタレントの話で、ストーリーの殆どを二人の会話で占めるという佳作。

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一枚の奇蹟の写真を巡るストーリー「時を重ねて」と、夢と現実の狭間を彷徨うような感じを抱かせる「夢の中へ・・・」は、読後切ない余韻を持たせる、ファンタジー風な作品で、この中では一番好きな作品だ。

初出誌
(小説すばる1993年~1998年)
# タイトル
1 見知らぬあなた
2 ささやく鏡
3 茉莉花
4 時を重ねて
5 ハーフ・アンド・ハーフ
6 双頭の影
7 家に着くまで
8 夢の中へ・・・
9 穴二つ
10 遠い窓
11 生まれ変わり
12 よもつひらさか




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