隅の老人のミステリー読書雑感

ミステリーの読後感や、関連のドラマ・映画など。

1227.犯人のいない犯罪

2012年03月03日 | 連作短編集
犯人のいない犯罪
読 了 日 2012/02/17
著  者 小杉健治
出 版 社 光文社
形  態 文庫
ページ数 328
発  :行日 1999/01/20
ISBN 4-334-72754-9

 

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ったったくどうしようもないほど、この読書記録が億劫になって、「もうどうでもいいや」というような気分に落ち込むことが、時々現れるようになった。
大 大半の原因は歳を取ってきたということなのだろうが、世の中には80歳になろうが90歳になろうが、驚くほど精力的に活動を続けている人も多い。僕の場合はどうやらち ょっとした何かが満たされたときに怠惰の虫が生じるようだ。
スポーツ選手の中には成功する要因の一つに、「ハングリー精神を持ち続けること」を挙げている人がいる。僕などは貧乏暮らしをしている割には、そのハングリー精神に欠けているのではないかと思うが、ちょっと意味合いが違うか!
大した能力もないくせに、いろいろと手を出すものだから、どれもが中途半端になって、元気なうちは続けようと思っている肝心の読書記録への熱意を失うという羽目に陥るのである。何を言いたいのか、わからなくなってきた、無駄な自己分析はこの辺でやめよう。


さてさて、サラリーマン金融が出てきたころから次第にその姿を消しつつある質屋さんだが、本書によればまだまだ頑張っているところも少なくはないということだ。サラリーマン金融と質屋ではその性質が基本的に違うのだが・・・・。
まあ、それはともかくとして、本書は台東区浅草五丁目にある明治創業のそうした昔ながらの質屋さんを舞台とした連作集である。
例によって僕の勘違いというか、思い込みというか、裁判小説を期待して買ったのだが、開けてみてから違いに気づくというお粗末さだ。僕は著者の裁判小説に魅せられて、古書店を訪れるたびに著者の本を探してしまう。近頃は著者の本も時代物が多くなって、現代ものはなかなか見つからないので、見かけると中身を確認しないでレジに向かうといったことが、本書のように思いがけず手に入れるということになる。
しかしながら、負け惜しみではないが読み始めてその面白さに引き込まれる。天野質店三代目の父親とその家業を継ごうという息子の二人が物語の主人公だ。そしてもう一人、店主である天野藤吉のもとへ定期的に通ってくる女性がいる。
まだ30歳前の若い女性は女子大の講師を務める岩崎映子、日本の質屋史をまとめたいということで、藤吉の話を聞きに来るのだが、難しい言い回しの岩崎映子を当の藤吉は苦手としている。


る日天野る日天野質店に現れたのは、象牙の撥を質入れに来た女だった。兄が会社の金を使い込んだので、その金を返すために母の形見の大事な品を、質入れしなければならなくなったということだった。亡くなった母親は元清元の師匠だったという。
だが藤吉は、三十万円を貸してほしいという女に、吉原にでも行って身を売ったらどうかという身もふたもない言葉を浴びせて断ったのだ。そばで話を聞いていた息子の藤一郎は、女が気の毒になって自分の金を三十万貸すのだが…。(質草・象牙の撥)をはじめとして、下の収録作にあるように七話が連作の形で描かれる。
一話ごとにミステリアスなエピソードが語られていくのだが、それを見事な推理によって解き明かしていく名探偵は、なんと藤吉のところに通ってくる岩崎映子だった。
そして彼女が足しげく天野質店に通ってくるのは、質屋史をまとめるためばかりではなかったことが最終話で明らかになるという趣向だ。
今も昔気質が残る下町の人情噺である。

 

収録作
# タイトル
1 質草・象牙の撥
2 怪異な質草
3 蘇る仏像
4 密室の質草
5 人情質屋の打算
6 質札のお守り
7 質屋廃業


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