Webと合わせ盛況だったシンポ
パネラーとの総合討論
北日本漁業経済学会の第51回大会シンポジウム「転換期を迎える北日本の定置網漁業−新水産政策を現場から検証する」が12月3日午後から北海学園大学7号館D30室で開かれ、Web会議を併用し、約90人が参加し、専門家の報告や討論を聞いた。
まず、コーディネーターの濱田武士北海学園大教授がシンポの狙いについて「新制度はTAC魚種に対しては定置漁業であっても若干量・現行水準ではなく厳格な数量で管理される」と問題を指摘し、「新しい政策と現場の受け止めを確認し、そこにある溝を埋める議論、将来の定置漁業、新たな漁場利用体制などの観点からも浜の今後のあり方を考えたい」と語った。
第1報告の長谷成人東京水産振興会理事が「水産政策の改革と定置漁業」をテーマにTAC対象魚種拡大に当たり、資源評価に「一定の信頼性」と配分に「一定の公平感」が必要とし、定置網のTACをいかに進めるかに言及。その際、検討すべき「配分、留保、枠の融通、採捕停止命令」といった項目に触れ、「収入プール制と経営体ごとの割り当て目安の設定」などを提起した。ブリなどにクロマグロ型資源管理は「やるべきではなく、国際約束もないので、やる必要もない」とした。
第2報告は、岩手県農林水産部水産振興課の藤原孝行氏が「岩手県の定置漁業と漁業権」をテーマに漁協自営定置が多い岩手県の定置漁業の特徴を紹介し、漁獲の減少、厳しい経営状況、漁業権の一斉切り替え、魚類養殖の取り組みに触れ「全国的には後発組だが、岩手県の強みを活かし、養殖のブランドを確立したい」と語った。
第3報告の五日市周三岩手県定置漁業協会事務局長が「岩手県の定置漁業から見た新水産政策」をテーマに漁協の経営問題に直結した定置網の不振について説明し「サケが獲れるようにならないと漁協経営が成り立たない。新たな水産政策の中で、国に漁協を含む地域振興策を推進してほしい」と資源管理(数量規制)のみでない施策展開を求めた。
第4報告の野田勝彦道水産林務部漁業管理課長補佐が「北海道の定置漁業と漁業権」をテーマに道内の定置漁業の状況、次期漁業権切替方針、漁場計画の策定、免許すべき者の決定、審査基準を示し「免許すべき者の審査基準を評価ポイント制で判断し、地域に一番貢献している漁業者に免許し、獲る方のみならず、その基礎となる増殖が機能するよう対応したい」と述べた。
第5報告の中村正俊南かやべ漁協専務が「南かやべの定置漁業から見た新水産政策とその対応」をテーマに「クロマグロに加え、ブリにTACが設定されると浜が混乱する。クロマグロ放流は令和3年で24万尾、約3,700㌧、遺失利益は41億円にのぼる。マグロの来遊は今後増える見込みで、大型・小型の区別を止め、一本化した配分に変えてほしい」と苦境を訴えた。
第6報告の新谷哲也網走漁協代表理事組合長は「網走合同定置漁業から見た新水産政策とその対応」をテーマに13か統の定置網が経営統合している協業化の歴史、メリットを紹介し、合わせて流域が一体化となって取り組む環境全活動を説明した。新水産政策に対しては「漁業権切替には全く問題がないが、今後はTAC魚種の拡大による混獲への対応を一番心配している」と述べた。
このあと、佐野雅昭鹿児島大教授を司会に3人のコメントを受けた。その中で上田克之氏(水産北海道協会)が各報告の意義と論点を示し、末永芳美元東京海洋大教授が米国のTAC管理の実態を紹介し「平場で徹底討論して地域にとって一番良い管理方法を選ぶべき」、廣吉勝治北大名誉教授が定置の経営分析に基づく根本的な対策、漁業権切替の具体的な課題、TAC制度の運用見直しをあげ、パネラーが総合討論を交わした。
佐野氏は新漁業法による漁業権の運用、定置網へのTAC導入、定置を中核とした新しい沿岸漁業の方向などの切り口から議論を進め「北日本の定置にとって最も重要なサケ不振の原因を解明し、増養殖をしっかりやるべき。テクノロジーの導入、新たな養殖との組み合わせ、資源変動を見据えた将来の大きなビジョンがあれば現場も安心できる」と今後の検討課題をあげ議論をまとめた。