Straight Travel

日々読む本についての感想です。
特に好きな村上春樹さん、柴田元幸さんの著書についてなど。

「石の花」バジョーフ著(佐野朝子訳)岩波書店

2007-03-15 | 児童書・ヤングアダルト
「石の花」バジョーフ著(佐野朝子訳)岩波書店を読みました。
ロシアのウラル地方に伝わる民話の傑作集。挿絵はスズキコージさん。
バレエやオペラにもなっている代表作「石の花」を含む、クジャク石の石工にまつわる5作品のほか不思議な精霊の話など全8作品を収録。語り口はおじいさんが孫に語るようなあたたかくわかりやすい口調で統一されています。
一番初めの作品は「山の女王」。
「悪いものが女王に出会えば不幸がくるし、良いものが出会ってもめでたしめでたしというわけにはいかないんだな」という言葉のとおり、自分の生活からかけ離れたものに出会うと、自分の魂が吸い取られてしまうんだなと感じました。
「石の花」では類まれな石工の腕を持ち、注文された細工をこなすだけでは我慢できず、本当の美しさを追い求め姿を消してしまうダニーロが描かれます。
「芸術」という概念がなかった時代にはこういうこと、きっとあったんだろうなあ。
石でできた花、木の葉、宮殿。
宮沢賢治の作品も連想される美しく不思議な物語たちが集められています。

「卍(まんじ)」谷崎潤一郎著(中央公論社)

2007-03-15 | 日本の作家
「卍(まんじ)」谷崎潤一郎著(中央公論社)を読みました。
語り手は柿内園子。未亡人である彼女が過去のできごとをやわらかな大阪弁で「先生」に語るという形式。書簡をはさみながら語られるおぞましい物語。
学校で知り合った美しい光子との同性愛、そのうちに光子の影にいることに気づく綿貫という美しく陰険な男、そして事件に巻きこまれてしまう園子の夫。
特に綿貫の存在感が大きい。何かというと証文をとって人を縛り脅そうという陰険さ。そこに隠された彼のプライドと大きなコンプレックス。
恋愛もうまく言っているときはだます、だまされるもお互い承知の上で・・・という感じだけれど、そこをひとつずれると男女の別なく果てしない猜疑のとりことなる様子がすさまじかったです。
ふたりの心中狂言から一気にラストまでのたたみかけ、すごかった。