Straight Travel

日々読む本についての感想です。
特に好きな村上春樹さん、柴田元幸さんの著書についてなど。

「充たされざる者(下)」カズオ・イシグロ著(古賀林幸訳)中央公論社

2007-03-05 | 外国の作家
「充たされざる者(下)」カズオ・イシグロ著(古賀林幸訳)中央公論社を読みました。
下巻ではついに町の蘇生をかけた「木曜の夕べ」が開幕します。
『審判』のように、自分が当の本人であるのにわけのわからないシステムに組み込まれている焦燥感、あるいは『城』のようになかなか城にいけない(コンサートができない)、問題の中核に最後までいきつけないライダーのいらだちと困惑、のように全体的に強くカフカを思い起こさせる作品でした。

家族なのにお互いの気持ちをぶつけず口をきかずやりすごし20年以上を過ごしたホフマン一家。
「いつか、いつか」 と思いつつ、やり直す決定的な時を逃したブロツキー夫妻。いつも周囲の人間から雑多な要望や不満をぶつけられ「とにかく俺は忙しいんだからそんなことは考えている暇はない」と「今」を逃し続け自分の仕事も家族もおざなりになる主人公ライダー。
すべての人たちにいえるのは「大事な時」が見えていないこと、逃してしまっていること。
でも私も「今を精一杯生きている」と偉そうなことはいえないので(過去を悔やんだり懐かしんでばかりいたり、未来に必要以上に不安になったり「いつかこうしよう」ばかりで今の努力を怠ったり・・・)錯綜した時間と記憶の世界はライダーだけでなく自分自身の鏡であるような感じも受けました。