Straight Travel

日々読む本についての感想です。
特に好きな村上春樹さん、柴田元幸さんの著書についてなど。

「バガージマヌパナス わが島のはなし」池上永一著(文藝春秋)

2009-04-23 | 日本の作家
「バガージマヌパナス わが島のはなし」池上永一著(文藝春秋)を読みました。
神様のお告げで、ユタ(巫女)になれと命ぜられた19歳の綾乃。困った彼女は86歳の大親友オージャーガンマーに相談します。
沖縄の言葉、三線、歌。神と人とが隣り合う島。
この作品は第6回日本ファンタジーノベル大賞を受賞しています。

とびかう沖縄の言葉がなんとも気持ちいいです。
一応(かっこ)して、音のあとに意味が書いてあるのですが、これは沖縄言葉じゃないと迫力でないよなあ、という言葉ばかり。

「アガーッ(痛い)」「ワジワジッー(不愉快)」「サリンドー(ぶっ殺す)!」

これ、何も汚い言葉ばかりを選んで並べたわけじゃありません。
主人公綾乃がよく使う言葉。
綾乃・・・黒髪に白い肌の美少女。
その外見とのギャップがすごい、暴力的でがさつでフラー(馬鹿)な娘。
面倒くさがりで、ガジュマルの木の下で老婆オージャーガンマーとユンタク(おしゃべり)するのが何よりの楽しみ。
綾乃がユタになったのはもともと霊感があるという資質もさることながら、世俗に染まってないことも多分にあったと思います。

そして綾乃にユタになれと宣託する神様とのやりとり。
「ターガヒーガプッ(誰がやるかよ、そんなもん)」と暴言を吐く綾乃、怒って神罰をくだす神様。このバタバタぶりが面白いです。

この島の神様とは、畏れ敬い神棚にあげられたままの存在ではなくて、人とともに生きている、そんな感じがしました。

そしてオージャーガンマー。
オレンジの髪にルイヴィトンのバッグ。(中身は生魚、ほか。)
綾乃と遊びまくり感覚がずれている彼女ですが、海にむかって三線を弾く場面は印象的でした。

「みっともないさあ。もっといっぱい泣いて、さっきの涙を押し流さないといけないさあねえ。むかしは泣いて地面に落としてしまえばすぐに忘れられたのに、今じゃあ体にしみこんでまた戻ってくるさあ。」

ユタはなぜ拝むのか。
「私たちは死んでしまったから、形はもうないんだよ。
私たちが姿や思い出を保つのは、人間界に住む人々の故人を偲ぶ心だけなんだよ」

死者を拝むこと、それは自分のルーツを大事にすることでもあり、見えないものを感じることでもある。
土地と人と霊と神に耳を傾けるユタ、そしてその島を思い浮かべました。