Straight Travel

日々読む本についての感想です。
特に好きな村上春樹さん、柴田元幸さんの著書についてなど。

「モンキー・ビジネス VOL.5 対話号」(ヴィレッジ・ブックス)

2009-04-24 | 柴田元幸
「モンキー・ビジネス VOL.5 対話号」(ヴィレッジ・ブックス)を読みました。
今回の特集は「対話」。
冒頭は村上春樹さんへのインタビュー。インタビュアーは古川日出男さん。

「いろんな話が出てきて、絡み合い一つになって、そこにある種の猥雑さがあり、おかしさがあり、シリアスさがあり、ひとつには括れないカオス的状況があり、同時にまた背骨をなす世界観がある。そんないろんな相反するファクターが詰まっている、るつぼみたいなものが、ぼくの考える総合小説なんですよ。」

5月に発売される長編小説もそんな小説なのかなあ。
今からとっても楽しみです。

次に小川洋子さんと川上弘美さんの対談。司会は編集者の柴田さん。

柴田「ぼく、『風花』でいちばん好きなのは、登場人物の一人が「いいも悪いも、あたしたちは結局みんな、自由なのよ」って言うところなんです。」
川上「はい、自由なんです、しかたなくみんな。」
柴田「自由であらざるをえないっていうことですよね。」
川上「はい」

登場人物によりそう小川さん、作品世界を遠景でみて、あっちこっちにふらふらする川上さん、そのふたりがお互いの作品を語り合い、自分自身の創作姿勢を語る。とても興味深い対談です。

このふたつだけで十分満足なのですが、ほかにも俳句・詩・短歌を創作→英翻訳→それをさらに和訳創作する試みなど、面白い企画がいろいろあります。

片山廣子さんの「赤とピンクの世界」も面白かったです。

「死ぬということは悪いことではない、人間が多すぎるのだから。
 生きていることも悪いことではない、生きていることをたのしんでいれば。」

「タイのお茶、アジアのお茶」森下ヒバリ著(ビレッジプレス)

2009-04-24 | エッセイ・実用書・その他
「タイのお茶、アジアのお茶」森下ヒバリ著(ビレッジプレス)を読みました。
アジアの旅をくりかえしているうちに出会った、いくつものおいしいお茶の記録です。
タイのメーサロン、ビルマのチャウメ、雲南省のシーサンパンナなどマイナーな場所が多いのが特徴です。
せっかく一般の観光客が行かないような土地に行っているのに、写真がないのが残念。
風景や食べ物の描写、旅の相棒との会話、本で調べたことの抜書き、の繰り返しで盛り上がりがなく、ちょっと文章が単調に感じました。
もう少し章立てを細かくして順序を工夫し、「お茶の話の本」として、一本筋を通した方が読みやすいかも?と感じました。

「チーム・バチスタの栄光」海堂尊著(宝島社)

2009-04-24 | 日本の作家
「チーム・バチスタの栄光」海堂尊(かいどう たける)著(宝島社)を読みました。
東城大学医学部付属病院では、心臓移植の代替手術であるバチスタ手術の専門チーム「チーム・バチスタ」を作り、成功率100%を誇っていました。
バチスタ手術とは、創始者バチスタ博士の名を冠した俗称だそうで、肥大した心臓を切り取り小さく作り直すという、単純な発想による大胆な手術だそうです。
ところが、三例続けて術中死が発生します。
高階病院長から内部調査の役目を押し付けられたのが、神経内科教室の万年講師で、不定愁訴外来の責任者・田口公平。
そしてさらにこの調査に加わったのが、厚生労働省の変人役人・白鳥でした。
医療過誤か、殺人か。
この作品は第4回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞し、映画化・ドラマ化もされた(未見です。)ベストセラーです。
犯人のヒントがあります!ので、未読の方はご遠慮ください。

白鳥の語るアクティブ・フェーズ、パッシブ・フェーズについては理論は難しいですが、実践はひたすら興味深いです。
口に出す言葉、会話自体が狙いなのではなく、それに対する反応、それを見ている者の反応を冷静に観察し、さらに、次に聞き取りする者への影響をも予測する。
できる刑事の聞き取りってこんなのなんでしょうか?
私がもし犯人だったら、隠そうとするほどあっさり見透かされそうでコワイ人物です・・・。

しかし、私の犯人予想ははずれました。
手術範囲の指定でウソをつき、手術ミスに結び付けていたと思ったのです。
ところが真犯人は・・・。
しかし犯人の名前の由来、実体とかけはなれすぎ。

白鳥の傍若無人な変人ぶりは面白かったです。
そして「対人のルール」破りをすることにより、その人の本性をあぶりだすところも。奥田英朗さんの『空中ブランコ』に登場する伊良部医師を思い出しました。
(巻末についている香山さんの選評にも「伊良部一郎とは別タイプの超変人」と書かれています。)