Straight Travel

日々読む本についての感想です。
特に好きな村上春樹さん、柴田元幸さんの著書についてなど。

「文字の都市 世界の文学・文化の現在10講」柴田元幸編著(東京大学出版会)

2009-04-18 | 柴田元幸
「文字の都市 世界の文学・文化の現在10講」柴田元幸編著(東京大学出版会)を読みました。
東大の文学部の「多分野交流演習」から生まれた10篇の講義録です。
「多分野交流演習」とは、文学を言語(あるいは民族)で分けずに、世界文学として、時に文学のみならず芸術や思想にまで越境しながら語ろうという、新しい趣旨のプロジェクトだそうです。

演目はみごとにバラバラ。
柴田さんの部分しか読んでいないのですが、日本文学が単身者を描くことが多いのに比べ、アメリカ文学は今でも「理想のファミリー像」の呪縛に捕らわれているという言及。そして「そのファミリー像が崩れていく物語」という点で、アメリカ文学の不幸の形はどれも良く似ている・・・、
なるほど、です。

それとは別に、流し読みしていて面白かったのが野中進さんの「愚痴と文学」の講義。愚痴とはなにか、愚痴はどういう状況で発せられるのか、などの「愚痴論」がまず面白いのですが、さらに「ロシア文学と愚痴は関係が深い」と語るあたりからプププ・・・と笑える指摘の数々。
チェーホフ「かもめ」「三人姉妹」、そしてドストエフスキー。
「ラスコーリニコフは話すことでなく、聞くことによって作品の主人公としての役割を果たしている。」
ロシア文学の「独白」は、「愚痴」!?
こういう「偉大な作品」「文学界の金字塔」を神棚にあげないで、自分の視点で論じる姿勢、好きです。



「ジャングル・ブック Ⅱ オオカミ少年モウグリの物語」キップリング著(金原瑞人訳)偕成社

2009-04-18 | 児童書・ヤングアダルト
「ジャングル・ブック Ⅱ オオカミ少年モウグリの物語」キップリング著(金原瑞人訳)偕成社を読みました。
最後に訳者の解説がついていますが、もともと「ジャングル・ブック」とは動物物語やインドの話を含む短篇集で、この本ではそのなかでモウグリの物語だけを選んで訳したのだそうです。私は「ジャングル・ブック」とは、モウグリという少年を主人公にした長編小説なのだと思ってました。
以下、ネタバレありますのでご注意ください。

この第二部でもモウグリの数々の活躍が楽しめます。
今は無き都の王の宝を守る白いコブラとの対峙、エキゾチック。
面白かったのは赤犬の群れとの戦い。
さすがジャングルのすべてを知る大蛇カーの知略はみごと。
カーのとぐろのベッドで眠るモウグリの姿がなんだかほほえましかったです。
やがて17歳になり、春を迎えたモウグリは自分の内なる熱と憂愁にかられ、ジャングルを走り回ります。そして人間の村に戻ることに。

この本には番外編として「ラクにて」という短編も収められています。
このなかでモウグリは森林管理人となり、妻をめとっています。
「ハッピーエンドだけれど、なんだかちょっとモウグリらしくないな?」と感じたのですが、案の定この作品は「モウグリと兄弟たち」を書く前に書かれたものなのだそうです。
キップリングがオオカミ少年を書こうとしたときの習作ではないかとのこと。
うん・・・。モウグリが政府に使え、年金をもらうなんてピンとこないです。
オオカミ少年であるモウグリが人間の村で生きるためにはこういう役割で生きるしかないのかもしれないけど。
やっぱりモウグリには、いつまでもジャングルの子でいて欲しいなー。