「金」先物が2400ドル突破!中国・インドが爆買い「近い将来、4000ドルに上昇」強気予測も
5/8(水) 5:56配信
ダイヤモンド・オンライン
4月19日、金の先物価格が1トロイオンス当たり2413.8ドルで引けた。1970年代以降の最高値を更新したのは、中国とインドの個人および中央銀行が買い増したからとみられる。今後、金の価格がさらに上昇する可能性はあるのだろうか? (多摩大学特別招聘教授 真壁昭夫)
【画像】価値が安定している「金」を買い求める中国の富裕層が増えている
● 金の先物価格が2400ドルを超えた!
2022年の夏場以降、「金」の価格が上昇している。24年に入ってからは2月中旬以降、金に向かう資金は一段と増加し、価格上昇の勢い(モメンタム)はさらに強まった。2月14日から4月26日まで、世界の金価格の指標であるニューヨーク商品取引所(COMEX)の先物価格は約17%上昇した。
金に投資する投資家の中でも、中国とインドの需要増加は顕著だ。00年代以降、両国は工業化による経済成長の影響で、豊かになった一部の人が宝飾品として金を購入した。そして近年は、中国やインドの中央銀行がインフレなどのリスク回避のため金の購入を増やしている。
ロシアやトルコなど他の新興国でも中央銀行などが金の保有を増やした。主要先進国でも、地政学、政治、経済(特にインフレリスク)の観点から、金への投資の重要性が増していると考える個人や機関投資家が増えている。ある意味、世界的にドルから金へのシフトが起きているともいえる。
直近では4月以降、金の先物価格が2400ドルを超えると、売り圧力が高くなる場面が増えた。目先では利益確定などの動きが増え、金価格に下押し圧力がかかることはあるだろう。ただ、短期間で中東情勢などのリスク要因が落ち着くかは不透明だ。米国の物価がどのように2%に向かうかも見通しづらい。世界経済を取り巻く不確定要素が増えていることから、長い目で考えると金価格にはさらに上昇の余地があるだろう。
● 中国とインドはなぜ金の購入を増やしているのか
4月19日、金の先物価格が1トロイオンス当たり2413.8ドルで引けた。1970年代以降の最高値を更新した。価格上昇の要因の一つが、中国とインドの個人および中央銀行が買い増したからとみられる。
伝統的に、中国とインドでは宝飾用に金を使うことが多い。経済成長に伴う富の増加や、社会的な地位を誇示するために、個人による金への購買意欲が盛り上がっている。
また、資産運用の対象をリスク分散するために、中央銀行や機関投資家が金を保有することも増えている。きっかけは、08年9月のリーマンショックだった。
米財務省とFRB(連邦準備制度理事会)は全米第4位の投資銀行、リーマン・ブラザーズ(当時)をうまく救済することができず、世界経済と金融は大混乱に陥った。中国、インド、ブラジルなど多くの新興国から、米国を非難する声が上がり、世界経済は多極化に向かい始めた。新興国の中央銀行は、ドルの価値が中長期的に不安定になることを懸念し、金の保有を徐々に増やした。
その後20年8月、中国では不動産バブルが崩壊し、不動産や株式の価格が下落した。財産を守るために、価値が安定している金を買い求める中国の富裕層が増えた。23年、中国の金宝飾品需要は10%増加し、延べ棒とコイン投資は28%も伸びたという。中国の景気低迷に対して警戒する世界の投資家は多く、それはインドにおける金保有動機を一段と押し上げた。
ウクライナ紛争が勃発すると、米国をはじめとする主要先進国はロシアに経済・金融制裁を発動した。中国やインドは、ドルに依存した経済運営のリスクをより強く認識したことだろう。それも、ドルから金へのシフトにつながった。
● インドが警戒する世界経済の不確定要素
23年、中国は金の購入量でインドを上回ったようだ。また、主要先進国でもインフレヘッジのため金を選好する投資家が増えた。そうした動きがこの4月、金の先物価格が史上最高値を更新したことにつながったとみられる。 直近で、インドは一段と金の保有を進めているようだ。準備銀行(中央銀行)のダス総裁は4月、外貨準備の強化を重視する姿勢を明らかにしている。現在、インド経済は好調だ。中国から生産拠点の移転が増加していることなど、直接投資が増えているからだ。中国株を売り、インド株を買う世界の投資家も多い。
また、制裁対象であるロシア産原油の購入も、インドの景気を支えた。夏場の気温上昇で農作物の生育不順が起きるリスクはあるが、過去に比べればインドのインフレ耐性は強くなったとの見方もある。
それでも、ダス総裁は外貨準備を増強する考えを強調した。背景には、世界経済への強い警戒感があるのだろう。ウクライナ紛争や、中東でイスラエルとハマスの戦闘が継続していることなど地政学リスクは上昇している。
また、親イラン武装組織フーシ派による攻撃で、紅海およびスエズ運河でのタンカー航行が難しくなっている。イランは4月、世界の原油供給の2割を占めるペルシャ湾のホルムズ海峡を封鎖すると警告した。これが現実のものになると、世界経済へのマイナス影響は計り知れない。
他方、米国の物価上昇率は経済の専門家たちの予想を上回った。米国では労働市場がタイトであり、賃金は高止まりし、個人消費も増勢を保っている。企業は価格転嫁、つまり値上げを強化した。1~3月期、食品・エネルギーを除いた個人消費支出の価格指数が前期比年率で3.7%上昇した。
米FRBの利下げ開始の予想時期は後ろ倒ししそうだ。米金利は上昇しドル高も鮮明化している。一方、新興国の外貨準備高はドル高で目減りする。自国通貨の減価は輸入物価押し上げリスクの上昇につながる。そうした動きを警戒し、インド準備銀行は金保有を重視し始めたのだろう。
● 今後も金価格がさらに上昇する可能性
短期的には、金価格上昇による利益確定は増え、相場は幾分か調整するかもしれない。ただ、少し長い目で見ると、金の価格はさらに上昇する余地がありそうだ。世界経済を取り巻く不確定要素は増大する可能性が高いと考えられるからだ。
中東に和平がもたらされるかは非常に推測しにくい。これまでも、イスラエルのネタニヤフ首相はイランなどへの強硬姿勢を強め政権を維持してきた。イスラエルとイランの緊張感はさらに高まり、地政学リスクが上昇する恐れはある。中東情勢の緊迫感が増すと、原油価格は上昇し、世界的にインフレ懸念が高まるだろう。今すぐではないにせよ、金利上昇によって米国の景気は減速し、世界経済の先行きへの不安が高まるはずだ。
半年後に迫った11月の米大統領選挙で、仮にトランプ前大統領が再び当選すると、不確定要素はさらに増えるかもしれない。一つのシナリオとして、米国がイスラエル寄りの政策を強化したとしよう。すると、欧州諸国と安全保障面での足並みが乱れ、ウクライナ紛争の先行き不透明感が高まるはずだ。
一方、バイデン大統領の下で民主党政権が続いた場合も、米中対立は先鋭化するだろう。状況次第では世界のサプライチェーンが不安定になる恐れもある。インフラ投資などで連邦政府の財政支出が増え、米国債の信用格付けの引き下げが懸念されることになるかもしれない。
地政学リスク、インフレ懸念が再燃するなど経済のリスク、政治リスク、これら3つの要素は互いに影響し世界経済の不安定感を高める。これだけのリスク要因を抱える世界経済は、「1929年の“大恐慌”、1971年の“ニクソン・ショック”(米国の金本位制放棄、輸入品に10%の関税賦課)前に似ている」との指摘もある。
中国やインドの中央銀行にとって、金の保有割合を増やす重要性は追加的に高まりそうだ。リスクヘッジのため金保有を増やす主要先進国の投資家も増えるだろう。一部で、「近い将来、金の価格が4000ドルに上昇する」との予想もある。時間の経過に伴って調整を挟みつつ、徐々に金の価格水準は切り上がる可能性が高いだろう。
真壁昭夫