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曽田修司の備忘録&日々の発見報告集

雨宮処凛「生きさせろ!」

2008-04-13 21:26:33 | その他
雨宮処凛「生きさせろ!」を読む。

生きさせろ! 難民化する若者たち
雨宮 処凛
太田出版

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最近の日本をもっともよくあらわす言葉のひとつは「格差社会」であろう。

新聞報道などを見ると、企業は大きな利益を上げているらしいのに、それがサラリーマンの給与増につながっていないらしい、という漠然とした理解はあった。

いわゆる規制緩和の考え方によって、それまで認められていなかった人材派遣業を認める法律ができ、派遣社員という存在が当たり前になったことも知識として知ってはいる。

最近になって新聞の紙面をにぎわしている「偽装請負」というのは、実際は派遣であって指示命令系統は派遣された職場の社員から受けるのにも関わらず、形式上は人材派遣会社の指示を受けて仕事をするかたちになっていることをいうようだ。

派遣会社はクライアント側にまともな要求をすることができないから、弱い立場の派遣社員を守ってくれることはまずない。そのことで、職場の「上司」からの無茶な要求を受けざるを得なくなって、それが常態化してしまう。

著者はこう書く。

そんな現場で何が起こるか。請負会社は現場を知らないから、労働者がどんなひどい扱いをされているかも知らないので管理のしようもない。派遣先の会社は、自分の会社の社員ではないからどんな働かせ方でもする。(p. 169)

正社員になれないフリーターも地獄だが、正社員になったらなったで、過労死に至るまで休みなく働かされる。

この本には、そうした実例が数多く報告されている。

年収200万円以下のワーキングプアは、はたらいているにも関わらず、生活保護ぎりぎりの生活を強いられ、いったんそこにはまってしまったら、抜け出すことは困難だ。

つい最近までは、いろいろな論者が、世界第二の経済大国になった日本では、ふつうにはたらいていれば食べることに困らない社会になった、と言っていたのに(私もそう思っていた)、いつの間に事態がこんなに大きく変化してしまったのだろうか。

著者は、次のようにも書く。

少し前までは、学校を卒業すれば、たいていの人が就職できた。会社も新卒者を大量に採用し、一から仕事を教えてくれた。いまのように「即戦力」だけが必要とされることはなかったし、就職すれば終身雇用制のもと、年齢とともに給料も上がり、将来の設計もできた。これがいつから狂ってしまったのか。(p. 34)

この本では、その淵源は95年に日経連がまとめた「新時代の『日本的経営』」に求められる。ここで「雇用柔軟型」の労働力の導入が提唱された。有期雇用、時給制で昇給なしのフリーター。気がつけば、いまでは日本の労働者の3人に1人がこのような非正規労働者なのだという。

著者は1975年生まれ。北海道出身で、美大受験に失敗し、フリーターになるしかなかったという。

著者によれば、「プレカリアート」という言葉に出会ってこの著書を書くことになった。「precario」(不安定な)と「proletariato」(プロレタリアート)を組み合わせた造語らしい。社会によって不安定を強いられた人々、という訳が当てられている。


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