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メンヘラの精神構造

2021-04-27 18:09:06 | 趣味人的レビュー
加藤諦三は昔、「百万人の英語」というラジオ番組で何曜日かのパーソナリティ(「百万人の英語」は毎日やっていて、曜日ごとにパーソナリティが替わる)をしていたことがあり、それを聴いていた関係で、彼の心理学書のような哲学書のような人生訓のような本を中学、高校くらいに結構熱心に読んでいた。それから40年以上も経つが、加藤諦三の本が今も変わらず並んでいるのを見ると、何となくうれしくて、つい手に取って見てしまう。

その彼がタイトルに「メンヘラ」なんて言葉の入った本を出したのを見て興味を持ち、この本『メンヘラの精神構造』を読んでみた。私にとって加藤諦三の本をちゃんと読むのは40年以上ぶりのことだ。

ちなみに「メンヘラ」とはメンタルヘルスをちょっとおかしく省略した言い方で、精神病とまでは行かないが何らかの形で心を病んでいる(ように見える)人、という意味の言葉である。私の知るところでは、よくマンガやアニメで、ちょっと言動のおかしなキャラを「あのメンヘラ女」みたいに言ったりするが、それほど一般的に広く使われている言葉ではないように思う。

この『メンヘラの精神構造』では、「はじめに」の中で「メンヘラ」という言葉についての簡単な説明の後、このように述べられる。
心理的な問題を抱えた大人になっていくのには、大きくいえば二つの原因がある。
一つは、人は成長のそれぞれの時期の心理的課題を解決することでしか生きられないのに、その課題の解決から逃避してしまうことである。(中略)
その時期の心理的課題の解決から逃げると、人生が次第に行き詰まっていく。その人の人生が心理的に行き詰まっている状態が、サディズムとか被害者意識等である。(中略)
心理的に問題を抱えた大人になっていく二つめの原因は、小さい頃から与えられる破壊的メッセージをどのように解決するかということである。(中略)
これでもかこれでもかと執拗に襲った破壊的メッセージを命がけで戦う中で、自分の長所、自分の固有のすばらしさに気がつく。この戦いから逃げて被害者意識に逃げ込むと、最高の自分、素晴らしい自分に気がつくことなく、人生が行き詰まる。
そして加藤はメンヘラの精神構造を被害者意識と、その根底にあるナルシシズムから読み解いていく。

今、世間ではブラックな職場による過労死やさまざまなハラスメントの被害が取り沙汰されているが、(加藤が主張する)「メンヘラ」という視点で見直すと、一般に考えられているのとは違う姿が現れてくる。
心理的に健康な部下と、心理的に病んだ部下では、同じ部長の言葉を違って受け取る。心理的に健康な社員とメンヘラ社員では、同じ上司も同僚も部下も違って見える。
例えば、自己蔑視しているメンヘラ部下である。部長の普通の言葉を「自分をバカにしている」と受け取る。自己蔑視を受け身で外化すると「バカにされている」と解釈する。
外化とは、自分の中で起きていることを、現実と思うことである。
「神経症者は死ぬまで働く」とアルバート・エリス(1913~2007)は言っている。(中略)
カレン・ホルナイはこのようなタイプを「傲慢な復讐的タイプ(the arrogant-vindictive type)」と名付けている。
彼らは働くことで攻撃性を表出していることは明かであると述べている。
彼らは仕事を楽しまないが、疲れさすこともない。仕事以外の生活の空虚さが特徴である。
こうした見方には批判もあるだろうが、私は非常に興味深い視点だと思う。少なくとも過労死したりハラスメントされたと訴える人たちの全部が全部、純粋な犠牲者、被害者であり弱者であるとは思わない。

ただ同時に、では「心理的に健康な人」とはどこにいるのだろう?というか、そんな人、本当にいるのか?とも思ってしまう。そのくらい世の中は(加藤的な意味の)「メンヘラ」で溢れている。例えば加藤が虚栄心の強いナルシズムのパーソナリティとして挙げている
自分に対する称賛を求めるけれど、他人の意見に注意を払わない。そして軽蔑的な無関心を示す。
とは、まさに私のことだ。
 
結局のところ、「メンヘラ」同士が争い、傷つけ、傷つき合って問題を起こしているというのが(過去、現在、未来を通じて)世の中のほぼ全てだと言ってもいいだろう。つくづく人というのは進歩しないものだ。けれども、世の中の大半の人が「メンヘラ」でなくなってしまったら、物語はさぞつまらないものになるだろうな、と思う。物語のあの“うねり”を作り出すのは、登場人物が何ら中の形で「メンヘラ」だからなのだから。

さて本書『メンヘラの精神構造』に戻ると、参考文献まで含めると全部で200ページを超えるものの、フォントは大きめだし、説明は繰り返しが多くて、ややくどい。ここで書いていることは、もっとずっと短くまとめられるはず。だが内容が薄いということはなくて、上にも書いたように非常に面白い視点を提供してくれる。サラリと読めて、でも言っていることは案外深い、といった本。
 
※「本が好き」に投稿したレビューに加筆修正したもの。
 

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