高柳誠『フランチェスカのスカート』(12)(書肆山田、2021年06月05日発行)
「血を流す木」。幹に傷をつけると赤い樹液を流す。血に見える。その樹液をなめると郷愁を誘う甘みがあり、愁いを忘れることができる。そして記憶を失い、過去を失う。その結果、現在を失い、未来も失う。しかし、
一度
飲んで、愁いがきれいさっぱり消えた感覚を味わってしまうと、そ
の蒼天のような愉悦が忘れられなくなる。かくして、もはや自我な
どという邪魔ものをもたない人々が、魂の奥底までを見透かせるほ
ど澄んだ瞳で、樹木の血を求めて叢林のなかをかろやかに浮遊する
すがたが目撃されるようになった。
「自我などという邪魔ものをもたない人々」ということばが印象に残る。「自我」は生せ邪魔ものなのか。それは「見透かせない」ものだからである。「澄んだ瞳」の対極にある。不透明。そして、それは「かろやか」「浮遊する」の対極でもある。
前後するが、要約紹介した部分を引用する。
愁いが消えてしまうと……、
それと同じくしておのれの記憶もなくなってしまう。記憶を失うこ
とは、過去を失うことだ。そして、過去を失うことは、現在を、ひ
いては未来を失うことにほかならない。
この畳みかける論理のスピード。「かろやか」というのは、こういうことを指す。ことばがかろやかに運動する。「ひいては」ということばが特徴的だが、そのかろやかさは論理のかろやかさなのだ。
「自我」とは別に、ことばにはことばの「論理」がある。ことばの「論理」は「自我」を無視してかろやかに浮遊する。これは高柳の「理想」なのである。その「証拠」のようなものが「ひいては」ということばのなかに隠れている。「ひいては」のかわりに、その直前につかわれている「それと同じく」、あるいは「そして」でも意味は同じ。しかし、高柳は、ここでは「ひいては」ということばをつかっている。単にことばの重複を避けるというよりも、ここには「論理」を解き放ちたいという欲望のようなものが隠れている。
それは最初に引用した部分の「かくして」についても言える。論理的結論(因果関係)がことばの運動の自律的/自立的機能を促進する。ことばが自律的/自立的に動くのだから、「自我」はいらない。「自我」があるとことばは自律的/自立的(論理的)に動かなくなる。
ここに書かれているのは「愁い」の問題ではない。
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