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詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

ダーグル・カウリ監督「好きにならずにいられない」(★★★+★)

2016-09-30 10:30:49 | 映画
監督 ダーグル・カウリ 出演 グンナル・ヨンソン

 予告編で、主人公(四十歳を超えた肥満男)が少女に冷酷な(?)質問をされる。「大人なのに結婚していない?」「女の人とつきあったことあるの?」。うーん、鋭い。これが見たくて見に行ったのだが……。
 映画が終わった瞬間(主人公が飛行機の中から窓の外を見ている、その横顔で終わる)、斜め前の女性が「はぁぁぁ」とも「ふぅぅぅ」とも聞こえるような、力のない「ため息」をついた。いやあ、若い女性が、主人公の気持ちに感染して(?)、こんな切ないため息をつくなんて。ため息を聞いて「切ない」という感情を思い出すというか、そうか、自分はいま「切ない」という感情を感じているのかと気づかされるなんて。
 これで、私は★を一個追加しました。
 映画館で、一緒に見て、そのときに「かわる」評価というか、感想がある。

 で、なぜ、日本の若い女性が、アイスランドの太ってぜんぜんモテない男の「気持ち」に感染してしまうかというと。
 「好きにならずにいられない」という気持ち、だれかを好きになったとき、人がすること(人にできること)というのは同じだからだ。
 その人のそばにいたい。そのひとが喜ぶことをしたい。その人が喜ぶとき、自分もうれしくなる。その喜び。その人が言ったことは、全部、覚えている。だから、その覚えていることを、全部、したい。
 女は、ときどき鬱病になる。落ち込んでしまう。けれども男に支えられて生きる力を取り戻す。一時は「いっしょに住もう(暮らそう)」と誘いかけもする。男が完全に嫌いというわけではない。頼りにもしている。しかし、実際に男が引っ越してくると、その引っ越しの当日になって「いっしょに暮らすのはむりだ」と言うのだった。
 男は女のことがわかっているので、女の「生き方」を大切にする。「おれの荷物は持ち出そうか」。そして、元の家にもどっていく。しかし、あきらめはつかない。男にとって初めての恋だからね。
 男は女のことを思い出しながら、できることを全部する。
 「花屋を開きたい、こころら場所がいい」「南の国へ旅行してみたい」。女がもらしたことばはを男は覚えていて、売りに出ている空き店舗を購入し、内装をととのえる。鍵とメモを、女のドアの郵便受け(?)みたいな穴から、差し入れる。たぶん、そのメモにはエジプト旅行のことも書かれている。男は、もしかしたら来てくれるかもしれないと思って、空港にいる。飛行機に乗る。でも、女は来ないのだ。
 ああ、こんなに一生懸命に、生きているのに、こんなに好きなのに、何も悪いことなどしていないのに、通じないのだ、と思って、外を見る。
 これが、なんとも言えない。
 いまさっき、「こんなに好きなのに」のあとに「何も悪いことなどしていないのに」に書いたが、この「何も悪いことをしていないのに」という「感想」が、この映画の最後に思わず出てしまうところも、切なさの理由だなあ。
 主人公の男は少女と知り合う。鍵をなくして家に入れない。それをいっとき世話をする。その後もときどき面倒を見る。しかしドライブにつれていくと誘拐と勘違いされる。変態扱いされる。職場の若い男たちからは、肥満をからかわれる。童貞をからかわれる。家でも、母親から嫌味を言われる。「料理がうまくなったのは、女が料理を作らないから会(おまえがつくっているからかい)」とか。そのくせ、男が家を出て女と暮らそうとすると「母親を捨てていくのか」というような非難を受ける。
 うーん。さえない。
 さえないからこそ、あの一瞬の「恋」が、不思議にどきどきする。あ、しあわせになってほしいなあ、と思ったりする。
 これが、最後に女が飛行機に乗ってきたら、こんな気持ちにはならないなあ。ハッピーエンドだったら、きっと★は一個になるなあ、というような、奇妙な映画。
                     (KBCシネマ1、2016年09月27日)




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