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詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

喜多昭夫『いとしい一日』

2018-01-11 01:01:48 | 詩集
喜多昭夫『いとしい一日』(Brand new day、2017年11月25日発行)

 喜多昭夫『いとしい一日』は歌集。歌集の感想を書くのはむずかしい。ことばの「意味」とか「テーマ(内容)」とかではなく、「音」が重要だからかもしれない。そして、この「音」というのが、自分が暮らしてきた「場」と強い関係がある。「耳」で聞いたことがあるかどうか。それが影響してくるようだ。

壁に投げ跳ね返りたる軟球をわれの知らない女体と思う

マイクテスト、マイクテスト といいながらマイクの故障に気づいてしまう

 この二首は、テーマも違えば歌の構造というのか、ことばのつかい方もまったく違う。けれど、何と言えばいいのか、私にはどちらも「聞いた」ことがある音だ。たぶん喜多が石川県の人間であり、私が富山で生まれ育ったということが関係するのだと思う。
 「壁に」の歌は、歌い始めの「音」は「あ」を含んでいる。これが「軟球を」の「を」経たあと「女体と思う」と「お」の音が増えて、静かに「う」で終わる。「お」は特に「と」に隠れている「お」が不思議。それが「お」もうと変化していくとき、あ、これは「北陸の音」だなあと感じてしまう。「暗さ」と「芯」がある。前半は「あ」が多いのに解放感につながらず、最後には閉じてしまう。これが「北陸の音」。
 「マイク」の歌では、「故障に気づいてしまう」の「に」がやはり北陸の音だなあと思う。ほかの地方のひとは、では、どういうことばをつかうのか。わからない。わからないけれど、何か、有無をいわせないものがある。自分で世界を閉ざしてしまう。
 困ったなあ、と思う。

変でない 変です 変でる 変ですと 火星人の変の活用形

 「変(でない)」と「変」をもってくるところも、新しいようで、閉塞感がある。開かれていかない。「マイクテスト」もそうだが、新しいくせに、ぶっ飛んでいない。妙におとなしい。
 「変ですと」の「と」は音の数を合わせるためのもの(リズムをととのえるためのもの)なのかもしれないが、うーんとうなってしまう。
 「変でる」ということばがあるのだから「変です」を繰り返さずに「変でれば」という具合にすることもできるし、「変です」をつかっても「変ですね」と上の句と下の句をたたききることもできるはずなのに、「と」でつなぐ、「論理」にしてしまうところに「北陸」の律儀さを感じてしまう。「論理」は「音」ではなく、むしろ「意味」なのかもしれないけれど、その「意味」を引っ張るときの「音」が気になる。

抱かれてからが勝負というような真利子の遠いまなざしだった

 この歌では「ような」が、開くためのことばではなく、閉じるための「音」だね。
 私もきっとこんな「音」でことばを動かしているんだろうなあと思ってしまう。

オバちゃんであることをまず確認しプレイボーイをそっと差し出す

 妙に「粘着力」がある。さらっとしていない。軽くなりきれない。
 ここがたぶん、いまはやりの短歌と喜多の短歌の違いだろうなあ。「北陸」の「音」なんだろうなあ。
 もちろんその「音」を捨てる必要はない。このままでいいのだと思うのだが、私にはちょっとつらい。「嫌い」ではないが、「好き」とは言いづらい。
 「誤読」しているかもしれないが、「わかる」感じが苦しい。
 「顔」に地域の特徴があるように、「音」にも地域の特徴がある。どこがどうとは言えないが、これは「聞き覚えのある音」と感じてしまうと、啄木の

故郷の訛り懐かし停車場の人ごみの中にそを聞きに行く

 とはまったく逆の気持ちに襲われる。ふるさとの「音」を聞いて、思わずそっと離れたい気持ちになる。「わかる」から「なつかしい」のではなく、「わかる」から少し面倒だなあという気持ちになる。

 感想になっていないなあ。

ティッシュ箱より抜きとりし雲なれば鼻先までふわわんとせり

 この歌は好きなんだけれど、この「好き」を言いなおそうとすると、めんどうなんだなあ。歌われている「こと」、あるいはその「イメージ(情景)」ではなく、「音」がからみついてくる。「抜きとりし」の「し」と、「ふわわんとせり」の「と」が「係り結び(?)」のように全体をしめつける。「ふわわん」が全然「ふわわん」としないのだ。大きさがないのだ。

 北陸以外のひとは、どう聞くかな、この喜多の音を。

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目次

岡田ユアン『水天のうつろい』2 浦歌無子『夜ノ果ててのひらにのせ』6
石田瑞穂「Tha Long Way Home 」10 高見沢隆「あるリリシズム」16
時里二郎「母の骨を組む」22 福島直哉「森の駅」、矢沢宰「私はいつも思う」27
川口晴美「氷の夜」、杉本真維子「論争」33 小池昌代『野笑』37
小笠原鳥類「魚の歌」44 松尾真由美「まなざしと枠の交感」、朝吹亮二「空の鳥影」47
河津聖恵「月下美人(一)」53 ト・ジョンファン『満ち潮の時間』58
大倉元『噛む男』65 秋山基夫『文学史の人々』70
中原秀雪『モダニズムの遠景』76 高橋順子「あら」81
粕谷栄市「無名」、池井昌樹「謎」86 深町秋乃「であい」92
以倉紘平選詩集『駅に着くとサーラの木があった』97 徳弘康代『音をあたためる』107
荒川洋治「代表作」112  中村稔「三・一一を前に」117
新倉俊一「ウインターズ・テイル」122


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