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詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

濱口竜介監督「ドライブ・マイ・カー」(★)

2021-09-08 09:46:40 | 映画

濱口竜介監督「ドライブ・マイ・カー」(★)(2021年9月6日、中洲大洋、スクリーン2)

監督 濱口竜介 出演 西島秀俊、三浦透子

 毎年カンヌ映画祭に行っているアメリカ人が「とてもおもしろかった」と激賞したので見に行ったのだが。
 私は村上春樹の小説が大嫌いなので、やっぱり、この映画はダメ。
 ぞっとした。
 何がぞっとしたかというと、冒頭の、女が夢か何か、物語を語る声にぞっとした。あえて感情を殺したような、たんたんとした口調。聞いた途端に、あ、この映画は「声」を描いているのか、と直感してしまう。その直感に、ぞっとしたのである。
 村上春樹の小説にぞっとしてしまうのは、それが「予想通り」だからである。「予想」を裏切るようには進まない。何か、全然知らないものが突然あらわれて物語を変えていくという瞬間、作者(村上)がそれにつられて変わってしまうという瞬間がない。
 いちばん「あざとい」と感じたのは、映画の中に出てくる「ワーニャ伯父さん」。これを役者が多国語で演じる。そのリハーサルの過程で「ことば/声」の問題が語られる。つまり、説明される。感情を込めずに、ただ、正確に。その訓練をしたあと、「正確なことば」が「演技」のなかで「感情の共有」を生む瞬間がある。それを「劇場」に来ている観客にも共有させる。それが芝居だ。その通りだと思うが……。だからこそ、芝居は「一声、二顔、三姿」というのだとも思うが。これを、そのままことばで説明してしまってはねえ。「手話」をもってきて、それを強調するのはねえ。
 私は、「ワーニャ伯父さん」でやっていことをこそ映画でやればよかったのだと思った。つまり、映画を多国語で演じる。逆に「ワーニャ伯父さん」を日本語だけで演じる。そうすると声の問題がもっと切実につたわる。声の中にはわかるものとわからないものがある。それを手さぐりで、あるいは体当たりでというべきか、探りながら自分を開いていく。わからないものにであったとき、人間は、たいてい自分に閉じこもる。西島秀俊は妻の浮気を目撃して(これも声がきっかけ)、自分に閉じこもる。妻が急死したあとも自分に閉じこもる。そこから、どうやってこころを開いていくか。何が西島のこころを開かせるか。それが「ことばの意味」ではなく、「ことばを語る声」である、というのなら、この部分こそ「声」を頼りにするしかない「多国語(何を言っている、意味がかわからない)ことばで映画にして見せなければ、映画にする意味がない。
 映画の中で起きていることを「ワーニャ伯父さん」の「日本語」が手がかりになって、観客の中で広がる。そういうふうにしないと。
 まるで、とてもよくできた村上春樹の「解説本」を読んでいるような映画だった。
 役者たちも、やっていることを完全に理解してやっている。この映画は「声」がテーマだとわかってやっている。それがまた、気持ち悪い。えっ、この役者、こんな人間だったのか、と映画を忘れて引きつけられる瞬間がない。こういう「完璧さ」というのは、私は大嫌い。

 


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