goo blog サービス終了のお知らせ 

詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

スパイク・リー監督「ブラック・クランズマン」(★★★★★)

2019-03-24 10:39:36 | 映画
スパイク・リー監督「ブラック・クランズマン」(★★★★★)

監督 スパイク・リー 出演 ジョン・デビッド・ワシントン、アダム・ドライバー

 スパイク・リーの「ドゥ・ザ・ライト・シング」を見たときの衝撃を忘れることができない。私がいかに黒人差別に加担していたかを知らされた。ハリウッド映画の描かれる「黒人像」をそのまま受け入れていたにすぎないかを知らされた。
 というような抽象的なことを書いてもしようがない。
 私は、その映画の中のアフリカ系アメリカ人の「家庭」にびっくりした。美しく整っている。乱雑さ、だらしなさと無縁である。考えてみれば、これは当然のことだ。ひとは誰であれ、自分の暮らしている場所は美しく整えたい。その方が気持ちがいい。つかいやすい。それだけなのだ。それだけなのに、こういうあたりまえを、私は忘れていた。
 この「あたりまえ」を、私はこの映画でも教えられた。
 ジョン・デビッド・ワシントンが警官になりたくて、警察に面接試験を受けに行く。その試験を署長(白人)とアフリカ系アメリカ人(肩書は聞き漏らした。それまでアフリカ系の警察官はいないというのだから、警察以外の職員かも)が担当する。このときの面接のやりとり(内容)がとても自然だ。差別の問題(きっといやなことに直面するだろう)というような指摘や、それに対してどうするつもりか、というようなことが、たんたんと進んでゆく。試験をする方も受ける方も、なんといえばいいのか、「わきまえ」を守っている。必要最小限、しかし必要不可欠なことは、そのなかできちんと処理されている。これは、どこにでもある世界だ。「どこにでもある」を「どこにでもある」ままに、スパイク・リーは描く。
 この映画でおもしろいのは、この「どこにでもある/わきまえ」が、しかし、なかなか「曲者」であるということだ。
 クライマックスというより、ハイライトか。ジョン・デビッド・ワシントンがKKKのトップを護衛することになる。ジョン・デビッド・ワシントンにしてみれば、潜入捜査でたどりついた大物、逮捕したい男なのになぜ護衛をしなければならないのか、という気持ちがあるだろう。一方、護衛される方にしても、殺してしまいたいと思っているニガーが護衛だなんて、頭に来る、という気持ちだろう。でも、KKKは秘密。「アソシエーション(団体)」の代表にすぎない。警官がニガーだからというので異議を唱えれば秘密がばれてしまう。受け入れるしかない。記念撮影も、肩を抱かれたことも、ぐっとがまんして受け入れるしかない。警官を殴れば、その場で公務執行妨害で逮捕される。ほかの仲間も同じだ。隠し続けるしかない。
 さらに、さらりと描かれているが、このパーティーのために仕事を求めてきたひとのなかにはアフリカ系のひともいる。「こんな差別的な団体だと知っていたら応募しなかった」というようなことを語り合っているが、彼らにしても、その思いを語り、即座に行動するということはできない。
 ここが問題。ここが、じつは一番恐いところだ。
 不満はいつも抑圧され、いつも差別は隠れている。隠れているというよりも、いつも隠されている。差別主義者は、差別を隠すことを知っている。
 これは取り締まる側にも言える。KKKの組織をつかんだ。けれども、それを摘発してしまうことはできない。この映画では、狂信的な夫婦の「爆弾テロ」が事件として処理されるだけだ。(映画では、明確に描かれていないが。)KKKが存在し、活動しているということは、公表されない。住民の不安をあおるからだ。
 すべては隠される。だからこそ、その後も差別は繰り返される。思い出したように、噴出してくる。事件はなくならない。映画の最後に流れる「現実のニュース」がそれを語っている。それは個人の反抗なのか。隠れた組織の指示によるものなのか。問題はそれだけではない。直接的な攻撃はしないが、「排除」という暴力がすすめられることがある。「アメリカ・ファースト」という主張そのもののなかには、暴力はないように見えるが、「排除」が隠蔽されている。
 隠されているものを、どうやって明るみに出すか。それとどう向き合うか。
 あ、これはジョン・デビッド・ワシントンの「潜入捜査」そのものだね。ストーリーがテーマそのものとなっている。巧みな脚本だ。
 (2019年03月23日、KBCシネマ1)

ドゥ・ザ・ライト・シング[AmazonDVDコレクション] [Blu-ray]
クリエーター情報なし
NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパン

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 池澤夏樹のカヴァフィス(95) | トップ | 南野森「憲法学者が弁護士に... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

サービス終了に伴い、10月1日にコメント投稿機能を終了させていただく予定です。
ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

映画」カテゴリの最新記事