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詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

和辻哲郎「桂離宮」

2019-01-14 23:00:46 | その他(音楽、小説etc)
和辻哲郎「桂離宮」(和辻哲郎全集 第二巻)(岩波書店、1989年06月09日第三刷発行)

 私は桂離宮を実際には見たことがない。和辻哲郎の書いている「印象」が正しいものかどうか判断するものを持っていない。
 私は、次のような部分に親近感を覚える。桂離宮の場所について触れた導入部。

西から京都盆地へ入ってくる場合に、山崎を超えたあたりで急に景色の調子が変わってくるという経験には、もっといろいろな契機が含まれていると思う。その中では、京都盆地の山々が示している緑の色調などが、最も有力に働いているかも知れない。(208ページ)

 和辻は山の緑が土地によって違うことを知っている。この感覚は、私にはとてもうれしい。映画「腑抜けども、悲しみの愛を見せろ」(吉田大八監督)を見たときのことである。山の緑が映し出される。その緑が、とてもなつかしく見えた。見たことがある、と感じた。石川県が舞台だった。私のふるさとに近い。その緑だったのだ。
 和辻は緑の理由を京都盆地の湿気の具合と結びつけて説明している。この説明が、「肉体」にすっとしみ込んでくる。
 緑について書いたあとで、こう書いている。

京都盆地の西南の隅に立って東側の山並みをながめるということは、京都盆地の最も優れた美しさを賞賛すると言うことにもなるのである。(209ページ)

 うつくしい緑の変化を見ている気持ちになる。
 和辻は自分の「感覚」を正直に書く。それから、その「感覚」が受け止めたものを、知っているものをとおして分析し、語り直す。このことばの動きが、私はとても好きだ。
 そして、その分析にふつうに日本語を話していればつかうことばがつかわれ、それが哲学に変わって瞬間がある。

自然のむだを適当に切り捨てれば、自然は美しく輝き出してくる。そういう否定の仕事は、自然から出るのではなく、精神の働きによってのみ可能である。芸術的形成としての庭園は、素材としての自然にこの精神の否定的な働きの加わったものにほかならない。(259ページ)

 「精神」も「否定」も、誰もが知っていることばである。けれど「精神の否定的な働き」とつないで、自然と向き合わせる。そして、そこから「自然は美しく輝き出してくる」と言う。この、ことばの奥へグイッと入っていて、根底から突き動かすような運動が魅力的だ。
 和辻に対して言うことではないかもしれないが、「自分のことば」で哲学している。これが、とても魅力的だ。はやりの外国の誰かの「用語」をつかっているわけではない。
 いちばん感動的なのは、次の部分。

これらの形がシンメトリーになることは非常に注意深く避けているようである。しかしそのためにここに使われている直線はかえって生きた感じを持つようになっている。(321ページ)

 「生きた感じ」にどきりとする。
 和辻の文体の魅力は「生きた感じ(生きている感じ)」にある。「緑」について触れた部分では、和辻の肉眼がそのまま生きている。「精神の否定的な働き」では知性(頭)が生きて動いている。しかも、その頭は奇妙な言い方になるが「肉眼」ならぬ「肉頭」という感じ。「肉体」そのものの感じがする。
 和辻を読むと「生きている人間」を感じる。








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桂離宮―様式の背後を探る (中公文庫 わ 11-3)
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