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詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

ジェフ・ニコルズ監督「ラビング 愛という名前のふたり」(★★★★)

2017-03-12 19:42:43 | 映画
ジェフ・ニコルズ監督「ラビング 愛という名前のふたり」(★★★★)

監督 ジェフ・ニコルズ 出演 ジョエル・エドガートン、ルース・ネッガ、マートン・ソーカス

 とても静かな映画である。異人種間の結婚の自由を勝ち取るまでの「法廷闘争」と思ってみていたら、法廷闘争はいつまでたっても出て来ない。これは一種の「肩すかし」だが、愛というのは法廷で勝ち取るものではないのだから、これはこれでいいのだろう。
 印象的なシーンはいくつかあるが、一番印象に残るのはジョエル・エドガートンとルース・ネッガがテレビを見ているシーン。ライフの記者がいるのだが、テレビを見ながら笑っているうちにジョエル・エドガートンがルース・ネッガにもたれかかり、やがて膝枕を借りるように身を倒す。とてもリラックスしている。愛とはリラックスできることなのである。
 ジョエル・エドガートンが弁護士に判事に言いたいことがあるかと問われ、「妻を愛している」と答えるシーンもいい。「法律」とか「権利」とは関係がない。愛する、愛さないは二人の問題であって、他人には関係がない。あんたたちは、どうせ他人。わかりはしないだろう、という感じで言い放つ。これはそのまま、二人の問題なのに、なぜ他人があれこれ「法律」で規制する必要があるのか、という批判となっている。
 妻のルース・ネッガが、闘争に身をのりだしていくのに対して、ジョエル・エドガートンの方は身を引くようにして動く。そのときの思いのすべてが、このシーンにこめられている。
 勝訴を電話で知らされてから、それをルース・ネッガがジョエル・エドガートンに告げようとするシーンもすばらしい。喜びをしっかりとかみしめている。ことばにしなくても、その充実感だけでジョエル・エドガートンにすべてが伝わる。ジョエル・エドガートンも喜びの声を上げるわけではない。
 やっと、当然のことが当然のことになった。それは当然のことだから、特に喜ぶことでもないということなのかもしれないが、この「静かさ」が、とても重い。当然のことが当然になるまでには時間がかかる。その時間を、ゆっくりと確かめている感じだ。
 ジョエル・エドガートはいつものように車の手入れをしている。そのまわりでは子供たちが遊び回っている。緑が広がる大地。何の危険もない。何をするのも自分次第。その自由がある。

 この映画の見どころは、もうひとつある。緑の美しさ。アメリカ映画の緑は、私はどうも好きになれない。なにか濁っている。ところがこの映画ではとても美しい。「フィールド・オブ・ドリーム」のような、わざと色をつけたような緑ではなく、とても自然だ。二人のくらしている町の緑が、畑が、とても美しい。途中に挟まれるワシントンDCの緑が貧弱(街灯のまわりの芝生?とか、町中の木とか)で、いつものアメリカ映画と同じ水分の足りない緑であるのと対照的である。
 ルース・ネッガがしきりに故郷の緑を恋しがり、子供たちを自然のなかで育てたいというのだが、その理由がとてもよくわかる。自然は当然と重なり合っている。
 さらに注目したのが、ジョエル・エドガートの「仕事ぶり」。左官仕事なのだが、いつも「水準器」をもっている。「水平」と「まっすぐ」を「水準器」で確かめている。そうか。仕事が「人間性」をつくるのか。そういうことを納得させる。趣味(?)で車の整備をしているのもおもしろい。いまあるものをどうやって改良していくか、どうすればよりよいものになるか、そういうことを「手仕事」としてやっている。そういう「仕事」の延長に「結婚の自由」がある。
 ふたりにとって、それは「自然」なことであり、「当然」なことだった。だから、この映画は、それを「劇的」に描くことを避けた、とも言える。
 最初に戻って。ライフのカメラマンが取材にくる。取材されている。しかし、そんなことは自分の関心外。テレビをいっしょに見て、笑って、体を寄せ合う。それは自然で当然なこと。自然と当然が、そこにはっきりと切り取られているから印象的なのだった。
 判事に訴えたいことも、自然で当然のことだけ。他人が自分たちをどう思うかは関係がない。愛しているから結婚する、一緒にいる。自然で当然のことをしているだけ、ということだろう。そこに、強さがある。
                      (KBCシネマ1、2017年03月12日)


 
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