斎藤茂吉『万葉秀歌』(9)(岩波書店、1980年、06月25日、第58刷発行)
引馬野ににほふ榛原いり乱り衣にほはせ旅のしるしに 長奥麿
「榛原」は「萩原」(萩が咲き誇っている原)と茂吉は書いている。一方で「榛の木原」という説も紹介している。
私はこの歌を読んだとき、私の故郷の小学生が作った自由律の俳句を思い出した。正確ではないが「山から帰った父 服が木の匂いする」というものである。同級生の父の、谷内茂という教師が俳句教育に熱心で、小学生に教えていた。何かの機会に、その句集のようなものを読んだのだが、忘れられない。山には山の、つまり木には木のにおいがある。それは服にしみつく。万葉の作者は、自分でにおいをしみこませているのだが、小学生の父はそういうことをしているわけではない。子どもが山のにおいに気がついた。そこには、なんともいえない、父親への愛情のようなものがある。父のことをいつも見ている視線がある。目だけではなく、全身で父をつかみとっている。それに感心した。
万葉の歌は「にほふ」「にほはせ」と繰り返している。万葉には、こういう繰り返しが多いが、それが自然でとてもいいなあ、と感じる。「は行」の音の、不思議な透明感がにおいを明るくしている。
あられうつ安良礼松原住吉の弟日娘と見れど飽きかぬかも 長皇子
「あられ」「安良礼」の繰り返しが、とてもおもしろい。「あられうつ」は造語と茂吉は書いている。日本語は、繰り返しが好きなのだと思う。音を繰り返すと「響き」が肉体に残る。「弟日娘(をとひをとめ)」も音が響きあう。
大和には鳴きてか来らむ呼子鳥象の中山呼びぞ越ゆなる 高市黒人
「鳴きてか来らむ」と「中山」に、「鳴く/鳴かない」の交錯を感じるのは私だろうか。「鳴かない」という錯覚を起こす音があるからこそ「鳴く(鳴きてか来らむ)」の鳴くという動詞が非常に印象に残る。「呼子鳥」と「呼びぞ越ゆ」にも、不思議な呼応がある。万葉の人は、「耳(音)」でことばを動かしていたんだなあ、としきりに思う。
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