高柳誠『フランチェスカのスカート』(2)(書肆山田、2021年06月05日発行)
「柳絮」は「霧」に形態が似ているかもしれない。
昨日まではどこか凛とした身振りで周囲の空気を
支配していた冷気の底が割れると、頬をなでるやわらかな風に紛れ
て白い使者たちがひそかに町に忍び込んでくる。
「冷気の底が割れると」と高柳は書いている。季節に関係している。それは「やわらかな風」に乗る。そして「白い」。なによりも「ひそやかに」(音をたてずに)「忍び込んでくる」ところが似ている。「冷気の底を割る」かどうかは別にして、「頬をなでるやわらかな風に紛れて白い使者たちがひそかに町に忍び込んでくる。」という描き方は、主語を「霧」にしても通じるだろう。
「ひそやかに/忍び込んでくる」という運動の形態が「霧」と「柳絮」をつないでいる。「霧」では「ひそやかに」ということばはつかわれていなかったが「秘めやかな」ということば、さらに「自在に伸縮する」という表現があった。「秘やかに/自在に」忍び込んでくる柳絮と言い直すことができる。
季節はずれの雪が舞い踊るか
のように、無数の白い綿毛が穏やかな青空全面を覆いつくしている。
この部分には、高柳のことばの運動の特徴のひとつがあらわれている。「柳絮」は「白い綿毛」、それは「雪」ではない。その季節的にかけ離れたものをあえて結びつける。そして、その接着剤として、季節「はずれ」ということばをつかう。「はずれている」。そのことを強く意識している。
ほんらい、それは結びつくものではない。だが、結びつけるのである。その運動を「詩」と定義しているのかもしれない。
そのことを意識すると、次の部分こそが高柳の書きたいことなのだとわかる。
一つ一つの綿毛が一つ一つの世界をもち、それら
が互いに連係を保ちながら全体で一つの神秘の舞踏を織りなす。
「連係を保つ」。高柳は、ある存在を把握するとき、その存在がどんなふうにして世界とつながっているかを見る。つながりの中に「世界」を見る。ある「一つ」の存在(柳絮、あるいは霧)を出発点に、ことばがつなぐことができたところまでが「世界」なのだ。
綿毛の「一つ一つ」が連係するだけではなく、連係することで生まれる世界が「一つ」なのである。それは切り離すことができない。この切り離せない関係を、高柳は「神秘」と呼んでいる。一瞬の連係ではなく、連係を「保つ」とき、そこに「神秘」が生まれる。
きょう、私が棒線を引いたのは「連係を保ちながら」ということばである。
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