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詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

フランソワ・オゾン監督「婚約者の友人」(★★)

2017-10-26 08:33:36 | 映画
監督 フランソワ・オゾン 出演 パウラ・ベーア、ピエール・ニネ

 フランス人が見たドイツ人の恋愛不器用さがテーマ? あるいはフランス人はやっぱり不倫が大好きがテーマ?
 よくわからない。
 一か所、パウラ・ベーアとピエール・ニネが、かつてパウラ・ベーアが婚約者と歩いた野原を歩くシーン、トンネルをくぐり抜けるとモノクロ画面がカラーにかわる瞬間だけが見どころかなあ。
 そのシーンを含むドイツのシーンは、ドイツ人の恋愛下手というか、純情さ加減がなかなか美しい。戦場で婚約者を殺した男に、そうとは知らずにだんだん惹かれていく女。男が語る話を、そのまま信じ込む感じがなかなかおもしろい。
 パウラ・ベーアの婚約者の両親までもが純愛のめりこみ、パウラ・ベーアを応援する。へええっと、驚きながらみてしまう。
 名前だけだが、「リルケ」が出てくる。ドイツ人の精神はリルケのように透明ということかなあ。
 これが後半、舞台がフランスになると、実に不思議。
 パウラ・ベーアの「純愛」を、フランスの誰もが信じない。
 「あら、あんたわざわざ男を追いかけてフランスへやってきたの」「息子を奪う気ね」「婚約者から恋人を横取りするつもりね(男には、婚約者がいる)」という具合。息子(男)がパウラ・ベーアにこころを動かされたというのは「事実」だろうけれど、それがどうした?という感じ。
 フランスの金持ちの男が、ドイツの貧乏人の女と結婚するわけがない。結婚は「恋愛」とは違っている。「恋愛」があって「結婚」があるわけではない、と突き放した感じになる。
 本音がそのまま出ているんだろうけれどね。

 で、ここから振り返ると。

 あのモノクロからカラーに変わる瞬間のひとつづきの変化というのは、パウラ・ベーアが婚約者を忘れ、男にひかれていくときの始まりであり、女のこころの変化をあらわしているということになる。婚約者(恋人)を思い出しながら、新しい男にひかれていく。
 これを「美しく」撮る、というのは。
 そう、フランスの男は、ほかの男を愛している女が自分の方に傾きかける瞬間をいちばん美しいと感じているという証拠である。だから、その瞬間を「美しい」ものとして懸命に描く。そして、ずっーと自分をひとすじに愛してくれる女よりも、途中で心変わりしてくれる女の方が好きということ。なぜか。心変わりをするということは、自分の方に魅力があるということを証明していることになるから。
 まあ、こういう「論理」は、自分勝手なわがままフランス人しか思いつかない論理だけれどね。
 それを、平然と描ききるところに感心しないといけないのかもしれないなあ。

 パウラ・ベーアからの最後の手紙(最初の手紙?)で、パウラ・ベーアが嘘をついていると感じるドイツの、婚約者の両親の、その最後の演技がなかなか。ドイツ人は、ほんとうに純粋。悲しくなるくらいに純粋、と私は思ってしまうのだった。
 両親は最初ピエール・ニネにだまされ、次にパウラ・ベーアにだまされる。息子をフランス人に奪われ(殺され)、信じていた息子の婚約者にもだまされる。裏切られる。これは、つらいね。
 なんてことを思うのは、私が日本人だからだろうなあ。フランス人は、ドイツ人には恋愛なんかわからない、というだけだろうなあ。
 そういう意味では。
 恋人動詞の秘密の会話(手紙)にはフランス語がつかわれ、ドイツ語がつかわれない、というのは意味深だなあ。手紙なんて、だいたい他人のものを読んではいけない。そういうプライバシーはどこの国でも共有されている。それなのにフランス語でやりとりする婚約者と恋人。そして、それを盗み見するのはドイツ人ではなく、フランスの兵士。ここから映画を見直すと、映画ではなく「小説」になっていく。映画はオリジナルではなく、「原作」があるのかもしれない。
                      (KBCシネマ、2017年10月25日)


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