さざん花/異聞
本のなかで、さざん花が雨にぬれて、しだいに荒れていく。古い家の生け垣の花だが、家の持ち主が死んで以来、まわりの木々もまた死んだものとみなされて、何の手入れもされていない。蜘蛛が破れ目のない巣を広げているのと対照的である。
本のなかの、さざん花の描写には魅惑的なところがある。衰えていくのに、咲き始めるときよりも強い力をもっている、という説明の後に「桃色の花びらの縁が金色に錆びる」とつづけられ、その一行を読んだとき、私は実際にその金色を見に行かなければ本は終わらないと思い込んでしまった。
桃色の花の金色の錆びた縁取りは、そのうちにほんとうの花びらになって、アルファロメオが止めてある角の家で枯れた。一枚は赤いボンネットをかすめ、アスファルトの上に落ちる。すると真昼なのにカーテンを閉めた部屋のなかに夜が始まり、内部からその家は荒れていく。「互いのこころを読みあうので、ことばが失われていく関係のように。」
本のなかで、さざん花の家には輝かしいものと暗いものの両面があって、うわさとなってひろがり、買い手のないままその通りを歩くひとの目印になるのだった。(この一文は、あとになって棒線で消され、中断したまま破棄される。)
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谷内修三詩集「注釈」発売中
谷内修三詩集「注釈」(象形文字編集室)を発行しました。
2014年秋から2015年春にかけて書いた約300編から選んだ20篇。
「ことば」が主役の詩篇です。
B5版、50ページのムックタイプの詩集です。
非売品ですが、1000円(送料込み)で発売しています。
ご希望の方は、
yachisyuso@gmail.com
へメールしてください。
なお、「谷川俊太郎の『こころ』を読む」(思潮社、1800円)と同時購入の場合は2000円(送料込)、「リッツォス詩選集――附:谷内修三 中井久夫の訳詩を読む」(作品社、4200円)と同時購入の場合は4300円(送料込)、上記2冊と詩集の場合は6000円(送料込)になります。
支払方法は、発送の際お知らせします。
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