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詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

陶原葵『帰、去来』

2017-06-05 10:09:09 | 詩集
陶原葵『帰、去来』(思潮社、2017年04月29日発行)

 ことばを読む。そのとき最初に感じるのは何だろうか。私は、ことばとことばの「間合い」。「間合い」にリズムがあると読みやすい。リズムがないとつまずいてしまう。
 たぶん私の年齢と関係があるのだと思うけれど、私は、「最近の若い人」のリズムについていけない。
 陶原葵『帰、去来』の「窟」という作品。

花の首の折れ方
その細胞の潰れ方が

 この二行はとてもおもしろい。「花の首が折れる」を「細胞が潰れる」と言いなおされる。「方」ということばを反復することで、言い直しであることを明確にしている。これはリズムとしてもとても納得できる。リズムに従って、ことばの視線が「花の首(茎)」に集中していく。「ことばの肉体」を感じるのは、こういうときである。
 あ、傑作が誕生する、という期待をいだきながら読み進む。

花の首の折れ方
その細胞の潰れ方が

並んでいる

わたしが首をまわす亀裂音は
そとの耳 にも響いている か

 私は、しかし、つまずきはじめる。「並んでいる」までの一行空きが、「方」を反復したリズムとかけ離れている。「方」を反復する。反復はリズムの強調。ここからリズムが加速していくのなら納得できるのだが、反復してリズムを強調したあと、突然中断してしまうと、私のような年齢(私だけかもしれないが)では、次の「一歩」をどう動かしていいかわからなくなる。
 詩は、さらに一行空きを挟んで「わたしの首」「亀裂音」へと動いていく。「わたしの首」は「花の首」を引き継いでいる。「亀裂音」は、しかし、「潰れる音」を引き継いでいない。言い直しにはなっていない。もちろん、言い直しでなければならない理由はないし、陶原のこの作品の場合、「首」から「耳」へと「肉体」(感覚)が拡大/拡張していくのだから、これはこれで、もうひとつのリズムと言える。
 だが、そのあとはどうなのだろう。
 連がかわって、詩はこうつづいていく。

夜 にはまだときおり
覆水を手ですくい
集めようとしている のだが

行き交うひとはみな
満杯の蛍籠をさげている

(どこかで風船の糸が絡まりますので


地にはりついた月、

 私は完全についていけなくなる。「間合い(リズム)」がどうなっているのか、わからない。
 「首」(折れる/潰れる)が「首(まわす/亀裂)」を通って「耳(音/響く)」に動いていくのは「人間」の「肉体」(感覚)が連続しているととらえ直すことができるが、そこから突然「手」へとことばが飛躍する。さらに「蛍(籠)」「月」という「光(視覚)」へと移動する。
 私の「肉体」は、こういう具合に動けない。「耳(聴覚)」から「手」へ、さらに「手」から「目(視覚)」へとはスムーズには連続しない。
 もちろん「折れ方」「潰れ方」から「触覚(手)」へとつながる道はある。そしてそこに「視覚(折れ方/潰れ方)」もつながる。けれど、それはそれで別の道であって、途中に「耳(音/響き)」を挟むとぎくしゃくしてしまう。
 陶原のことばは、どこへ行こうとしているのか、と思う前に、どうしてこんな「ずれ方」ができるのか、私の「肉体」はわからなくなる。

 「眠、度、処方」という作品。

それ おぼえている夢と そうでないものがありますが
どのように ふりわけられているのでしょう

 とても魅力的な行で始まる。

「……大きさが ちがうのですね」

気のもちよう、とか 考えかたのちがい、なども
大きさ、でしょうか

 カギ括弧(他者の声)をバネにして、ことばが加速していく。「考えかた」ということばがある。「考え方」。「方」というものが、ひとつの「リズム」であり、(たぶん陶原の詩のキーワードになる)、とてもおもしろいのだが……。
 そのあと、「浸透圧」が出てきて(ここまでは納得できる)、それが「魚/眼」「膜/ミズスマシ」を経て「死んだ貝(開かない)」などを経て「かちん、と あたる」「触れる」という動詞へ動いていく。

 「考えかた(方)」の「方」というのは、一種のパターンだが、そのパターンは私の知らないものである。私の肉体はそういうパターンを経験してきていない。だから、ついていけない。
 最初から「ついていけない」のなら気にならないが、書き出しはぐいと引き込まれる。私の「肉体」が体験してきたもの、「肉体」がどこかでおぼえているものを刺戟するのだが、ことばが進むにつれて、そのことばといっしょに動く「肉体」とはどういうものなのか、つかみどころがなくなる。つかめなくなる。
帰、去来
陶原 葵
思潮社

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