指と、ことば
人指し指、中指、薬指……
女の三本の指は額を横にたどっていたが、
頬骨のふくらんだあたりで薬指は宙に浮き、
残った二本がゆっくり下の方へすべる。
唇のところで薬指がおりてきて、触れる。
人指し指と中指は口の横にとどまり、
支点のように薬指を動かしている。
薬指は上唇の上を往復したあと
ぬれた下唇をたどり、
「私の指をことばにして」と突然要求する。
その目が何を思い出したのか遠いところから輝く。
階段に猫。うずくまっている。濡れたままの靴下。エレベーターの開く音
--次々に思い出すが、いつのことか覚えていない。
外は雨。枯れた枝を雫が動くときに光るに違いない、
女の指のように……と
ことばは言いたことを絵にして目を閉じた。
*
「谷川俊太郎の『こころ』を読む」はアマゾンでは入手しにくい状態が続いています。
購読ご希望の方は、谷内修三(panchan@mars.dti.ne.jp)へお申し込みください。1800円(税抜、送料無料)で販売します。
ご要望があれば、署名(宛名含む)もします。
「リッツオス詩選集」も4400円(税抜、送料無料)で販売します。
2冊セットの場合は6000円(税抜、送料無料)になります。
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その目が何を思い出したのか遠いところから輝く。
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クリエーター情報なし | |
思潮社 |
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ヤニス・リッツォス | |
作品社 |
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2冊セットの場合は6000円(税抜、送料無料)になります。