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詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

宮せつ湖『雨がふりそう』

2019-10-15 00:00:00 | 詩集
雨が降りそう
宮 せつ湖
ふらんす堂


宮せつ湖『雨がふりそう』(ふらんす堂、2019年09月20日発行)

 宮せつ湖『雨がふりそう』は「抒情詩」である。たとえば「汀」の後半。

砂浜に群れる
白い小さな花は
特別な夜空が好きなのでしょう
閉じることを 忘れています

濁音が砕け 零れ散る音
同時に たくさんの私がよみがえる音
あなたとの 花火の時間
花火の時間 あなたとの

水、
水の音
花火と花火の間を打つ汀の水音に
どうして気づいてしまったのでしょう わたし

 美しいことばが丁寧にととのえられている。「濁音」ということばさえ「零れ散る」ことで美しい軌跡を残す。「たくさんの私がよみがえる音」とは高鳴る胸の鼓動だろう。もし「あなた」が「花火と花火の間を打つ汀の水音に」気づくなら、きっと「私の胸の鼓動の音」にも気づくだろう。「私の鼓動」は「花火と花火の間を打つ汀の水音」のように、それを聞くひとには聞こえるのだ。
 この聴覚の繊細さに私は驚くが、好きなのは「初蛍」。

蛍は月明りを嫌うという

闇に燈る蛍のいろは
月の光と同じいろ
ふぉろうふぉろうと祖先が零すいろなのに
どうして?

黄々々々黄々々々々
ほそく小さく蛍の声
黄々々々黄々々々々

 「ふぉろうふぉろう」という「音」が私にはわからない。やわらかくつかみどころがない。宮の他の詩にでてくるフルートの音がここに隠されているかもしれない。私にはわからないが宮には、それ以外のことばではあらわすことのできない「必然」としての音の形。それを感じる。
 そのあとの「黄々々々黄々々々々」も、とても変である。「ふぉろうふぉろう」が「音」から「形(蛍が飛ぶときの軌跡)」になるのだとしたら、「黄々々々黄々々々々」は蛍の明かりが消えたりともったりしながら「音」にかわる様子を描いている。
 どちらも「むり」がある。
 言い換えると、これはそのままでは他人につたわらない。つまり、そこに書かれているのは学校で習う「共通語」とは違うことばである。だからこそ、そこに詩がある。「共通語」ではいえない宮の必然としての、「宮語」というものがある。
 宮は、ことばをととのえ整理しているのだが、まだそこには整理しきれない「不純物」があり、そしてその「不純物」がもっとも透明であるという矛盾もある。この矛盾のなかに「抒情」がある、ときょうは定義しておく。


*

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