谷川俊太郎詩集『虚空へ』百字感想(6)
(意味ではなく)
意味ではなく
歓びと
哀しみが
ある
苦しい
日々に
一生に
解釈しない
計算できない
カラダと
ココロ
永遠から
今が
こぼれる
*
「ある」。「こぼれる」ものがある。「こぼれた」ではない。過去形ではなく「今」。それを何と呼ぶか。喜怒哀楽ということばがあるが、谷川は「怒り」を書いていない。「怒り」は「今」を否定する「意味」なのか。
*
(海を見下ろす崖)
海を見下ろす
崖に建つ
小屋で
私は暮らす
遠くから
誰かが来る
実一つ土産に
腐るのか
芽吹くのか
その実は
泥にまみれて
丘で
仔羊が跳ね回る
昼
*
「実」を「身」と読み替えてみる。「身ひとつ」でやってくる。何も持っていないようだが「ことば」を持っている。それは「仔羊」になって「跳ね回る」。有朋自遠方来。いいね、理想の友だ。
*
(ミエテキコエテ)
ミエテ
キコエテ
サワレル
ダケジャナイ
カンジル
マンナカニ
イルノガ
ボク
ナンニモ
ワカラナイカラ
スゴイ
ウン
コワイクライ
スバラシイ
*
「ウン」は肯定のことば。否定の「ウウウン」と比べるととても短い。「イヤ」と比べても短い。ほんとうの肯定は考えない。「カンジル」、直感する。「ワカラナイ」けれどではなく、「ワカラナイカラ」こそ。