谷川俊太郎詩集『虚空へ』百字感想(7)
(赤児の笑みが)
赤児の
笑みが宇宙へ
開く
花の
秘密と
ひとつになって
ヒトに
ひそむ
知り得ぬ
悪
死ねば
この星の
大地が
償うだろうか
*
「秘密」にふたつの意味がある。人間の知り得ない絶対的真理。人間の知られたくない揺れる心理。赤ん坊は、それを区別しない。未分節。謎のまま、世界を開いていく。そして、ことばと人間は、いつでも「ひとつ」。
*
(オナカそれとも)
オナカ
それとも
セナカ
かな?
寂しさが
澄む
ところ
秋の陽を
浴びて
歩く
無色の
幸せ
遥かな
海
*
「寂しさが/澄む」は「寂しさが/住む」。「棲む」と書くとより寂しくなる。オナカとセナカは「ナカ」という音を持っている。「すむ」は「澄む/住む/棲む」を持つ。「遥かな」は「かな?」という疑問を誘う。
*
(自然に生まれ)
自然に生まれ
自然に
還る
簡素な
いのちの
複雑精妙
畏れ
慄き
戯れ
歌って
罪なく
消え失せ
ヒトは
自失
*
「自然」は「しぜん」か「じねん」か。「自由」という意味につかえるのは、どちらだろう。こういうことは断定しない。分離、分節しない。先に読んだ「セナカ/オナカ」のように「ひとつ」のものとして生きていく。