マルケスの文体
マルケス「予告された殺人の記録」はルポルタージュ風の、簡潔な文体の作品である。「百年の孤独」「コレラ時代の愛」「族長の秋」のような、まだつづくのか、という凝った文体が特徴的なわけではない。
しかし。
写真は、小説の最初の方の部分だが、「era una costumbre 」以下の部分がいかにもマルケスらしい。(長いので、写真で紹介。)
現実にはピストルの弾がクロゼットを突き破り、壁をぶち抜き、隣の家、広場を超えて、教会の奥の等身大の石膏像を粉々にしてしまうということはないだろう。まるでミサイルだ。この文章を成り立たせているのが、途中の「con unestruendo de gerra」だね。「戦争のときの轟音のような」とでも言えばいいのか。おおげさだけれど、このおおげさが全体を生き生きさせている。この挿入がなければ「絵空事」だけれど、その「絵空事」を現実にかえることばの運動。これは、文学にだけ許された特権。
こういうのって、やっぱり好きだなあ。笑い出してしまう。
谷川俊太郎詩集『虚空へ』百字感想(15)
(悪は)
悪は
ヒトのもの
天地を
他所にして
手足は
具体
ココロは
抽象
地を掘り
天に焦がれる
ヒトの生き死に
朝の汀に
詩の
足あと
*
足跡ではなく「足あと」。なぜ、ひらがなにしたのだろう。「跡」という具体的なものが消えて、「音」が広がる。具体的なものをもとめて。そのとき「足」が「肉体」として見えてくる。砂に触れて、砂がくぼむ。
*
(言葉は騙り)
言葉は
騙り
手足は
黙々
星辰に
疎く
人事は
不断
功を誇り
嫉視を
斥け
自我を
祀る
無恥
*
「騙る/語る」「星辰/精神」「無恥/無知」。音で聞けば、私はきっと間違える。「不断/普段」も間違えるかも。「疎く」が「有徳」なら、「嫉視」にも同音のことばがあるか。「ある」と語れば、騙るになるか。
*
(気持ちが)
気持ちが
淀む
朝
私は
何を
待っているのか
一日は
遅々として
明日は
迅い
言葉に
囚われて
言外へ
亡命する
*
「亡命する」。「難民」の方が私にはしっくりくる。「政治難民」ということばがあるが、「難民」が「亡命(者)」より多いからだろう。「難民になる」ではなく「難民する」という動詞が生まれてくるかもしれない。