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詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

中井久夫訳『現代ギリシャ詩選』読む(74)

2024-01-31 19:30:01 | 中井久夫「ギリシャ詩選」を読む

 ここからはオジッセアス・エリティスの作品。
 最初は「エーゲ海」。三つの断章で構成されている。しかも、その一行一行が短く、体言止めの行が多い。イメージが並列しながら世界が展開する。そのなかから一行だけを選び出すのはあまりにも乱暴すぎるかもしれないが。

花嫁、船を待つ。

 「Ⅰ」の部分の二連目の最後の行。読み方は二通りに可能だろう。助詞「が」を補って花嫁「が」船を待つ。「と」を補って花嫁「と」船を待つ。後者の場合、花嫁といっしょに船を待つことになるのだが、意識の重心は「船を待つ」ではなく、「花嫁」になるだろう。船を待っている、ただ待っているのではなく、花嫁と待っている。意識は花嫁を離れない。花嫁と一体になっている。詩人が花嫁の気持ちになっている、という感じか。
 どっちだろう。
 手がかりは「が」を補ったときの印象である。(あるいは「が」を省略したときの印象である、と言い換えてもいい。)「が」があると、一行が散文的になる。読点で区切り、一呼吸置くと花嫁と船が同じ強烈さで迫ってくる。いや、花嫁の方が印象が強くなる。主語であることが、単に文法の問題ではなく、主役は花嫁だという印象になる。
 ここからもう一度「と」を補った行を読み直すと、こんなことも考えられる。私は(詩人は)花嫁「と」船の両方を待っている。主語は、書かれていない「私」になる。花嫁は船に乗ってやってくる。私と花嫁が船に乗って旅に出るのではなく、私は船に乗ってやってくる花嫁を待っている。このときも、本当に待っているのは、花嫁。船は「補足」になる。
 いずれの場合にしろ、この詩では、花嫁に焦点が当たっている。助詞を省略し、そこに読点「、」を置くことで、中井は「焦点」が何であるかを明確にしている。「が」にしろ、「と」にしろ、助詞を補った瞬間に、そのスポットライトは消え、平板な風景になる。

 いったい原文はどう書いてあるのだろう。そのことが非常に気になる訳である。

 

 


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中井久夫訳『現代ギリシャ詩選』読む(73)

2024-01-30 14:44:33 | 中井久夫「ギリシャ詩選」を読む

 「陶工」。壺や鍋をつくっている陶工。土が残った。だから、

女を造った。乳房を硬く大きくした。

 ギリシャ語では、どう書いてあるのだろうか。たぶん、句点「。」ではなく読点「、」でつながる一行、いや、読点さえもないかもしれない。それ以上に気になるのが「硬く」ということばである。
 粘土でつくるおんな。乳房がやわらかいわけがない。どうしたって硬い。
 そこで、思うのだ。たとえばミロのビーナスの乳房。あれは硬いか、やわらかいか。大理石だから、触れば硬い。しかし、見かけはどうか。どれくらいのやわらかさか。
 ここには、男(陶工)の夢が託されている。それは詩を最後まで読むとわかるのだが、「硬さ」というひとことで、詩の展開を「予言」させているところがとてもおもしろい。そのポイントを緊張感のあることば、文体で中井は訳出している。

 

 

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中井久夫訳『現代ギリシャ詩選』読む(72)

2024-01-20 22:38:27 | 中井久夫「ギリシャ詩選」を読む

 「井戸のまわりで」。女たちが水を汲みにきている。誰か(恋人かもしれない)が小石を投げる。壺に当たってしまう。壺が壊れる。しかし、

水はこぼれない。水はそのままだった。

 これは非現実的だが、一瞬のこととしてならあり得る。こぼれる前、水は壺の形のまま、そこに立っている。映画の、ストップモーションのよう。そのまま動かない。そこに緊張がある。心臓が止まりそうなくらいの。
 「水は」の繰り返しが、その緊張を高める。
 原文は「水は」を繰り返していないかもしれない。一行一文かもしれない。しかし、中井は、それを二文に分けた。分けながら、「水は」を繰り返すことによって緊張感を高めている。「分断」と「接続」の、緊張した時間。とりかえしのつかない時間。
 というのも。
 たぶん、その井戸のまわりには、石を投げた男をつかまえようと待ち構えている敵がいるのだ。壺が割れれば、誰かが(隠れている男が)石を投げたことがばれてしまう。そう思ったのは、隠れている男だけではない。恋人の女も、そう思っただろう。いや、女の方がいっそう緊張し、金縛りにあったみたいに、そのまま動けないでいる。その、声にならない緊張感を、この一行は表現している。

 

 

 


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中井久夫訳『現代ギリシャ詩選』読む(71)

2024-01-14 21:18:54 | 中井久夫「ギリシャ詩選」を読む

 「仕事を果たす」。「仕事」は何を指しているか。読者の想像力に任されている。

木の葉が一枚。その微かなそよぎ。もうそこからおれは入れる。

 「そこ」とはどこか。これも読者の想像力に任されているのだが、「そこへ入ること」、それが「おれの仕事」だとわかる。それは誰もができる仕事ではない。彼にしかできない。
 詩は「そこ」を起点にして、劇的に変化するのだが、この劇的な変化の前に、「木の葉が一枚」と書き、それを「その」で受け止めながら「微かなそよぎ」へ「入っていく」という運動がある。すでに運動が始まっていて、そのあとで「そこ」からということばがつづく。この畳みかけるスピードが、読者の想像力を引っ張っていく。すべては読者の想像力に任されているのだが、一方で、その想像力は強い力でリッツッォスに引っ張られている。この呼吸を、中井は句点「。」を多用することで「演出」している。
 映画で言えば、「長まわし」ではなく、非常に緊張感のある一瞬のカットの連続。切断されているのだが、それがあまりにも緊密なので連続して見える。そういう手法だ。

 

 

 


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中井久夫訳『現代ギリシャ詩選』読む(70)

2024-01-13 16:26:17 | 中井久夫「ギリシャ詩選」を読む

 「残骸」。記憶の残骸。残骸ということばには、否定的な意味がある。しかし、

きみの耳の下にちらりと小さな影が見えた。

 これは、どうだろうか。
 このあとの行に「これだけ」ということばがあらわれるが、「これだけ」は美しさをひめている。「影」だから、永遠に存在するわけではない。光があるとき、その一瞬だけ「ちらり」と存在した。
 しかし、ひとはなぜ、そういう「小さいこと」を忘れることができないのだろうか。思い出は小さくなれば小さくなるほど美しくなる。
 それにしても、この「ちらりと小さな影が見えた」ということばの順序の絶妙さ。「小さな影がちらりと見えた」では、何かが違ってくる。「ちらり」は、これからあらわれるものを予感させる。その予感によって「小さな影」が小さいけれどとても印象深くなる。こんなところにも中井の訳のおもしろさがある。

 

 

 


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中井久夫訳『現代ギリシャ詩選』読む(69)

2024-01-12 21:45:05 | 中井久夫「ギリシャ詩選」を読む

 「屈伏」。この作品も、映画の一シーンのよう。その一シーンの中にある、微妙な動き。それを、中井は、こう訳している。

髪は、二羽の大きな鳥のように肩に止まった。

 「髪は、」の読点「、」。
 これは、すごい。
 意味としては(情景としては)、この読点があってもなくても変わらない。前の部分を説明すると、女が窓を開ける。風が入ってくる。その風に吹かれた髪が……。
 ここで、大きな問題が起きる。
 その髪の動きを見ているのは誰か。詩人(リッツォス)が見た、と判断するのがふつうかもしれない。もし映画のシーンなら、観客がそれを見る。
 しかし、私は、違うと思う。
 この髪を見たのは、女なのだ。女が自分の髪が風に吹かれ動いたの見た。そして、「二羽の鳥が肩に止まった」と感じたのだ。「髪は女の命」とはギリシャでも言うかどうかは知らないが、髪に思い出があるのだ。だから、女は髪に、自分の髪の動きに目を止めたのだ。しかも、「すぐに」ではなく、「髪は、」と一呼吸がある。「二羽の鳥」は比喩だが、女自身も、そのとき「比喩」になっている。比喩になることによって、女自身であるよりも「感情」が強くなっている。感情がより鮮明に動き始めている。
 どう動いたか。
 それは後半に書いてあるのだが、五行の詩の中に、一回だけあらわれる読点の、絶大な力。中井の訳は、ほんとうにおもしろい。
 ついでに書いておけば、ギリシャ語(原典)を知らずに書くのだが、リッツォスは読点を書いていないと思う。中井が女の「呼吸」を感じ取って、女とシンクロして、読点を書き加えているのである。ここに、中井の誰にもまねすることができないすごさがある。

 

 

 


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中井久夫訳『現代ギリシャ詩選』読む(68)

2024-01-09 22:14:27 | 中井久夫「ギリシャ詩選」を読む

 「罪」。リッツォスの詩は映画的手法で書かれている、と中井は言う。この六行の詩も、そうである。非常に短い。しかし、映画のアップのように、ぐいと迫ってくる一行がある。

それから誰かに言い訳するように

 これは、いわば「顔」のアップである。あるいは「手」のアップかもしれない。ほんのわずかな動きなのかに、感情の動きが見える。
 他の行が人の動き、ものの動きそのものを描いている。いわば、ふつうの映画のように、その「情景(あるいはアクション)」が見える。しかし、この一行だけは「アクション」が見えない。映画でいうなら、こういうシーンでは「情」を読み取らなければ、何も見えない。肉体は動かないが感情が動いている。その瞬間を、ことばにしている。リッツォスが見た感情、中井が共感した感情が、そこにある。

 さて、「誰に」言い訳をするのか。それは、読者に任されている。スクリーンから読み取る感情がどういうものか、それが観客に任されているように。
 中井が、いかに映画が好きかわかる一行である。

 

 


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中井久夫訳『現代ギリシャ詩選』読む(67)

2024-01-07 22:35:02 | 中井久夫「ギリシャ詩選」を読む

 「見知らぬ部分」。この詩も八行。その終わりの方。

あんな上に靴と衣服を置いて来た。さて、

 なぜ「あんな上に靴と衣服を置いて来た」のか、理由は書いていない。「あんな上に」とは、いったいどこを指しているか。解釈は読者に任せ、

さて、

とつづける。「さて」は話題を転換するだけではなく、その転換のなかに疑問を含んでいる。その疑問へ、リッツォスは読者を誘い込む。この呼吸がとてもいい。有無を言わさない。「それでは」「ところで」では間が抜ける。長いし、疑問が含まれている感じも減ってしまう。
 中井の訳文は、意味だけではなく「呼吸」を伝える。疑問は、急を要している。

 

 

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中井久夫訳『現代ギリシャ詩選』読む(66)

2024-01-06 21:17:42 | 中井久夫「ギリシャ詩選」を読む

 「いつの日かの休日」。この詩は八行。とても短い。しかも「空に雲がいくつか。」のように「○○に○○」という定型でことばがつづいていく。しかし、終わりから二行目で突然この定型が破られる。

一枚の木の葉がきらり光る。

 一枚の木の葉に光がきらり、と訳すことができるはずである。しかし中井は、ここであえて定型を破っている。それは、その直前の「詩に言葉。」がとても強烈だからかもしれない。
 直前の行でつまずく。そこから立ち直るためには「 一枚の木の葉に光がきらり」ではだめなのである。何かしら、動詞が必要なのだ。肉体を動かすことばが必要なのだ。そしてそれは、直前の「詩に言葉。」にも動詞を補え、と読者に要求してくるのである。ほんとうに読ませたいのは「詩に言葉。」それをどう読むか(解釈するか)、「一枚の木の葉がきらり光る。」のように言いなおすことができるかと読者に問いかけてくる。
 しかも、「詩の中で言葉がきらりと光る。」というような「まねごと」ではだめなのだ。これは中井が読者に向けて残した、重大な「宿題」である。

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中井久夫訳『現代ギリシャ詩選』読む(64)

2024-01-04 23:10:32 | 中井久夫「ギリシャ詩選」を読む

 「忘れられていた優しさ」は、お祖母さんの死を描いている。お祖母さんの顔の描写から始まり、性格の描写、その日の周囲の人たちの描写とつづく。そして、

雨がエルコメノス教会の石段で泣く。

 リッツォスの詩は映画的である、と中井は言う。その特徴がこの一行に集約している。カメラが教会の全体(あるいは教会とわかる範囲)をとらえた後、さーっと石段のアップに移る。石段に積もった雨、その表面に小さな水紋ができる。石段に映った空が(雲が)少し乱れる。その揺らぎが「泣く」かもしれない。いつも通っていた、その「石段」を、いまお祖母さんが上っていく。その足の動きが見えるような一行でもある。
 「エルコメノス教会」については、中井が注釈で、「詩人の生地にある」と書いている。興味深いのは「お祖母さん」に名前がなくて、教会には名前があることである。この対比が、この詩をドラマチックにしているとも言える。名前を聞いても、その周辺の人しか知らないお祖母さんが死んだ。その誰かわからない人にも、教会にも(その石段にも)、雨は同じように降る。

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中井久夫訳『現代ギリシャ詩選』読む(63)

2024-01-02 15:41:18 | 中井久夫「ギリシャ詩選」を読む

 「幼年時代--回復期」。この詩には、ちょっとした思い出がある。「回復期」ということばがあるのだが、私には病気になった少年が回復するときのことを書いているとは読めなかった。死んでいく、と感じた。対話の相手が天国の父というのも影響している。『リッツォス詩選集』(作品社、2014年7月15日発行)の「感想」でも、そう書いた。中井は、私の感想に、谷内は「死にゆく少年の詩と読んでいるが、これは病気の少年が回復して、従妹の家に遊びに行ける喜びを表した話と私には思われる」とわざわざ「注釈」をつけている。
 なぜ、死んで行く少年と思ったのか。

青い鹿が来るよね、

 この「青」が印象的だったのだ。
 馬の「青毛」と言えば、青光りのする黒い馬である。鹿の場合も、「青」には特別な意味があるかもしれないが、私は「青」を死の象徴と思ったのである。しかも、その「青」が三回も繰り返されている。そのあとに「天国」ということばが、もう一回出てくる。「天国にいる青い鹿」と思ってしまうのである。
 もし、茶色の鹿だったら、そうは思わなかったかもしれない。

 ここから少し脱線するが(自己弁護になってしまうが)、私は、実は、こういう「誤読」が好きなのである。間違っているとしても、その間違いには何らかの「根拠」というか、「私の真実」が含まれている。私は「青」を「死の色」と感じている。死の直前には、一瞬の「回復」がある。「回復」があるからこそ、次の瞬間の死が強烈なものになる。あのドン・キホーテも死ぬ直前正気に戻っている(回復している)。そして、死んでいく。そのことによって(だけではないが)、永遠に生き残る。
 私は、そう思いたいのである。
 少年は死ぬが、その直前に、一瞬、「幸福な回復」をした、と。

 また、別なことも思う。
 注釈こそつけているが、中井はよく私の「感想」を受け入れて、一冊の本にしてくれたなあ。この寛大さは、いったいどこから来るのだろうか。
 中井の訳詩と私の感想を一冊の本にする提案があったとき、私は「私の感想は、詩の背景(時代状況など)を無視しているし、誤読にもとづく感想だと思う。訳詩を傷つけることにはなりませんか」と質問した。中井は「詩だから、(論文じゃないから)、それでいい」と言った。
 私は、それに甘えたのだが、また、こんなことも思った。「誤読」のなかで出会うなにかもある、と。
 和辻哲郎は何かの本の中で、和辻が書いていることは専門家から見れば間違いかもしれないが、事実として間違っていても、私は自分の考えを間違えずに(正しく)書いているというようなことを書いている。考えていることが、ことばのなかを動いていく。そのときの「動き」そのものが正しいか(本当に自分が感じたことか、考えたことか)を大切にしているということだと思う。
 「青い鹿」を死の象徴と読むのは、リッツォスの意図とは違うかもしれないし、中井の解釈とも違う。しかし、それが間違いであったとしても、私が書いたことは私が感じたことであり、それを正直に書いている、と中井が判断してくれたのだと思う。
 人は「間違い」を通してでも出会えるし、「間違い」をおかしても生きていくことができる、と私は信じている。

 

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中井久夫訳『現代ギリシャ詩選』読む(62)

2024-01-01 21:30:15 | 中井久夫「ギリシャ詩選」を読む

 「三幅対」。三篇で構成された詩から一行選ぶのは難しいが。「一、たそがれまで」から、その三行目。

自分の内部に聞いたのかも。

 「外部」に存在するものを、「自分の内部」に聞く。そのとき「外部」と「内部」を区切るものは何だろうか。一人の人間に内部と外部があり、それを区切るものがある。もうひとりの人間にも内部と外部があり、それを区切るものがある。その区切るもの同士が触れ合ったとき、どちらの人間の区切るものが優先されるのだろうか。あるいは、区切るものと区切るものの間にあるもの、つまり「外部」は、そのときどんな形で存在するのだろうか。
 この私のことばは、私の「内部」から生まれたのか。それとも私の「外部」からやってきたのか。もし「外部」だとして、それはたとえば中井久夫の、あるいはリッツォスの「内部」とどう関係しているのか。
 「内部」ということばが、内部-外部-内部という「三幅対」を生み出す。

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中井久夫訳『現代ギリシャ詩選』読む(61)

2023-12-28 22:12:48 | 中井久夫「ギリシャ詩選」を読む

 「ミニチュア」。女が紅茶にそえるレモンを薄く切っている。

レモンの薄い切れは黄色い車輪。

 一度読んだら忘れることのできない比喩である。読者が忘れらないように、レモンの輪切りをつくった女も、それを忘れることができない。
 なぜなら。
 これを書いてしまうと、詩を読む楽しみがなくなるから書かないが、「薄い」にも「切れ(る)」も、実は比喩なのだ。比喩は、ただ単に何かを別のもので言い換えることではない。言い換えられたもの(存在)と、言い換えたもの(比喩)が交錯し、その交錯する向こう側から、言い換えることでしか表現できなかったものがあらわれ、存在と比喩を超えて世界そのものに変わっていく。それを手助けする形で「薄い」と「切れ(る)」が動いている。
 ギリシャ語でも「薄い切れ」と書いてあるのか。私の勝手な想像だが「薄い一片」くらいではないだろうか。これを「切れ」と訳すところに、中井の「魔法/魔術」がある。「輪切りのレモンの薄い一片」の方が「黄色い車輪」を連想しやすい。しかし、その連想を隠すように「薄い切れ」という。そのとき、その「薄い切れ」自体が、もうひとつの比喩になっている。

 

 

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中井久夫訳『現代ギリシャ詩選』読む(60)

2023-12-12 20:45:43 | 中井久夫「ギリシャ詩選」を読む

 「理解」。労務者がハーモニカを吹いている。女がとおりすぎる。そのとき、

女がおはようと誰かに言ってる。実に単純で自然な「おはよう」。


 実に単純で自然な「おはよう」というのは、「説明」である。詩なのだから、説明はないほうがいい、かもしれない。しかも、この説明は「実に/単純で/自然な」と、とても念入りである。「実に」はなくてもいいかもしれない。「単純」か、「自然」のどちらだけでも十分だろう。でも、リッツッスは、ことばを重ねている。もしかすると、この重複は、中井が考えたことかもしれない。
 ひとは、「実に/単純で/自然な」ことを理解できないときがある。そして、そのとき理解することを求められているのは、それが「実に/単純で/自然な」ことである。

 いま、ガザ(パレスチナ)では悲惨なことが起きている。ニュースを読みながら思うのだが、思想というのは、つまるところ「みんなが幸せでありますように」ということばにつきる。だれもが、言う。その「実に/単純で/自然な」ことばを理解しないひとがなんと多いことだろう。
 「思想」は、最先端(?)のヨーロッパの哲学者のことばのなかにあるのではなく、「みんなが幸せでありますように」と願いながら、それさえ言うこともできないひとのこころのなかにも生きている。
 そして、世界は、言いたいのに、言っているのに、それを聞こうとしないひとがいる。

 

 

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中井久夫訳『現代ギリシャ詩選』読む(59)

2023-12-09 18:32:47 | 中井久夫「ギリシャ詩選」を読む

 「いつの日か、おそらく」。二人が会話している。しかし、ことばはかみ合わない。

せめてあなたは眼で見ないで、と私は言いたいの。

 「あなたは眼で見ないで」の前に「せめて」ということばがある。このことばのつかい方はむずかしい。ふたりの会話そのもののように、なんだか、ほかのことばとかみ合わない。「せめて」あなただけは、なのか。「せめて」眼では、なのか。あるいは「せめて」見ないで、なのか。これは、区別しても仕方がないことなのだと思うが。
 なにかことばでは言いあらわせないものがあって、しかし、どうしても言わずにはいられないことがあって、その「何か」を指し示すようにして「せめて」が動いている。
 「眼で見ないで」という表現自体「理不尽」なのものだが、その理不尽に通じるような、屈折した思い、撞着した思いがこのことばを動かしていると思う。
 リッツオスの詩はドラマチックというか、ある映画の一シーン、ある断片のようなものが多いが、「断片」ゆえに連続した何かがわからないが、そこには矛盾した何か、主人公が生きてきた長い時間のなかで生じてきた、当人にしかわからない何かがあり、そのためにいつまでも印象に残る。この詩の「せめて」は、そうしたもののひとつである。ひとは「せめて」ということばをつかって自分の願いを言うしかないときがある。十分ではない、しかし「せめて」……。その「つらさ」のようなものが、強く印象に残る。

 

 


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