46 不動明王さまはライ麦畑の見張り番。
(おかあさん、)
不動明王さまというのは、右手に剣を立てて、左手には縄をもって
背中には炎を背負ってるから見た目はゴツいけど
それ、いまの言い方でいうと、
あんまり跳ねすぎて崖から落ちないように見張っている
ライ麦畑の見張り番といっしょなんだよね。
ぼくも好きだよ、不動明王さま。
一回、夢のなかで
「どうだ、ちょっと代わりにここに座ってみるか」と
スカウトされかかったこともあるよ。遠慮しといたけど。
正一にいちゃんが修行していた栃木のお寺さんは、
途中でグーグルマップが入らなくなるくらいの田舎にあったよ。
住み込みで修行できるように寄宿舎というか、寮みたいになってた。
入院しているときに観音さまが痛いところを
さすりにきてくれておかげで楽になると
あなた、ねえちゃんに言ったでしょ。
それね、正一にいちゃんがお滝をいただいてくれていることに、
感応して来てくださったおかげらしいと知って、
お礼の挨拶にうかがってきたんだよね。
遠かったわー、かなりあった。
夏なのに、そこ、涼しいくらいだったから
水ごりするのは、さぞ厳しい修行だったと思う。
正一にいちゃんは、
「もう、さむうてな、
先生と酒飲んでふたりであったまったわ」
ってことだったから
たいした修行じゃないじゃんとかってなめてたけど、
いやいやいや、間違ってた。
夏の夕方でも、もう水が冷たそうだった。
あれは大変な修行。お寺に実際行ってからは、
正一にいちゃんを尊敬するようになった笑。
あれは、なかなかできん。
ぼくがやったら、すぐ腹がいたくなってうんうんうなっとるレベル。
せっかくきたなら不動明王さまもお参りになりますか、と
すすめられたので
少し離れた公園みたいなところにあるという
仏像を拝みにいったのよ。
不動明王さまは、ね、二本足で立ってらっしゃって
なんとね、お顔がね、優しい少年みたいでね、
思わず、それ、オレだよ、オレ、オレの顔だよって思ったよ。
ネットでググって確かめようとしたけど写真はなかったわ。
でもね、あのときには気づかなかったけど
そこね、観音さまが立ってらっしゃったよ。
ああ、あなたが
うちの母親をさすりにきてくださったんですか。
どうもありがとうございました。
その節は、気づかず失礼いたしました。
天界は、どこで祈っていてもすぐ聞きつけて
動いてくださるネットワーク集団ですよね、存じております。
また、さまざまな人々の苦厄を
ぬぐいさってくださるよう、お願いいたします。
と、今さらながら
お礼を申し上げておきますね、
(おかあさん。)